(閑話5)ダニエル王子とイリーナ
マリアたちがタナトスに向けて出発した5日後。
学園にある生徒会長室にて、ダニエル第3王子が窓の外をながめながら、忌々しそうに舌打ちしていた。
「ちっ、腹の立つことばかりだな」
彼のここ最近の生活は不満だらけだった。
自由時間が少なくなり、遊びに行けなくなったのだ。
「原因は、あの女だ」
地味な性格のつまらない女で、取り柄は容姿だけのクセに、「婚前ですから」と指一本触れさせようとしない。
じゃあ他で価値を示せと、王宮の仕事や生徒会の仕事を押し付け、それなりに便利に使っていた。
嫉妬心の強い女で、義妹のイリーナと仲良くすれば分かりやすく顔色を変え、その様を見るのも実に面白かった。
仕事の多さに喘ぎ、疲弊していく様にも愉悦を感じた。
そういう意味では悪くない関係を築けていたが、半年ほど前に状況が一変する。
1週間ほど体調を崩して休んだ後、突然王宮の仕事を投げ出したのだ。
以前であれば、価値を示せと凄めば大人しくなったが、
そう言っても全く意に介さず、父親である国王の命令に背けないとつっぱねてきた。
そんな態度は許せないと、更に迫ろうとしたところ、
どこからか話が漏れたらしく、母親である王妃から
「風の噂で聞きましたが、シャーロットに仕事を押し付けようとしているようですね」
と厳しく釘を刺された。
以降、監視の目が厳しくなり、王宮の仕事を自分でする羽目になってしまった。
腹が立ってイリーナと今までより一層親密にするものの、
1度諫めにきただけで、あとは全く意に介さず、最近では視線も向けてこない。
そして、こちらがイライラしているのを他所に、成績を伸ばし
卒業研究では特許申請をするという快挙を成し遂げた。
食品などと馬鹿にしたが、今やそれが今年一番の注目株になってしまった。
「ふん、まあ、ちょうどいい。その成果を寄越せば、今までのことをチャラにしてやる」
そう思って、父親のエイベル公爵に打診するも、
現れたのは兄のクリストファー・エイベル。
公爵が王都を出ることを禁止する直前に王都を出てしまい、どうにもならなくなってしまったらしい。
代わりにと、卒業論文のテーマに合った著名な詩歌研究家と、大学で詩歌を研究する研究員2名をサポートにつけられたが、腹の虫が治まらない。
「ちっ、何もかも気に食わない」
ダニエルが、鋭い目つきで外を睨んでいると、
コンコンコン、とドアをノックする音が聞こえてきた。
「入れ」
「はあい、失礼しまあす」
入ってきたのは、シャーロットの義妹のイリーナ。
ピンクのふわふわ髪に潤んだ目をした、シャーロットとは真逆の容姿だけが取り柄の女だ。
彼女は笑顔でダニエルの近くに来ると、体を寄り添わせた。
「どうしたんですかあ、お顔が怖いですう」
ダニエルは、笑顔を作りながら、内心面倒臭いなとため息をついた。
容姿が好みで、すぐに体を許してくる上に、仲良くすればシャーロットが嫌がる。
そんな理由から手元に置いたが、最近面倒と感じるようになってきた。
やや憂鬱そうな顔を見て、イリーナが心配そうな顔を作った。
「大丈夫ですかあ? もしかして、またお義姉様が?」
「ああ」
「まあ! お義姉様は本当に性格が悪くていらっしゃるから。聞いてください、この前も……」
ぺらぺらと話し始めるイリーナの話に、笑顔を貼り付けたまま適当に相槌を打ちながら、ダニエルは思案に暮れた。
これ以上あの女を増長させる訳にはいかない。厳しい躾が必要だ。
ダニエルは、イリーナを笑顔で遮った。
「それは酷いな。それでなんだが、イリーナ。シャーロットが酷いという証拠を揃えることはできるか?」
イリーナは目をぱちくりさせると、あざとく笑ってうなずいた。
「はい、もちろんです。少し時間はかかりますが、揃えてごらんにいれますわ」




