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【コミカライズ開始!】宿屋の看板娘、公爵令嬢と入れかわる ※Web版  作者: 優木凛々
第3章 宿屋の看板娘、元に戻ろうと画策する

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1.マリア、旅に出ることにする

 

 高い空が秋の訪れを感じさせる、夏休み明けの初日、学園にて。


 午後の授業が終わってすぐ、マリアは教室を出ると、生徒会室に向かった。

 階段を急いで上がり、廊下を早足で進んでいく。


 そして、生徒会室の扉を開き、



「こんにちは、お久し振りです」

「そんなに急いでどうしたんだ?」



 と声を掛けてきた、カルロスとバーバラに

「お久し振りです」と手早く挨拶すると、2人の目の前に、バサリと地図を広げた。



「……これは?」

「どうしたんです?」



 2人が目をぱちくりさせる。


 マリアは、首をかしげる2人に対し、「相談があるの」と言うと、

 港町タナトスのある半島を指差した。



「ここに行きたいのだけど、何か良い方法はないかしら」





 *





 夏休みが終わる5日前。

 マリアは、自室で思わず大声を上げた。



「見つけた! これだわ!」



 彼女が見つけたのは、40年前のとある研究者の書いた本。

 そこには、同じ馬車に乗って事故にあった2人の少女の中身が入れ替わった話が書いてあった。


 病院で気が付いた2人は、

『川のほとりで出会って、呼ばれたのと逆の方向に引っ張られて体が入れ替わった』

 と主張したらしい。


 そして、本の最後には、こう書かれていた。

『お互いに手を握って魔力循環をさせたところ、元に戻った』


 マリアは、思わずグッと拳を握り締めた。

 自分とシャーロットの話にそっくりではないか!



「これよ! 絶対にこれだわ!」



 彼女は浮足立った。

 そうと決まればタナトスに行くだけだ。

 タナトスでシャーロットに会って、元に戻ろう!



「良かった……やっと戻れる……」



 体が入れ替わって約半年。

 ララやバーバラ、カルロスなど仲の良い友人もできた。

 勉強も意外と面白いし、何だかんだ楽しくやってはいる。


 でも、やはり元に戻りたい。



「みんな元気かな。早く会いたいな。おみやげいっぱい買っていかないと」



 そして、どうやって行こうかと調べ始め、彼女は難問にぶち当たった。



「貴族は理由なく王都を離れてはいけないのね……」



 図書館で親しくなった司書のお姉さんにさりげなく尋ねたところ、

 王都に住む貴族が王都を離れるのは難しいらしい。


 彼女曰く、簡単に戻れるとすると、自領に帰るか、何か正当な用事があって行くかのどちらかで、ただの旅行となると数カ月前から申請が必要らしい。



(困った、タナトスに行く正当な理由なんて思いつかない)



 彼女は落胆した。

 せっかく戻れるかもしれない方法を見つけたのに、試せないなんて!


 それでも何とかならないかと考えた末、



「そうだ! バーバラとカルロスに相談してみよう!」



 友人たちを頼ることを思いつき、

 朝は朝会があるため我慢し、授業終了後すぐに生徒会室に飛び込んだ、という次第だ。




 *




 突然マリアから

「ここに行きたいのだけど、何か良い方法はないかしら」

 と地図を見せられたカルロスとバーバラは、目をぱちくりさせた。


 バーバラが眼鏡をクイッと上げた。



「ええっと、なぜここに行きたいのですか? 私の記憶では、ここには特に何もなかったと思うですが」

「夏休み中に『南半島の夕べ』という本を読んで、行きたいと思ったの」



 マリアが考えておいた理由を言うと、バーバラが「あの本ですか」とうなずいた。



「確かに、姉があの領地に嫁ぐときに、私も読みましたが、良い本ですね」

「バーバラは行ったことがあるの?」

「いえ、手紙だけで、行ってみたいとは思っていました」



 マリアは内心「おお」と思った。

 思わぬところで心強い仲間ができた。


 カルロスが考えるように地図をながめながら、口を開いた。



「この場所だと、馬車で1週間というところか。在学中に行くとなると、卒業研究と絡めるのが現実的な気がするな」



 卒業研究とは、学園3年生が、2学期から3学期にかけて取り組む研究のことだ。


 研究テーマは「王国の発展に寄与する」ことであれば自由で、

 1人で何か調べてもいいし、グループを作って共同研究してもいいらしい。



「私の兄は、友人何人かと辺境伯領に来て、辺境の地で作られた詩を調べて論文にしていたし、他にもそういった話を聞く。恐らくだが、卒業研究という名目ならば、比較的簡単に王都を出られるのではないかと思う」



 なるほどとマリアはうなずいた。

 卒業研究のためならば学校を休んでも問題ないと聞くから、これは非常に良い方法な気がする。



「つまり、この半島に何か研究すべきものがあればいいのね」

「ああ、そうなる」



 すると、黙って聞いていたバーバラが口を開いた。



「……夏休みに、姉が王都に来まして、面白い物を持ってきました」

「面白いもの?」

「はい、瓶に入った魚です。姉の話では保存食だそうです」



 カルロスが、「瓶に入った魚?」と訝しげな表情をする。


 マリアはすぐにピンときた。

 もしかして、食料品屋に置いてあったアレじゃないだろうか。


 彼女はペンを取ると、傍にあった紙に、小魚が入っている封がされた瓶の絵を描いた。



「こんな感じではなくて?」

「そうです。よく知っていますね」



 バーバラによると、この瓶詰は領主館の料理長が考案したものらしく、

 1年位以上味が変わらず保存できるため、日持ちしない魚介類を他領に売るチャンスだと期待されたが、思うように広がっていないらしい。


 まあ確かにね、とマリアは思った。

 食料品屋で売っているのを見た時、こんなの一体誰が買うんだろうと思った記憶がある。



(変色して目の白い魚が、濁った水に浮いていて、何か気持ちが悪かったのよね)



 すると、カルロスが興味深そうに口を開いた。



「確かに魚だと受けが良くなさそうだが、果物なら悪くないんじゃないか」



 バーバラがうなずいた。



「ええ、実は私も同じことを思いまして。カルロスのところも、日持ちしない特産品を抱えているなと」

「ああ、もしもこれで日持ちしない果物を、腐る心配なく出荷できるようになれば、間違いなく領地は潤う」



 なるほどとマリアがうなずいた。



「そうね。野菜のピクルスなんて入れたら、彩りも良くて受けそうな気がするわ」



 カルロスとバーバラが「おお」という顔でマリアを見た。



「それはいいな。可能性を感じる」

「魚という拘りを捨てれば色々考えられそうですね」



 3人は真面目な顔で相談し始めた。

 庶民の食べ物、というところが難色を示される可能性もあるが、実用的だし、成功すればお金にもなりそうだし、これは良い研究テーマなのではと話し合う。

 何と言っても、半島に行くという名目が立つのは素晴らしい。


 カルロスが口を開いた。



「では、卒業研究は我々3人でチームを組むということで、どうだろうか」



 バーバラが眼鏡を上げながらうなずいた。



「ええ、賛成です。面白くなりそうです」

「私も賛成ですわ!」



 マリアが声を弾ませた。



(これで何とかタナトスに行けそう!)



 その後、3人は話し合いをし、まずは研究テーマを学園側に提出してみることで話がまとまった。






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