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今更

新藤ゆず shinndou yuzu

高校二年生。兄は有名選手。

清水誠一 simizu seiichi

高校二年生。ゆずの幼馴染。

承和春己 soga haruki

高校三年生。先輩。

千草百合奈 chigusa yurina

高校二年生。留年しているので一個上。

夢を見た。それが誰だったのか、今なら分かる気がした。











こんな感情を抱いたまま大人になるなら、私は永遠に大人になれないままでいい。理不尽も、悲しみも、固定概念さえ、今の私には全てが毒だ。思い出せもしないのに。思い出はどこかに行ってしまったのに。それでも許せなかったのはエゴなのだろうか。自衛だろうか。何という言葉でこの感情を表せばいいのだろうか。分からない。分からないままでいい。

腹が立ったのは事実だ。彼女にも、自分にも。


早足で駆けあがった階段。母が階下で何かを言っているのはこの際無視だ。投げ捨てるように脱いだ靴も、開けっ放しの玄関さえも、今の私にはどうでもよかった。鞄をベッドに投げ捨て自室を出る。向かうのは角部屋。入りたくも無かった空間。

そこには何もなかった。フローリングに埃が目立つ。窓際に飾られた写真と無造作に置かれた掃除用具。ここにいた彼の形跡は、もうこの部屋のどこにも残っていない。

クローゼットの戸を開けて、大事に奥底に眠っていた段ボールを取り出す。埃塗れのそれを手で払って、頑丈に封をしていたガムテープを破り捨てる。


会わなくてはいけない。あの日、あの時、時間が止まってしまったままの。


出てきた数冊のノートは、セピア色に姿を変えてしまっていた。

ずっと、ここにあるのは知っていて。けれど見ない振りを続けていた。私がこの先生きて行く上で、必要のないものだと思っていたから。必要ないと、勝手に決めつけていた。逃げていた。彼は私の知らない人で、記憶にない人で、この先も永遠に現れない人だから。私を通して彼を見ていた人達も、これを見たせいでそうなってしまったと思っていたから。

それでも、知らなくてはいけないと思った。啖呵を切って、私は初めてノートを開いた。


『1/365日。黒い封筒が来た。まさか。そんなはずないと願ったのに、残念ながら事実は変わらない。俺は無彩病で、一年後の今日死ぬ』


『2/365日。立波緋奈に無彩病がばれて、何故か流れで一年付き合う事になった。何で。きっと気まぐれだ。もうすぐ死ぬからっていう。それだけ』


ページをどんどんめくっていく。度々出てくる立波緋奈という名前。彼女が彼の恋人だった人。兄と共に亡くなった人。


『ゆずが立波に懐いた。ちょっと嬉しかった』


『ゆずがまた来年来ようねと言った。その言葉に嘘をつく事しか出来なかった。ごめん。きっと忘れてしまうだろうけれど』


手が止まった。指で何度もなぞってそれを目で追う。目の奥が熱い。ページを、少し歪な文字を涙が滲ませていく。憶えていない。憶えていないのに。

繰り返し書かれる自分の名前。何も知らず、子供ながらに真っ直ぐな言葉を飛ばして傷つけた事。未来を一番に感じさせる存在だった事。それでも何食わぬ顔で一緒にいてくれた事。

最後のページに入る前、突然出てきた宛名に驚いて手を止める。そこには自分の名前が書いてあった。


「ゆずへ…」


涙が止まらなかった。再び指で文字をなぞっていく。生まれて来てありがとうと。何も知らないままでいてくれてありがとうと。いつか忘れ去られてしまう事が寂しいと。そっくりな髪色がとても嬉しかったと。かけがえのない存在だったと。いつか、これを読んだ時、少しで良いから寂しくなってくれると嬉しい。


「寂しいに決まってるじゃん…」


今の今まで敬遠してたのに。


「思い出せなかったのに、忘れてたのに、今更、今更」


今更。


「何で死んじゃったの…」


あの夢の中で手を離して行ってしまった人が彼だと気付いてしまった。

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