流れる。のを辞める⑧
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「準備が整いました……!」
「では、移動しよう。アメト殿、ヴィトリッタ様もこちらへ。君は戻って良い」
「は、はいっ。失礼します」
「では、ひとまず私も退席します。ヴィトリッタ様」
「んむ。後でな」
エトナも行っちゃうのか。
三人で廊下に出る。
「……あのぅ。ところで俺はいったい何をするんですかね?出来ればで良いんですけど説明とか欲しいなーって思ったり」
「行けば分かる」
行く前に知りたいから聞いてるんだけど?何このギルドマスター。やだわぁ。
「ひっひっ!なんじゃい兄さん、思っておったよりも肝っ玉が小さい事よ」
……酷い言い草だなぁ。
「…………俺の名前はアメトだ、そっちで呼んでくれて良いぜ婆さん」
「ほ。成程、なら儂も名前で呼んで貰おうかの。気軽にヴィトちゃんでえぇぞ」
絶対やだ。
「あー……じゃあヴィト婆さん。……これで良いか?」
『ヴィト婆さん』にギルドマスター・ダンタルタがビクッと身を震わせたのをハッキリと見た。
……マジで何者なんだよババァ。
「まぁええじゃろ」
「――で、ヴィト婆さんよ。一つ聞いても良いかい」
「なんじゃ?アメト。言うておくが歳は非公開じゃぞ」
ミリも興味ねーよ……
「あんた……どうして俺が冒険者志望だと知ってた?誰かに聞いたのか」
これに関しては一番、気になっていた。
この婆さんの正体……というか、素性が気になるのも勿論だが……どうして俺の目的まで知ってるんだよ。
「細かい事を気にするんじゃな?……禿げるぞ」
「禿げねーし!良いから教えてくれないか?……じゃないとアンタを信用しきれない」
「ひひっ。可愛い事を言うて、まぁ」
「割と真剣に言ってるからな?言っとくけど」
「期待しとるとこ悪いが、特別な理由なぞ有りゃせんぞ。アメト、お主今日の昼間に飯屋に行ったじゃろ」
「……そんな事まで知ってるのかよ」
「ひっひっひっ……!!だから、少し期待し過ぎじゃて!」
めっちゃウケた。やった!……じゃねーよ。
「いや笑い過ぎだろ……」
「ひーっひっひっ……!くく……っ。……はぁ。あそこの主人とは昔馴染での。お主の事を聞いたんじゃよ……それだけじゃ、そ・れ・だ・け」
――え、そういうこと?
マジで、深読みが過ぎた恥ずかしいやつじゃん。
「あ……そうすか。いやまぁそんなことかとは思ってたし。普通に考えりゃそうだよな、うん。超能力者じゃあるまいし有り得ねーよ」
「くっくく……!はーっ、おっかしいのう……!!ひっひっ!」
もうやめて、許してお願い。なんでもするから。
おいギルドマスター。お前も笑ってんじゃねぇ。
「ひー……。ま、そういう事じゃ。期待してたのに申し訳無い……ひひっ」
「……良いよ、もう……。好きに笑えば良いじゃん」
「まぁ、そうむくれるな。そんな陰謀めいたモノは無いが、ちょいとした狙いは有ったでの。お主の考えがそうズレていた訳でも無い……いや、ズレてはいたのか?ひっひっ」
「ズレてたよ……。……ん?狙い……?」
狙いってなんだ?
「そうじゃのう。最初……。あの、文字通りの裏路地でお主に声を掛けた時。あの時からじゃ」
文字通り?
……あれ?
そういやあの時、確かに俺は心の中で『裏路地』って言ったのを覚えている。
この世界で日本語が正しい事がどれ程の意味を持つのかは分からない……けれど。
なんで、そう思ったんだろう。
普通は『路地裏』……だよな。
「裏……?」
「んむ。あの道は現し世のモノでは無く。……常ならざる者にしか入れない【隠り世】。簡単に言えば特別な場なのじゃよ」
「……は?」
「アメト、お主が一夜を過ごしたあの宿もそうじゃ。あの晩、お主が居た場所全てが隠り世だった……そういう訳じゃ。そんなところに迷い込んだ人に興味が湧かない理由が無かろ?」
全然分かんねー……授業とかちゃんと受けとくんだったなぁ……
「……オーケー。その話が全部まるっと真実だとして、だ。俺は只の人間だぜ?今までそんな場所に踏み込んだ事すら無い。……それがどうして急に?」
「そりゃ、お主が一番知っとるのじゃないか?ひっひっ」
…………。
……ま、そりゃそうだ。
「ヴィト婆さん。実はさ、俺」
婆さんに事情を話す。ついでにダンタルタにも。
別の世界から流れて来た事、それによって新たな『力』を授かったらしい事を。
「――と、こんな感じでさ。まぁ、信じなくても構わないけど。とても信じられない話だし」
「ひっひっひっ。……そうかい、そういう事情があったのかい。成程ねぇ、道理で」
「ヴィトリッタ様。この様な突拍子もない話を信じるのですか?」
「ひっひっ!信じるも何も、さっき言うたじゃろ?このアメトは既に隠り世へと片足を突っ込んでいる存在なのじゃ。むしろこのくらいの事、あり得て当然なのじゃよ」
「は……。成程」
「んで、さ。俺がその……隠り世?……そこに入ったんだとしてさ」
「なんじゃい?ハッキリと言わんか」
「……いや、当然の疑問なんだけど。……最初から其処に居たアンタは、じゃあ何者なんだ?」
ヴィトリッタと名乗った目の前の老婆。
【隠り世】という場所で出会った時。
あの時から……。
「……なんだろ。最初に会った時には、路地が薄暗いから視えないと……そう、思ってたんだ。だけどさ……」
「現在も、アンタの顔が分からないんだ。目の前にこうして立って、顔を見て話している筈なのに。こんなの……意味不明だ。婆さん、アンタは一体……なんなんだ?」
良く考えりゃ、その後から今に至るまで。
俺はこの婆さんの、口元しか見えていない。
あのニヤついた口元は覚えているのに、顔が分からない。
いや、正確に言えば見えない訳じゃない。
しっかり見えているのに、はっきりと認識出来ない。……そんな感じだ。
一番恐ろしいのは、今の今までそれを変だと全く思わなかった事。
「ひっひっ。――そりゃまだ内緒じゃ」
「いや……」
「安心せい。少なくともお主の敵では無い事は確かじゃ。神に誓っても良いぞ」
……って言われてもなぁ……。
「なんじゃい?まだ不安が有るって顔じゃの」
「いや、だって顔が分かんないんだぜ?信用とかそれ以前の話だと思うんだけど」
「ふむ。そう視えるのはお主側の問題なんじゃがな……ま、この際えぇか。しゃあない、見せちゃろう」
「ヴィトリッタ様……」
「構わん構わん」
え?何これ。
婆さんの身体が光ってんだけど。もしかして魔法?ニーナが使ってたアレみたいな……
「特別じゃぞ?いつもは色々と面倒で変装しとるんじゃからな」
一際強い光が婆さんから放たれる。
「まっぶ……!!」
瞼を開けてられないな、これは……!
「おいアメト。もう終わったぞ、目を開けんかい」
……ん?
え、誰の声?……女の子?こんな声の人、此処に居ない筈だけど……。
知らない内に、また別世界に流れたのかな。
恐る恐る目を開ける。
「――マジで誰!!?」
其処に居たのは全く知らない小さな、十代前半くらいの女の子。
水色と桃色が混ざった長い髪を二つに縛った、勝ち気そうだけど凄く可愛い子だ。
「誰とは失礼な!」
女の子は、バッとポーズを決める。え、何かわいい。
「儂こそ年齢不詳の魔女、人呼んで【神魔人道】!その名も『ヴィトリッタ・リィンベル』ちゃんじゃ!ひっひっひっ」
……………………
…………うっそだろ?




