10.マリア、突然の断罪される
「お前がこうやってイリーナをいじめているのは知っている! 今日という今日は我慢ならん! お前を断罪する!」
会場がシーンと静まり返る。
マリアは呆気にとられた。
一体何を言っているのか、さっぱり分からない。
そして、嗜虐的な笑みを浮かべるダニエル王子と、
その腕に抱かれながら、口の端にあざとい笑みを浮かべるイリーナを見て、ようやく合点がいった。
(……つまり、私、嵌められたのね)
それを裏付けるように、ダニエルが声高らかにマリアを断罪し始めた。
生徒会の仕事にかこつけてイリーナに散々嫌味を言って泣かせたり、
大量の資料を無理矢理持たせてこき使ったり、ノートを破いたなどと言い募り、
挙句の果てに「先週イリーナを呼び出して階段から突き落とした!」と言い放った。
生徒たちがざわめいた。
「そういえば、イリーナさんが泣いているのを見たことがあるな」
「わたくしは資料を持たされているのを見ましたわ」
「階段から突き落とすなんて、犯罪行為じゃないのか?」
などと声が上がる。
マリアはすっと目を細めた。
生徒会の仕事を熱心に尋ねてきたのかと思っていたが、どうやら自分をはめるためにやっていたらしい。
実に計画的だ。
カルロスとバーバラが、マリアの後ろに立つと、ダニエル王子に鋭い目を向けた。
「殿下、シャーロット嬢はそのようなことをしておりません」
「そうですよ。彼女はただ生徒会の引継ぎをしていただけです」
ダニエルが2人を睨みつけた。
「黙れ! 泣くほどの引継ぎなどあるはずがないだろう!」
マリアはため息をついた。
(ダメだ、この王子様)
その嗜虐的に光る目を見れば分かる。
これは、人をいじめ弄んで楽しむ人間の目だ。
マリアは、猛烈に腹が立った。
シャーロットは一生懸命生きてきた。自分だって一生懸命生きている。
そんな人間を、出鱈目で陥れて無茶苦茶にするなど、許されることではない。
(もう我慢ならない、一言言ってやる!)
そして、そんなの出鱈目です、と言おうと口を開こうとした、そのとき。
「……っ!」
彼女は目を見開いた。
(……え、口が動かない?)
気が付かないうちに、喉から口元にかけて痺れており、口が開かないし声が出ない。
慌てて喉元に手を当てようとするも、体が棒のようになって動かない。
(こ、これはどういうこと?)
そして、焦るマリアをながめて残酷そうに微笑むイリーナを見て、目を見開いた。
(まさか、さっきの飲み物に何か入っていたということ?)
そう思っている間にも、視界がボヤけてくる。
(ど、どうしよう)
後ろにいるカルロスたちに助けを求めようにも、口も体も動かない。
そして、どんどん目の前が暗くなり――……
――マリアが、ふと気が付いて目を開けると、彼女は固い何かの上に仰向けになって寝ていた。
目に入ってくるのは、白い空と黒い太陽。
「……えっ!」
マリアは、瞠目してガバッと起き上がった。
目に入ってくるのは、静かに流れる灰色の川と、対岸の黒い森。
「え! うそ! ここ、黄泉の川だ!」
彼女は飛び起きた。
自分がここに居るということは、気を失っている状態ということだ。
恐らく意識を失わせて、自分たちの有利な方向に持っていくつもりなのだろう。
(まずい! 何とかして早く戻らないと!)
マリアは、足元の小石を跳ね飛ばしながら、河原を全力で疾走し始めた。
何とか出口のようなものはないかと、走り回る。
そして、前方に大きな石を見つけて、「ここ、見たことあるわ」と考えていた、そのとき。
「マリアさん!」
後ろから大きな声が聞こえてきた。
マリアは目を見開いて立ち止まった。
(え、誰?)
驚いて振り返った彼女の目に映り込んだのは、プラチナブロンドにアイスブルーの瞳の美しい少女。
「シャーロット!」
それは、マリアの体に入っているはずの、シャーロットの姿であった。




