流れる。のを辞める⑩
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「――いっつ……ぅ……?」
なんだ?頭痛い。
……あれっ?
俺、いつの間に寝たんだっけ?なんだ、このベッド。
この部屋にも見覚え無いし……。
「お。気が付いたか」
声に顔を傾けると、ヴィトが上からこちらを覗き込んでいた。
「ここは……?……つうか腹減ったなぁ」
何故かこの状況が恥ずかしくて思わず軽口を叩くと、ヴィトは安心した様に笑う。
「ひひ。なんじゃ、そんなんなら問題無さそうじゃな」
よいしょ、と椅子から立ち上がるヴィト。
「ここはギルド備え付けの治療室じゃ。アメト、お主は自分の能力で気絶しておったのよ」
「俺の、能力……?」
――……あっ、思い出した。
「そうだ!遂に俺も能力者になったんだったっけ!」
心で『動』を念じながら、少し離れた所の棚にある本の一冊を取る。
本は空中を飛び、俺の手の中に収まった。
「ほら、見ろよヴィト!」
「ひっひっ。なんぞ童の様じゃの」
「い……良いだろ別に。そんだけ嬉しいんだよ」
「ま、分からんでも無いがの。……ん?お主、その本……」
「本?」
表紙を見る。
男女四人組の絵が描いてある、なんだろう。冒険譚みたいなやつなのかな?
一人はなんとなくヴィトに似ている気がする。
内容を読もうと本を開く。……が。
いかんせん、文字が読めないからなぁ……。
パラパラとページをめくる。
「この本がどうかしたのか?」
「…………そりゃ昔に世界を救った四人の話じゃ。この世界じゃ有名な話での」
「へぇ〜。なんか悪い奴でも居たのか?」
「そりゃもう激烈に、のう。この世界【エスペランサ】にゃあ現在でも人に仇なす魔物……所謂モンスターが蔓延っているが、元を辿れば、それらを生み出した存在が居たのじゃ」
おぉ、なんかワクワクする話だ。
ゲームとかでよくある、魔王的な奴か。
「やっぱ居るんだな、モンスターって」
「知っとったのか?お主、まだ来たばかりじゃろ」
「いや……お決まりだからさ」
「?」
……異世界ってやつの、さ。
「――ま、今はどうでも良い話じゃ。それよりアメト、ギルドマスターのとこに行けるかの?」
「すぐ?」
「今日でも明日でもいつでもえぇぞ。だが、行けば良い事が有るじゃろな」
……あ、そっか。
「行くよ。よっ……と」
ベッドから跳び降りる。
……?なんで跳び降りたんだ俺は?
元気が有り余ってるのかな。それに、なんかいつもよりも身体が軽い気がするな。
「じゃあ行ってくる」
そのまま部屋を出ようとすると、腕をグイっと引っ張られた。
「待て」
「ん?なんか忘れ物か?」
「違う。お主な、心配を掛けたのと看病の礼の一言二言くらいあっても良いと思わんか?こーんな可憐な少女に対して、じゃ」
……そりゃそうだな。普通に失礼だった。
「色々と有難うな、ヴィトリッタ。この恩は忘れない」
「……ふんっ。良い良い、はよう行け」
「あぁ。なんかまた近い内に会う気がするけど、それまで達者でな!」
そう言い残し、今度こそ部屋を出る。
「調子の良い奴じゃ、全く」
「…………運命か偶然か。新たな章の始まりなのか」
「――ひひっ。まだまだ面白そうじゃ」
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「失礼しまーす……」
「――ん。おぉ、アメト殿か」
ギルドマスターの部屋に入ると、そこには勿論ダンタルタが居た。
「何故、そんなにオドオドしているのだ……?」
「いや、別に」
なんか苦手なんだよな、昔から。職員室とか校長室とかさ。
「まぁいい、そこに掛けたまえ」
言われた通りにソファに座る。
「用は他でも無い、冒険者登録の件だ」
来た!
「単刀直入に言えば、君には冒険者への扉が開かれた。おめでとう」
「やった……!」
めっちゃ嬉しい!!今までの、どの合格発表よりも嬉しいぞ……!
「――ただ」
「えっ?」
「まだ扉が開かれただけだ。入ってはいない」
……はい?
「あの、御柱が試験だったんじゃ……?」
「何を言う。あれは『適性判断』。これから君にしてもらうのは『実技試験』だ」
「……マジか……」
「とはいえ。適性判断を通った者の九割は合格する簡単な試験だ。きっと君にも出来るだろう」
自信ねぇ。
「因みにだが、これの結果を以て君の冒険者ランクも決まる。その事を念頭に置いて頑張り給え」
「冒険者ランク?」
「あぁ。冒険者にはランクが有って、高い順にS・A・B・C・D・E・Fとなっている」
「それは高いほうが良いの?やっぱり」
「良いか悪いかは当人によるのでなんとも言えないが、高ければ高い程に名誉と金が手に入る」
成程。
「当然、新人は大抵Fランクからだがね。一応……例外も有るが」
「ランクは上がる事も有るんだろ?」
「功績を重ねていけば自然と上がる。反対も又、然りだ」
下がる事も有んのかよ……。
「い……一応聞いときたいんだけど、Fランクで降格食らったらどうなんの?」
「冒険者資格の剥奪だ。永久に」
……怖っ。
「これは言うまでもない事ではあるが……ギルドの許可無しにダンジョン等に入れば重罪であるし、個人的にモンスターを討伐したりしても報酬が手に入る事は基本的に無い」
それはそうだろうな。
「犯罪紛いの事に手を出すなら別だがね。……まぁとにかく、そういう事だ」
「しないよ?」
「勿論。……他、細かい所は君が正式に冒険者となってからにしよう」
ダンタルタは一旦話を切り上げると、一枚の地図を寄越した。
「今居る街は此処だ」
ふむ。
「君に行ってもらうのは街からほど近いこのダンジョン。通称『ゴブリン洞窟』だ」
ゴブリン……。あれか、あの有名な。
「ゴブリン洞窟の最奥から、ダンジョンボスの討伐証明を取ってくるんだ。部位などは特に問わない。証になるならなんでも良い」
ほうほう、ダンジョンボスね。
……ダンジョンボス?
「ボスってどうやって判断すんの?」
「ん?」
「え?」
……えっ?何この沈黙。
なんか、嫌な予感がするぞ……?
「アメト殿。ここ……僕の肩の上辺りに何が見える?」
え、いや……
「……何も?…………あ、空気?」
ダンタルタが愕然とした表情で俺を見ている。
なんだよ、なんですか?なんか悪い事したんですか俺は。
「ウィンドウが視えないのか……」
ウィンドウってなんだよ。アレか、ゲームとかのやつか?情報が浮かんで見える、ステータスウィンドウってやつか。
あーあー、なるほどね。うんうん。
視えてたまるか、ンなもん。
「……ウィンドウには名前と職業が表示される。解析や隠蔽スキル等も存在するが、これはモンスターでも同様で……それを見てボスかどうかを判断するのだ。あの洞窟に居るモンスターなら隠蔽スキル等も持っている筈もなく……。問題無く判断出来る。……普通にウィンドウさえ視えれば」
「いや普通に視えないんすけど。じゃあボスを判断出来ないんすけど」
詰んでね?
俺の冒険が始まる前に終わってね?
「ねぇ、ダンタルタさん。どうしたら良いのかな俺」
「…………どうしようね?」
俺が聞きたいんだよ。




