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【コミカライズ開始!】宿屋の看板娘、公爵令嬢と入れかわる ※Web版  作者: 優木凛々
第2章 宿屋の看板娘、公爵令嬢のフリをがんばる

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3.マリア、魔力回路を開く

 その日、マリアは一睡もしないまま、学園に向かった。

 少し寝ようかとも思ったのだが、朝日を浴びてしまったせいか、全く寝付けなかったのだ。


 そのせいで、学園では散々で、

 先生の声が子守唄に聞こえ、授業中に何度も机に頭をぶつけそうになった。


 そして、何とか授業を終わらせて生徒会室に行って、バーバラと打ち合わせを始めたものの、頭が全く働かず。


 次から次に頓珍漢なことを言うマリアに、バーバラがとうとう事情を尋ねた。



「どうしたのですか。お昼の時も思いましたが、今日は何だか変ですよ、体調が悪いのですか?」

「ごめんなさい……、少し寝不足なの」

「……もしかして、昨日のアレの件で、眠れなかったのですか?」



 バーバラが、チラリとダニエルの席を見る。

 マリアは、「違うわ」と苦笑いすると、そっと目の前の友人をながめた。



(1人ではもう限界だし、相談してみようかな)



 バーバラは成績もいいし、魔法が使えるであろう貴族だ。

 何か知っているかもしれない。



「……実は、魔法のことで悩んでいて」



 マリアがそう切り出すと、バーバラが意外そうに目をぱちくりさせた。



「魔法、ですか」

「ええ、昨日魔法を使おうと思ったら、使えなくなってしまっていて」



 バーバラが「なるほど」とうなずいた。



「もしかして、しばらく使っていなかったのではないですか?」

「ええ、そうだと思います」

「では、魔力を思い切り放出してみたらどうですか。うちの母も以前使えなくなった時、これをやったら治りましたよ」



 マリアは、ホッと胸を撫で下ろした。

 魔力とは、しばらく使わないと詰まったりするものらしい。



(良かった。中身が入れ替わったから魔法が使えなくなったかと思った)



 安堵するマリアの前で、バーバラが考え込んだ。



「でも、シャーロットの魔力量で全力放出となると、ちょっと危険ですね。学園の魔法練習場を借りられれば良いのですが、魔法の授業を取っていないと借りるのが難しいですしね……」



 そして、しばし逡巡の末、バーバラは「良いことを思いついた」という風に顔を上げた。



「カルロスのところに行きましょう」

「カルロス?」

「ええ、恐らく今ごろ練習場でしょうから、話が早いと思います」



 2人は生徒会室を出ると、階段を下りて校舎を出た。

 生徒たちが楽しそうにくつろぐ、色とりどりの夏の花が咲き乱れた中庭を通り抜け、学園の敷地の端の方に歩いて行く。



(そういえば、こっちの方面には来たことがないわね)



 マリアが、キョロキョロしながら、迷いなく歩くバーバラの後に付いていくと、

 目の前に大きな白壁の頑丈そうな建物が見えてきた。


 入り口の上には『魔法練習場』という看板が掛かっている。



(へえ、これが魔法練習場)



 中に入って、すぐにある階段を上がると、中はすり鉢状になっており、

 中央には、大きな長方形の広場のような広い空間があった。

 空間は、透明の壁のようなもので4つに区切られており、そのうち3つで動きやすそうな服装をした生徒たちが、火や水などを手のひらから出している。


 マリアは度肝を抜かれた。



(すごい! 魔法ってあんな感じなんだ!)



 シャーロットの記憶で見て何となく知ってはいたが、実物は迫力が違う。

 彼女は食い入るように、それらをながめた。



(手から火が出ているけど、熱くないのかしら。水が出るのは便利そうね。いちいち井戸から水を汲まなくても済むし。土って何に使えるのかしら。壁とか作れるのかしら)



 そんな彼女の横で、バーバラが何かを探す。

 そして「いましたね」とつぶやくと、下の方を指差した。



「カルロスです」



 指が差された方向を見ると、そこには動きやすそうな服を着て、剣を持ったカルロスが立っていた。

 他にも10人ほど生徒がおり、それぞれ手に武器を持っている。



「カルロス、剣を持っているわね」

「私も詳しくはありませんが、彼のような複数属性持ちは、武器を持った方が強いそうです」




 ――と、そのとき。


 ガキン!


 カルロスが、男子生徒1人と戦い始めた。

 目にもとまらぬ速さで、激しく剣を打ち合せる。



(わ! すごい!)



 しばらくして、相手の男子生徒がカルロスから距離を取ると、

 何かを叫んで剣を横に振った。

 剣から炎が放出され、すごいスピードでカルロスに飛んでいく。



(……っ!)



 マリアが瞠目する中、カルロスは、剣を持っていない方の手でそれを消し去ると、

 何かを唱えて、片手で剣を縦に振り下ろした。

 何か見えないものが、凄いスピードで男子生徒に向かって飛んでいく。



 バンッ!



 次の瞬間、後方の結界から凄い爆発音がして、男子生徒が、へなへなと膝を突いた。



「ま、まいった」



 わあっと、2人を取り囲んでいた生徒たちが歓声を上げる。


 マリアは、思わず手を叩いた。



「すごい!」

「さすがは辺境伯領で実戦を積んでいるだけありますね、見事なものです」



 バーバラも、感服したように拍手する。


 マリアは、感心してカルロスをながめた。

 体格が良いとは思っていたが、こんなに強いとは思わなかった。


 拍手をしていると、カルロスが、ふとマリアたちを見上げて、驚いた顔をする。

 他の生徒たちに何か断って、観客席の方に走り寄ってくると、2人に向かって大きな声を出した。



「こんなところに来るなんて珍しいな、どうかしたのか?」

「ええ、実はお願いがありまして」



 座席まで上がってきたカルロスに対し、バーバラが、かくかくしかじかと、ここに来た理由を説明する。


 カルロスが「なるほど」とうなずいた。



「確かにシャーロットの魔力量だと、思い切り放出させたら危険だな。少し待っていてくれ、空いているスペースを借りてこよう」



 そして、カルロスも付き合ってくれるということになり、

 空いているスペースで、魔力の放出をしようと試みたのだが……



「……だ、だめだわ」



 試すこと8回目、マリアは肩で息をしながら、ガックリとしゃがみ込んだ。

 バーバラにやってみせてもらった通りにしても、カルロスのアドバイスに従っても、

 何をどう頑張っても魔力が出ないのだ。


 ゼイゼイ息を切らすマリアを見て、バーバラとカルロスが首を傾げた。



「どうしたんでしょうね」

「もしかすると、別に原因があるのかもしれないな」



 カルロスが、片手をマリアに差し出した。



「私の手の上に、手を置いてくれるか」



 意外と大きな手ねと思いながら、マリアが手をそっと置く。

 カルロスは「失礼する」と言ってマリアの手を握ると、目をつぶって息を軽く吐き始めた。


 握られた手がぽうっと暖かくなって、くすぐったいような不思議な感覚がする。


 しばらくして、カルロスが不思議そうな顔で目を開けた。



「おかしいな、魔力回路が閉じている」



 魔力回路とは、魔力が通る血管のようなもので、これが閉じていると、魔法が使えないらしい。



「多分しばらく使っていなかったからだと思うが、ここまで完璧に閉まっていると、魔法は使えないな」



 シャーロットの記憶によると、どうやら貴族は幼少期に、魔力回路を開く特訓をするらしく、それを経て魔法が使えるようになるらしい。



「ということは、もう1回開けば良いということですよね」

「そういうことだ。折角だから、ここでやっていったらどうだ」



 バーバラは、所用のため一旦校舎に戻る必要があるため、カルロスが付き合ってくれることになった。


 マリアは、カルロスの指示に従ってベンチに深く座ると、手を膝の上で軽く組んだ。



「では始めよう。まず、目をつぶって全身の血液の流れを感じるところからだ」



 低く穏やかなカルロスの声に従い、マリアは目をつぶって血液の流れを意識し始めた。



「それから、お腹のあたりに力を溜めて、大きく深呼吸する。全身に何か流れているのを感じたら、そこに意識を集中させていって……」



 カルロスの指示に従いながら、深呼吸したり力を入れたりを繰り返すと、体の中を何かが流れる感覚がする。



(なるほど、これが魔力なのね)



 そんなことを考えながら、深呼吸を繰り返していくと、

 意識が、すーっと遠くなっていく。



(……なんだかちょっと気持ちが良いかも)



 そして、更にそれを続けると、




 ふわり




 不意に、体が浮かぶ感覚がした。



(え? 何?)



 驚いて、目をつぶったまま、カルロスに

「浮かぶ感じがするわ」

 と訴えるが、返事がない。


 それどころか、さっきまで聞こえていた生徒たちの声も消え、シンと静まり返っている。



(……あれ?)



 これはおかしいと、目を開いて、



(ええ!!)



 マリアは、驚愕のあまり、雷に打たれたように立ちすくんだ。


 目に入ってきたのは、真っ白な空に、黒い太陽。

 眼前には、灰色の広い川が流れており、対岸には黒い森が見える。


 その見覚えのある忘れられない光景に、

 マリアは目を見開いたまま、かすれた声でつぶやいた。



「……まさかここって、黄泉の川?」



 そこは、マリアとシャーロットが入れ替わった、黄泉の川のほとりだった。








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