流れる。のを辞める⑪
「これは正直、予想外だ……。まさか異世界人という者にはウィンドウが視えないとは考えもしなかった」
「つうかそのウィンドウ……ってのは、皆が皆、視えてるもんなのか?」
「当たり前だろう。顔に目と鼻と口が付いているのと同じ事だぞ。無論、常時視えている訳では無いが視ようとすれば誰にでも視える」
そうなんだー。へー。
「前例が無い事態だ。……考えられる解決策としてはやはり、ギルドからの誰かしらの同行か」
「そうなるのか……」
それは俺も少し考えたけど、ちょっと嫌だなぁ。なんか、保護者同伴みたいで。
なんとなく冒険感が薄れるっていうか……いやまぁ、俺の所為だし仕方無いけどさ。
……それにしても、冒険か。
気持ちの持ち様も変わるもんだなぁ……いざ『力』を持つと。
「うむ……よし。少し待っていてくれたまえ」
ダンタルタは部屋を出ていく。
――そうだ、今の内に戦闘方法でも考えておくか。
いざという時に大分違うだろう。
――――――――
小一時間程、経った頃。
部屋の扉が開かれ、ダンタルタに続いて一人の少女が入って来た。
「待たせたね」
「いや、そうでもないよ。……もしかしてその子が?」
「うむ、既に話は通してある。名前は――」
「こんにちはっ!あたし『アクア』です!よろしくお願いします!Fランク冒険者ですっ」
……小学生?
いやいや、そういう概念はこの世界に無いんだろうけど……大分、幼く見える。十代前半くらいかな。
金髪を、なんていうんだっけこういう髪型……ツーサイドアップ、だったかな。可愛らしい。
……うん、つうか俺は何を真面目に考えてるんだ。自分で自分が気持ち悪くなった。
「アクアちゃんだね。俺はアメト、よろしく」
「はい!ギルマスから聞きました!なんでも、生まれつきウィンドウが視えない体質だそうで……大変だったんですね」
ん?
……あぁ、ダンタルタが上手くぼかしてくれたのか。流石はギルマス、気が利くぜ。
「実はそうなんだ。それでも冒険者になりたくてね、アクアちゃんに手伝ってもらうことになったんだ。突然の不躾なお願いだけど、受けて貰えるかい?」
「勿論です!困っている人を助けるのが冒険者ですよね!」
まだ出会って間も無いが、凄く良い子なのは分かった。
「ありがとう。よろしくお願いします」
「はいっ」
「上手くやっていけそうで何よりだよ。ギルドマスターの僕からのお願いとはいえ、こんな依頼は気が引けるからね」
「そうなの?」
「前例が無いと言っただろう?当然だよ。それに……彼女もまだ新人なのだ」
「えっ」
「はい、そうです!二ヶ月前に冒険者デビューしたばっかりの新人です!」
「そうなんだ……なんかごめんね」
「?」
気が引ける……確かに。
と、いうかつい二ヶ月前までは新規の登録を受け付けていたんだな。
今この街で何が起きているんだろう。
十中八九、あの子に関する何かだろうが……
「さて。早速だが、アクアを含めての試験内容を説明するよ」
……っと。今はこっちに集中しないとな。
「先程説明した通り、アメト。君にはゴブリン洞窟の最奥に潜むダンジョンボスを討伐してきてもらう。そして、このギルドまで討伐証明部位を持ち帰るんだ」
「あぁ」
「ただし。これは当然、単独討伐が条件だ。アクア、君には一切の手助けを禁ずる。これには戦闘、探索……その他全てが含まれる事に注意して欲しい。唯一許されるのはウィンドウ情報をアメトに伝える事だけだ」
「はいっ」
「他には特に無い。この試験……アクアにとってはクエストだが、これの成功を以てアメトを冒険者に認定、アクアにはランクアップ試験への挑戦権が報酬として与えられる。……ここまで、何か質問はあるだろうか」
「あたしは無いです!」
質問……。うーん。
「……ダンタルタ。もし……そうだな、例えばアクアに戦闘を手伝ってもらったとして、その事をこっちが黙っていた場合はどうなるんだ?いや、勿論しないけどさ。念の為」
「その場合はその時点で失格だ。即時、ギルドからのお迎えが行くだろう」
……マジか。ギルド怖っ……
「他には有るか?」
「んー。……あっ、そうだ。ゴブリン洞窟についての情報を街で得てから現地へ行くのは有りなのか?」
俺の質問を聞いて、ダンタルタがニヤリと笑う。
「ほう。僕が思っていたよりも君は冒険者に向いている様だ」
褒められてんのか?これ。
「冒険者にとって情報は武器であり、命綱でもある。更には飯の種でも。……つまり、その辺りをこちらから禁ずる事は無いよ。勿論、強制する事も無いがね」
……これがつまり【自由】って事だよな。
おもしれぇじゃん、冒険者。
「分かった。もう質問は無いぜ」
「良いだろう。――ではこれより志望者アメトの試験を開始する!目標はゴブリン洞窟最奥のボス討伐、期限は三日だ!」
――あっ、やば!
期限、聞いてなかった……!何が「もう質問は無いぜ」だよ!
俺のバカヤロー……!
「どうした?さぁ、早く行きたまえ」
くっそ……この意地悪ギルドマスターめ!
「言われなくても行くっつーの!さ、行こうアクアちゃん」
「行きましょー!」
――――――――
「さて。何処で情報収集しようかな、っと……」
街中に来たはいいものの、相変わらず文字は読めない。
なんか見た目から酒場的な、分かりやすい場所は無いもんかなー……
「アメトさん。情報収集なら――」
「アクアちゃんストップ!」
何か喋ろうとしたアクアちゃんの口を手で抑える。
「もご?」
「ダメだよ?それも失格になっちゃうから」
「も……!むご!」
勢いよく頷いてくれた。
「――ぷはっ。……そうでした、ごめんなさい!」
「いやいや、良いんだ。こんなの、どう考えたって俺よりもアクアちゃんのほうがキツい筈だからね」
「でも、アメトさん。あたしが教えなくても、そこら辺の人に聞くのは良いんじゃないですか?」
「うん……。本当はそうしたいんだけど。例えば店名と大体の場所を教えてもらったとしても、俺には文字が読めないんだ。だから店が判別出来ない。色んな人に聞きながら向かおうにも、そんな親切な人ばかりじゃないかもしれないしね」
「アメトさん、文字が読めないんですか?……あ、この国出身じゃないとかです?」
「うん、そんな感じだね」
「なるほどー。それは中々難しいお話ですね」
うんうん、と頷くアクアちゃん。可愛いなこの子。
「んー……」
なんか考え込んでいる。どうしたんだろ?
「アメトさん」
「ん?どうしたの?」
「あたしの事、呼び捨てで良いですよ?」
……あ。なるほど……
「ごめん……。ちゃん付けはキモかったよね……」
「えっ、違います違います!単純にそっちのほうが良いなって思っただけですから!」
なんて優しい子だ……。
「分かった。じゃあ、アクア。……これで良い?」
「はいっ!」
まぁ……良いか。喜んでくれているみたいだし。
ともかく。
「どうやって情報を……例えば冒険者が集まる場所とかか。それを見つけるか。建物の外観からは中々分からないし、この街の地理にも明るくない。うーん……」
文字さえ読めればなぁ……。あそこにも立て看板みたいなの有るし。
文字、文字……
…………あ。
そうか。
「アクア」
「はい?」
「周りの人達のウィンドウを見てくれる?」
「ウィンドウを?」
「うん。で、冒険者が居たら教えて欲しい。方向的に街の外へ向かっておらず、グループで動いている人達なら尚良しだ」
「……あ、なるほど!分かりました!」
良し!
これならルールに違反しない。冒険者が集まる場所にも行きやすい筈だ!
「見つけました!あの人達、街の中心の方に向かってますっ」
「よっしゃ、ついていこう」
当たりでありますように……!




