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【コミカライズ開始!】宿屋の看板娘、公爵令嬢と入れかわる ※Web版  作者: 優木凛々
第3章 宿屋の看板娘、元に戻ろうと画策する

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11.マリア、帰る


「シャーロット!」



 そこには、淡い水色の髪と瞳をした美しい少女――シャーロットの姿があった。

 どうやら走って来たらしく、肩で息をしている。


 マリアは彼女に駆け寄った。



「ど、どうしてここに? 何かあったの?」

「わたくしは、毎日ここに来ておりましたわ。マリアさん、手紙をご覧になったのではないのですか?」



 彼女の話によると、2、3カ月前に、一定条件下で魔力回路を開く訓練をすると、黄泉の川に来られることに気が付いたらしい。

 そして、2人同時にこの川に来れば、元に戻れるのではないかと思い、その旨を書いた手紙を王都に出した、とのことだった。


 一生懸命戻ろうと頑張ってくれていたのね、と温かい気持ちになりながら、マリアは残念そうに首を横に振った。



「ごめんなさい、知らなかった。きっと私の手紙も届いていないわよね?」

「ええ、残念ながら」



 そして、どうしてマリアがここに来たかという話になり、彼女は、はたと思い出した。

 そうだ! パーティで大変なことになっていたんだ!と。


 マリアは、シャーロットの肩を掴んだ。



「そうなのよ! 今大変なことになっているの! あの王子様とイリーナが……」



 マリアは、事情を早口で説明し始めた。


 ダニエル王子から、イリーナをいじめたという大嘘で断罪されたこと。

 イリーナに飲まされた飲み物に、何か入っていたらしく、口が聞けなくなって意識がなくなったこと。

 気が付いたら、この場所にいたこと。


 マリアの話を、シャーロットが真剣な顔で聞く。


 そして、説明が終わると、マリアが申し訳なさそうに言った。



「ごめんなさい。私が迂闊だったわ。まさかイリーナが私を嵌めるために仲良くしてきただなんて、夢にも思わなくて」



 シャーロットが、静かに首を横に振った。



「どうか謝らないで下さい。悪いのはイリーナですわ」

「……でも、嵌められたのは私の責任だから、出来ることなら、私が戻りたいとは思っているのだけど……」



 マリアが目を伏せた。

 あの状況は、言いたいことを我慢してしまう性格のシャーロットには、厳しい気がする。

 できるのであれば、自分が戻ってケリを付けたいと思うが、果たして戻る体を選ぶことができるのだろうか。


 悩むマリアを、シャーロットが感謝の目で見た。



「ありがとうございます。マリアさん。……でも、大丈夫ですわ。わたくしが戻ります」

「……」



 心配そうなマリアに、シャーロットが微笑んだ。



「実は、わたくし、サラさんに相談したのです。『自分には、親に決められた不実な婚約者がいて、結婚させられそうになっている』と」

「そうなの?」

「はい」


 シャーロットがクスクスと笑った。

 彼女曰く、サラはとても同情したらしい。



「サラさんが、おっしゃってくれたのです。『まずは父親と話し合いな。それでも駄目だったら、うちに逃げておいで。あんたならいつでも大歓迎だよ』って」



 さすがはサラ母さんだわ! と思いながら、マリアはシャーロットの手をとった。



「そうよ! その手があったわ!」

「……マリアさんも歓迎してくれる?」



 やや不安そうなシャーロットに、マリアは勢いよくうなずいた。



「もちろんじゃない! 大歓迎よ!」



 シャーロットは「ありがとう」と目を潤ませると、マリアの手を握り返した。



「だから、わたくしは大丈夫です。いざとなれば逃げる場所があるのだもの。言うべきことはしっかり言ってきますわ」



 彼女の強い瞳を見て、マリアは思った。

 ああ、この子は、きっともう大丈夫だ、と。



 と、そのとき。

 2人の体が、ふわりと浮かび上がった。


 次の瞬間、左右の空から、



『マリア!』

『シャーロット!』



 という声が降ってくる。


 そして次の瞬間。


 何か見えない手のようなものが、マリアの襟首を掴んで、グイッと右側――【マリア!】という声がする方向に引っ張った。


 マリアの体が、ものすごい勢いで吹っ飛ぶ。


 シャーロットも同様で、【シャーロット!】と呼ばれている方角に、後ろ向きに吹っ飛ばされている。



(私達、戻るのね)



 すごい勢いで上空に飛ばされながら、マリアは遠ざかるシャーロットに向かって大声で叫んだ。



「シャーロット! がんばれ! 負けちゃだめよ!」



 シャーロットが、飛ばされながらも、懸命に手を振る。


 その様をながめながら、空に吸い込まれていくマリア。





 ――そして、気が付くと。


 彼女は、ベンチの上で目を覚ました。

 目に入ってくるのは、宿屋の小さな裏庭と、紅葉した木々、白くはためくシーツたち。



(戻って……きた?)



 木の上で小鳥が鳴く声を聞きながら、ボーっとしていると、パタパタと軽い足音がして、視界にコレットの、にこにこ顔が入ってきた。



「おねえちゃん! 時間だよ!」

「そろそろ起きな、おやつの時間だよ」



 サラが、笑顔で厨房の入り口から顔を出す。



(ああ、帰って来たのね)



 マリアは、ゆっくりと体を起こした。

 横にいるコレットのサラサラした髪の毛をなで、大きくなったね、とつぶやく。


 そして、ベンチからゆっくりと立ち上がると、

 不思議そうな顔をした2人に向かって、目を潤ませながら微笑んだ。



「……ただいま、サラ母さん。コレット。やっと帰ってこられたよ」







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