表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【コミカライズ開始!】宿屋の看板娘、公爵令嬢と入れかわる ※Web版  作者: 優木凛々
第3章 宿屋の看板娘、元に戻ろうと画策する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/40

6.マリア、港町タナトスへ行く


 旅は極めて順調だった。

 2日目の夜に、バーバラが合流した。



「バーバラ! ごめんなさいね、急に出発を早めて」

「いえいえ、事情は察しましたから大丈夫ですよ。……シャーロットも大変ですね」

「……ありがとう」



 そこから3日は、マリア、カルロス、バーバラの3人で1つの馬車に乗って旅を続けた。


 会話をしながら、馬車の窓から見える紅葉を楽しんだり、カードゲームをしたり。

 途中の街に寄って、買い物をすることもあった。




 ――そして出発して5日目の夕方。

 オレンジ色の空の下、馬車は半島の入り口にある、このあたりの中心都市ラムズに到着した。


 ラムズの領主館には、バーバラとそっくりの姉が住んでおり、

 3人を温かく迎え入れてくれた。


 そして、ガラス工房や、瓶詰工房を見学したり、関係者から話を聞くなど忙しく過ごし、

 気が付けば、滞在予定12日のうち、8日が過ぎていた。


 マリアは思った。

 そろそろタナトスに行く話をしなければ、と。


 カルロスとバーバラに、1人でフラッとタナトスに行こうと思っていると話をしたところ、「1人は危ない」と止められ、

 滞在10日目にバーバラが親族のお茶会に出るので、

 その時に、カルロスとお忍びの形で行くのが、最も自由がきいて良いのではないか、という話になった。



(本当は1人で行きたかったけど、確かにシャーロットのこの容姿だと1人は危ないわね)



 ――そして、滞在10日目。

 早朝に朝食をとると、マリアはバーバラに別れを告げると、

 平民の服に着替えて、カルロスと共に領主館をこっそり抜けだした。


 ちなみに、カルロスは剣士風の格好だ。

 護衛も兼ねるため、帯剣している。


 2人は、人通りの多い大通りを歩き、馬車乗り場に向かった。

 混雑した馬車乗り場の中を、カルロスに、もみくちゃにされないように保護されながら、タナトス行の馬車を見つけ、乗り込む。


 そして、積んである荷物とカルロスの間に座ると、

 マリアは、ホッと一息ついた。



(はあ、久々の人混みは疲れるわ。カルロスは大丈夫かしら)



 自分は守ってもらったから良かったが、

 守ってくれた方は大変だったのではないだろか。


「大丈夫?」と心配して見上げると、彼は楽しそうに微笑んだ。



「心配ない。俺は楽しんでいる」

「そうなの?」

「ああ、こういう旅は久々だからな。君は大丈夫なのか?」

「大丈夫よ、ありがとう」



 ほどなく定員に達したのか、馬車が走り始める。

 乗っているのは商人らしき男性や家族連れなど10名ほどで、皆楽しそうに会話をしている。


 その様子を懐かしくながめながら、マリアの胸は高鳴った。

 数時間もすれば、タナトスの街だ。



(ああ、早く帰りたい)



 そう思う反面、マリアは複雑な気持ちになった。

 もしも元に戻ったら、もう2度とバーバラにも会えないし、カルロスともお別れだ。


 そうなった時のことを考えて、今朝バーバラには「どうしたんです?」と、怪訝な顔をされながらも、念入りに別れを告げたが……。



(カルロスは……、どうしよう)



 マリアは、ちらりと隣に座るカルロスを見た。

 彼は、2人に話かけてきた老婆に対応してくれており、丁寧に受け答えをしている。



(本当にいい人だよね。平民のおばあさんに、こんなに丁寧に受け答えするなんて、学園の他の貴族じゃありえない)



 彼女は軽く息を吐いた。

 胸の奥から、別れを告げたくないという気持ちが噴き出してくる。



(でも、まあ、仕方ないよね)



 こんなことがなければ、知り合う縁もなかった人だ。

 考えてもしょうがない。



(それに、戻れるとも限らないし、あまり深く考えるのは、やめた方がいいわね)



 そんなことを考えるマリアを乗せて、馬車は海岸沿いの街道を進んでいく。



 ――そして、約3時間後。

 馬車は、タナトスの街の入り口に到着した。



(着いた!)



 急く気を押さえ、カルロスの手を借りて馬車から降りると、そこには懐かしい景色が広がっていた。



(ああ、この風景がずっと見たかった)



 マリアは目を潤ませて、街をながめた。

 街の入り口から海まで緩い坂になっており、オレンジ色の瓦屋根が並んでいる奥に、青い海が見える。


 カルロスが、まぶしそうに目を細めた。



「いい所だな」

「……ええ、ずっと来たかったの」

「どこか行きたいところあるのか?」



 そう問われ、マリアは考え込んだ。


 計画では、宿ふくろう亭に行って『久々に会う友人』であるシャーロットと会うつもりだ。

 そして、何か理由をつけて部屋に上がり、魔力循環を試す。


 もしも元に戻れれば、それぞれ自分の居場所に戻り、

 戻らなければ、2人で次の相談をするつもりだ。



(でも、何となくだけど、上手くいく気がするわ)



 この街に来て、何となくだが、自分の魂が何かにひっぱられるような感覚がある。

 期待し過ぎてはいけないが、元に戻れるのではないだろうか。



「どうした、大丈夫か?」



 黙り込むマリアに、カルロスが気遣うように声を掛ける。

 彼女は思考を振り払うと、彼ににっこり微笑んだ。



「じゃあ、まずはあそこの船着き場に行ってみない? きっと綺麗だわ」



 宿まで少し遠周りになるが、お気に入りの場所をカルロスに見てもらって、

 それから宿に向かおう。


 2人は並んで、白い石畳の道の上をゆっくり歩き始めた。

 途中で、マリアが好んでよく食べたホットドッグの店に寄るなど、楽しく食べ歩きしながら進む。


 カルロスが不思議そうな顔をした。



「来るときも思ったが、シャーロットはこういったことに意外と慣れているのだな」

「そう? 見様見真似よ」



 そんな会話をしながら、船着き場に到着すると、

 カルロスが目を細めた。



「綺麗なところだな」

「ええ、そうね」



 船着き場の前の広場には、可愛らしいレンガ造りの倉庫が並んでおり、その奥には赤や黄色に美しく紅葉した山々が見える。

 その横に広がるのは、どこまでも続く青い海。


 カルロスが、並んでいるベンチの1つにマリアを座らせた。



「座っていてくれ。あそこで飲み物を買ってくる」



 指を差す方向を見ると、食べ物の屋台が出ており、人が並んでいる。


 カルロスに「ありがとう」とお礼を言って見送ると、

 マリアは、軽く息を吐いた。

 大好きな場所に戻ってこられたことに、安心感を覚える。


 海をながめながら考えるのは、自分の体の中に入っているシャーロットのこと。



(……あの子、戻って大丈夫かしら)



 なるべくシャーロットの負担を減らそうと、がんばってきた。

 勉強も生徒会もできる限り努力したし、

 カルロスとバーバラ以外の人間と、あまり交流を取らないように気を付けてきた。


 引っ越しもしたし、ダニエル王子から仕事も断ったし、

 以前のような、追い詰められて死を望むような環境ではないと思う。



(でも、これって、私が作った環境なのよね)



 果たして、彼女に同じ環境が維持できるだろうか。

 また元通りになって、大変な生活を送る羽目になってしまわないだろうか。


 心配になるものの、彼女は首をブンブンと横に振った。



(私が心配しても仕方がないことだわ。彼女の人生は、彼女のものなのだから)



 どんな環境であろうとも、自分のことは自分で守るしかない。


 マリアがそんなことを考えながら、ボーっと海をながめていた、そのとき。




「おねえちゃん!」




 不意に、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。



「待ちな、コレット! そんなに走ったら転んじまうよ!」



 続いて聞こえてくる、懐かしい声。


 目を見開いて振り向くと、女の子が元気よく走っていく姿が見えた。

 その後ろを、中年の女性が、汗を拭きながら追いかけている。



(コレット! サラ!)



 そして、その走っていく先を見て、マリアは思わず立ち上がった。


 そこにいたのは、紺色がかった髪に紫色の瞳をした自分の元の姿・宿屋の娘マリア(シャーロット)であった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
書籍1巻発売中!
ぜひ手に取っていただけると嬉しいです(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)ペコリ。:.゜ஐ⋆*

★各書店サイトはこちら⇒  ◆Amazon  ◆楽天ブックス  ◆Book Worker  

1ebelgfrhme6kx8s54x1ugpl7e8_hwf_eb_k2_mvyq.png
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ