9.マリア、パーティに参加する
卒業パーティ 当日。
紫色のドレスを着た マリアが、ララと共に 馬車に乗って学園に向かっていた。
(なんだか今日まであっという間だったわね)
カルロスとダンスの約束をしたその翌日、
ニコニコと笑う兄クリストファーが屋敷を訪れた。
「借りを返してもらいに来たよ」
そう言って渡されたのは、 教会からの手紙で、
中には、 奉仕活動への参加依頼が入っていた。
期間は約10日、前回の3倍だ。
ちなみに、 期間が長い場合は、
家族で分担して出席する家がほとんどらしい。
(それを1人って、いくら何でもひどくない?)
そうは思ったものの、
父親やダニエル殿下の対処をしてもらったことを思い出すと、 文句も言えず。
マリアは、卒業パーティまで、隣の都市にある教会に缶詰になって奉仕活動をする羽目になった。
お陰で、ドレスの準備などの卒業パーティの準備の時間が取れず、どうしようかと思ったが、ララが教会に通って、何とか間に合わせてくれた。
その時のことを思い出し、馬車の向かいに座るララに「ありがとう」と伝えると、
ララは嬉しそうに笑った。
「いえいえ、当然のことをしたまでです。それに今のお姿を見ると、頑張った甲斐があるというものです」
そして、彼女はマリアの髪を見てうっとりとした。
「それにしても、本当に綺麗な花ですね。 カルロス様、 本当にナイスです」
マリアの髪の毛には、白と淡いピンクの美しい薔薇が編み込まれている。
今朝、カルロスから届いたもので、
あまりにも美しかったので、ララが「これを使いましょう」と頑張って、保存処理をして髪の毛に編み込んでくれたのだ。
ララがため息をついた。
「本来であれば、 ダニエル殿下から何かしらのプレゼントがあって、それを身に着けるものですが……、不敬を承知で言いますが、 あの殿下は本当に何なのでしょうね」
マリアは苦笑いした。
「きっとイリーナが 何かもらっているんじゃないかしら」
「おかしいですよ、 婚約者はシャーロット様なのに」
「いいじゃない。 殿下にもらった物なんて身に着けたくないし」
マリアの言葉に、ララが目を丸くした。
「お嬢様、 本当にお強くなりましたね」
そんな話をしている間に、馬車が学園の門をくぐって中に入っていく。
馬車乗り場に到着し、ララに手伝ってもらって馬車から降りると、
そこにはたくさんの 着飾った生徒たちがいた。
女性は色とりどりのドレスを、男性はスーツを着て、皆楽しそうに笑い合っている。
(なるほど、こういう雰囲気なのね)
と、そのとき。
横から「 シャーロット」 という声が聞こえてきた。
声の方向を見ると、そこに立っていたのは、 青色のドレスを着たバーバラと黒いタキシードを着たカルロス。
2人は、お辞儀をするララと、
「お嬢様をよろしくお願いいたします」
「もちろんです」
「ああ、 任せてくれ」
という会話をした後、 マリアに微笑みかけた。
「行きましょう」
「行こう」
「ええ」
マリアは2人と共に 会場の大講堂に向かった。
周囲を見ると、婚約者がいる女性は皆男性にエスコートされている。
(もしかして、ダニエル殿下と一緒じゃないのに、私が肩身を狭く思わないように待っていてくれたのかしら)
2人に改めて「ありがとう」と言うと、「大したことじゃない」と笑われる。
そして、大講堂に到着し、マリアは大きく目を見開いた。
(すごい、こんなに 豪華だとは思わなかった)
真面目で荘厳な雰囲気の大講堂が、華やかなパーティ会場に変わっている。
あちこちに花で飾り付けられた丸テーブルがあり、
会場の端の長テーブルには、たくさんの料理が並んでいる。
ウェイターらしき男性が、お盆の上に飲み物を載せて、生徒たちに配っている。
3人は、それぞれ料理を取ると、テーブルの1つを陣取って会話をし始めた。
顔が広い カルロスのところには、次々と男子生徒が来て挨拶をしていく。
バーバラも同様で、次々と女子生徒が来ては挨拶をしていく。
驚いたことに、 マリアのところにも結構な女子生徒が来てくれた。
同じクラスの女性などで、彼女たちはどうやら仲良くしたかったようなのだが、
マリアが、授業が終わってすぐに出て行ってしまうため、話す機会がなかったらしい。
(中身が変わったことがバレないように気をつけていたけど、 こうやって話してみると もっとちゃんと関わっておけばよかったと思うわね)
そして、人がはけて3人になった、その時。
「お姉様」
突然、 妹のイリーナがやってきた。
婚約者に放っておかれた姉と、その婚約者と入場した妹の組み合わせに、 会場の雰囲気がほんの少しだけ硬くなる。
(何の用かしら)
そう思ってイリーナに「どうしたの」 と話しかけると、彼女が申し訳なさそうに俯いた。
「生徒会の引き継ぎの件で、色々ご迷惑をおかけしたので、お詫びに飲み物持ってきました。お姉様、ぶどうのジュース、お好きでしたよね」
イリーナが、ウエイターが持ってきたお盆からグラスを2つ取って、そのうち1つをマリアに渡す。
マリアは目を白黒させた。
まさか友好的に近づいてくるとは思わなかった。
イリーナに「乾杯しましょう」と言われ、マリアはグラスをカチリと合わせると、 飲み物に口をつけた。
さわやかな味が口に広がると同時に、若干の苦味を感じる。
(美味しいけど、少し苦みがあるのね)
そんなことを思っていると、突然イリーナが俯いた。
「ごめんなさい、お姉様。 ダニエル殿下を取るような形になってしまって。でも、ダニエル殿下がどうしてもって言うから」
「そうなの」
「ええ、お姉様より私の方が数倍魅力的なんですって。お姉様は女性としての魅力に欠けるでしょう?」
いきなり始まった悪口に、マリアは呆気にとられた。
そばで聞いていた バーバラとカルロスが、一瞬怒りの表情を浮かべる。
(この子、 何しに来たのかしら)
そう思うものの、相手にするのも面倒だと、マリアは穏やかに口を開いた。
「ダニエル様が決めたことなら、別にあなたが謝る必要はないわ」
「でも」
「気にしないから大丈夫よ」
マリアを睨みつけるイリーナ。
そして、意地悪く笑うと、何故かしくしくと泣き始めた。
「……え?」
マリアは戸惑った。
この子は一体何をしたいのだろうか。
――と、その時。
「何をしている!」
会場中に怒声が響き渡った。
振り返ると、そこに立っていたのはダニエル王子。
「ダニエル様あ、お姉様があ」
イリーナが、走り寄って泣きながらダニエルに縋りつく。
マリアが呆気にとられる中、ダニエル王子が指を突き付けて、大声で叫んだ。
「お前がこうやってイリーナをいじめているのは知っている! 今日という今日は我慢ならん! この場でお前を断罪する!」
(……は?)
ポカンとするマリア。
会場がシーンと静まり返った。




