流れる。のを辞める⑨
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「なーにを呆けとるか」
「いや、いやいや……だって……。……え?」
いきなり、婆さんが美少女になったんだぞ?
なにこれ?ドッキリか何か?
「別人とかじゃ……?」
「正真正銘のヴィトリッタちゃんじゃ」
……急激に、老人口調が似合わなくなったなぁ。
いや、そんな事どうでも良い。
「つまり、なに?変装してたって事は……そっちが本当の姿って意味です……か」
「さっきからそう言っとる」
「へ……へぇ〜……」
「――いや信じられるか!!!」
「っ!?」
あ、ビクッとした。可愛い。
「なに!?魔法ってなんでも有りなの!?つうかそれ魔法なの!?」
「う、うむ……魔法じゃ。儂が開発した、儂にしか使えん特殊なモノでな?これがまた便利で――」
「逆に詐欺じゃん!逆詐欺だよ!今、俺の感情はまるでジェットコースターの様に乱高下していますよ!?」
「じぇっと……?」
「可愛いのやめて下さいよ!?婆さんの姿が先に焼き付いてるから見え隠れするんです!」
「とは言うても、顔は見えなかったんじゃろ?」
「いやそれでもだから!むしろ、って事もあるじゃない!?」
「なに言うとるか分からん」
「なんでよ!?あーあー!騙されたわぁ!純真な俺の心はもうブレイクだよ!ハートブレイク!別に婆さんが好きな訳じゃないけどね!?」
「アメト……お主、少し落ち着いてじゃな」
「うるせー!このロリババ――」
「痛いっ」
バシン!!と、思いっ切り頭を叩かれる。
「それは禁句じゃ。この姿の時には婆さんとも二度と言うでない」
「ごめんなさい調子乗りました」
我ながら打たれ弱いな。
「落ち着きましたか?二人とも」
……そういや居たなダンタルタ。
「儂ゃ最初から落ち着いとる」
「とてもそうは見えませんでしたが」
「喧しいわ」
「……そろそろ移動しましょう。目的を忘れない内に」
目的?
…………あー、なんかやらされるんだったっけ。
あまりの衝撃に忘れかけてたぞ。
「んむ。行くぞアメト」
ぐ……。調子狂うなぁ……
――――――――
「此処だ」
ダンタルタの後を歩いて着いたのは建物の中庭。
おぉ……バスケとか出来そうなくらいには広いな。
良い感じに緑も有るし、こういう場所は結構好きだ。
「で?俺は何をすりゃ良いんだ」
やっぱアレかな……実技試験とか?
冒険者っていったら、少しくらい戦えないとダメだ……みたいなイメージは有るもんなぁ。
俺、全く戦えないけど。
「ひっひっ。――ダンタルタ」
「はい。アメト殿、こっちだ」
中庭の中心へと歩き出すダンタルタ。
……ん、なんか有るな。なんだアレ?透明な柱……か?
「これは、さる御方が作られた装置。【御柱】という」
「オティ……なに?」
「オティオースス、だ」
なんか、どっかで聞いたような言葉だな。
「この装置はアメト、君の能力を教えてくれる」
え…………
「……マジで!?そんな便利アイテムが!?」
なんだ……!誰か、早く教えてくれれば良かったのに!
「じゃあ、俺自身にも分からない俺の『力』が何か……!それが判明するんだな!」
「あぁ。冒険者になる者は、その全員がこの御柱を使って己の『才能』を測る。これは冒険者を志す者のみに許された特権であり、試練でもある」
……凄い装置だな……。
「でも、なんで冒険者だけなんだ?みんなが使えるようにしたら良いんじゃないか」
「……アメト」
「ん?なんだよヴィト婆……ヴィト」
あっぶねぇ、婆さんって言うとこだった。
「誰もが己の才能の多寡を知りたいと、そう思うか?」
そりゃ……
「……そうじゃないのか?だってみんなの、自分に一番向いてる事が分かるんだろ?無駄な努力だってしなくて良くなる」
「……ひひっ。まだまだ青いのう」
「なんだよ?」
「いやいや……ま、えぇわい」
…………?なんか違うのか?
「儂の見立てではまず、お主には縁のない話じゃ。……それより準備は良ぇか?」
「準備っても……。何すればいいんだ?なんか手を翳すとか、そんな感じ?」
「柱の前に立ち、目を閉じて意識を集中しろ」
「……こう?」
言われた通りにする。
「意識を集中、だ。御柱に」
御柱に、集中……。
………………
「――ひっひっひっ。……アメト、お主やっぱり面白いのぅ」
「ヴィトリッタ様……これは……!?」
…………なんだよ、人が集中してんのにうるせぇな。
もう良いのかな……?
「アメト、柱を見てみよ」
ヴィトの声で目を開ける。
「……ん?これは……どういう事?」
透明だった御柱は、透明なまま。……何も変わってない。
能力を教えてくれるっていうから、なんか文字みたいのが浮かんだりするのかと思ったんだけど。違うの?
「ねぇ。何コレ?俺にはなんの才能も力も無いって事?」
「ひっひっ。間違い無く御柱は起動したぞ。それ以前に、才能自体が零の者など存在せんわ」
……?
「えっ?……でもさっきと変わってなくない?」
「超越者…………」
「ん?……何それ」
ダンタルタ……どうしたんだろ?めっちゃ驚き顔してるけど。
「アメト。お主の才は、剣にも魔法にも無い。……いや、この世界の歴史にも類をみない力じゃ」
は?
「じゃが、今はまだその殆どが眠れる力の様じゃな」
……は?
「ひっひっひっ……!お主に見えなくとも儂等には視えておるのじゃ。御柱に浮かぶモノが」
「俺の目には何も浮かんでないんすけど……。魔力が無いと視えないとかそういうやつ?」
「コレを作った奴に聞かんとなんとも言えんが、多分そうじゃろな」
「ふーん……で、具体的にはどういう?」
「ん?」
「いや俺の『力』ってやつ。ここに書かれてないの?」
「ふむ…………」
柱を見るヴィト。……なんか見るってよりも聞いてる感じだけど……気の所為だよな。
「ふむ、ふむ。……成程」
「なんか分かった?」
「うむ。そうじゃな……お、丁度良い」
ヴィトはしゃがみ込むと、足元に転がっていた石を拾い上げる。そしてそれを掌に乗せた。
「【動】という力だそうじゃ。アメト、これを己の手の中に運べ。その場から一歩も動かずに」
「は?……どうやって?」
「【動】という『言葉』を強く意識せい。イメージをハッキリと心の中で持て。そうすれば能力は発動するじゃろう。その後はお前さん次第じゃがな」
意味分からん。分からん、けど……
「動け、動け、動け……っ!!」
右の手を石に向け、頭の血管が切れそうになるほどに集中して、動けと念ずる。……が、石は微塵も動かない。
「――ぶはっ!!……動かねーじゃん!!」
「――違う。お主、心のどっかで「できっこない」と思っとるじゃろ。それでは力は発動せん……必ず出来る、出来て当たり前だと……己を信じろ」
自分を信じる……!?
「それが出来たら苦労はしてねーっつの……!」
俺にとって一番難しいやつだぞ、それは!
「アメト。お主は何故、世界を渡ったのだ」
「……それは」
「世界を渡る……それをお主は『流れる』と言ったな。お主は変わりたいのではなかったのか?元の自分から」
「ならば『流れる』などという表現はやめよ。お主は自分の意思でこの世界へと『渡った』のじゃ。お主がなんと思おうが、お主の強い気持ちが扉を開いたのじゃ」
「雨粒の様に流れ落ち、大海に迎合するのはもうやめよ。お主はお主の意思で動けるのだから」
「俺は……!」
「そうじゃ、今一度。自分を信じろ……動き出せ」
……そうだ。
この世界で遭った事。
正直、此処もあそこと大して変わらないんだと思った。
……でも。
変わりたいと思った。だからこの世界に来たんだ。……だからあの時、流れに逆らったんだ!
流されるままでは何も変わらない。自分で動かなきゃ何も変わらないんだ……!
あの頃とは違う……!本当に心の底から変わりたいんだ!
出来る。……出来たんだ。
俺は…………っ!!
「――もう、流されないッ!!!」
頭の中で何かが弾ける。
そうか。この感覚が……!
「来い!!」
ヴィトの手から石が浮かび上がり、俺目掛けてギュンと飛んできた。
「やった……!!――あっ」
しまった、と気付いた時にはもう遅かった。
飛んできた石は右手を掠め、俺の額を直撃した。




