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【コミカライズ開始!】宿屋の看板娘、公爵令嬢と入れかわる ※Web版  作者: 優木凛々
第2章 宿屋の看板娘、公爵令嬢のフリをがんばる

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1.マリア、兄に襲来される

 マリアがシャーロットの体に入ってから、約3か月。

 初夏の日差しがまぶしいお昼前。


 夏用の制服を着たマリアが、お弁当の入っている袋を片手に、学園の中央棟にある掲示板を見上げていた。

 掲示板に大きく張り出されているのは、先週行われたテストの順位だ。



(良かった、ギリギリだけど、上位5人に入っている)



 シャーロットが、定期テストで毎回5位以内に入っている、と知った時は焦ったが、猛勉強の末、何とか5位になることができた。

 まあ、9割くらいはシャーロットの記憶で解いたので、マリアの努力のお陰かと言われれば微妙なところだが、何点かは上乗せできたと思っている。



(これでしばらく勉強からは解放される)



 ホッとしながら掲示板を離れ、裏庭に向かって歩き始める。


 裏庭の奥にある木漏れ日の下にある小さな東屋に行くと、

 そこには同じ生徒会メンバーである、バーバラが本を読んで待っていた。



「こんにちは、バーバラ」

「ごきげんよう、シャーロット」



 2人は親しげに挨拶を済ませると、東屋の中央にある白い石のテーブルの上に、それぞれ持って来たお弁当を広げた。



「バーバラのサンドイッチ、美味しそうね」

「シャーロットのお肉も負けていませんよ」

「取り換えっこしましょうか」

「ええ、そうしましょう」



 2人は、肉とサンドイッチを交換すると、楽しく会話をしながら食事を始めた。


 青葉がやさしい風に吹かれて揺れる中、

 生徒会のことや、最近の出来事など、話に花を咲かせる。


 そして、お昼を大体食べ終えた頃、



「こんにちは」



 同じく生徒会メンバーであるカルロスが、笑顔で東屋にやってきた。



「領地から送ってきた桃で、料理長がタルトを作ったので、持ってきた」



 マリアが、まあっと目を輝かせた。

 カルロスが、「君は、本当に甘い物が好きだな」と口元を緩ませる。


 3人は、それぞれタルトを紙ナプキンの上に取ると、笑顔で食べ始めた。


 マリアとバーバラが、思わず目を見開いた。



「おいしい! 今まで食べた桃のタルトの中で一番だわ!」

「これは本当に素晴らしいですね。こんな美味しいタルトは久々です」

「そこまで喜んでくれたら、うちの料理長も大喜びだな」



 カルロスが、嬉しそうに笑う。


 美味しくタルトを食べながら、マリアは思った。


 私も随分貴族生活になじんできたわ。と。

 自分で言うのもなんだが、結構上手くやっていると思う。


 ちなみに、バーバラとカルロスの2人とは、

 先月行われた文化祭運営や、生徒会の総会開催などで親しくなった。

 シャーロットの代わりを務めようと、必死にがんばっていたら、いつの間にか仲良くなっていた感じだ。


 最初は、「中身がシャーロットじゃないってバレるんじゃないかしら」とハラハラしていたのだが、

 元々、シャーロットは、この2人とはそこまで親しくなかったらしく、



「シャーロット嬢って、実はこんな性格だったんだな」

「意外でしたね」



 と、驚きつつも受け入れてくれた。


 記憶を見てみたところ、

 シャーロットは、生徒会の仕事に加え、ダニエルから押し付けられた仕事をこなすことに精一杯だったし、

 昨年まで妃教育もあったことから、2人と話す時間もなかったようだった。


 マリアは胸を撫で下ろした。

 この分だと、バレることはなさそうだ。


 そして、2人と協力しながら生徒会活動に勤しんだり、

 一緒にお昼を食べたりして、学生生活をそれなりに楽しんでいる訳だが、

 マリアには別の悩みが出てきてしまった。



(ここまで親しくなってしまったら、中身がシャーロットに戻った時に、絶対に気が付かれるわよね……)



 疎遠になることも考えたが、いきなり自分がよそよそしくなったら

 2人が気にするだろうと思うと、それも難しい。



(……まあ、これはシャーロットが戻ったときに、対処してもらうしかないわね)



 きっと向こうでも、こういったことがあるだろうから

 お互い様ということにしてもらおう。


 そんなことを考えながら、タルトを食べつつ2人と会話する。



 そして、昼休みがもうすぐ終わる時間になり、

 3人は片づけを済ませると、東屋を出た。



「私とシャーロットは、午後の授業がないので帰ります」

「私は教室に戻る」



 3人は手を振り合って別れると、それぞれ歩き出した。


 マリアは、バーバラと会話をしながら、馬車乗り場へ向かう。 


 そして、馬車乗り場につながる、渡り廊下を歩いていた――、そのとき。


 中庭から、生徒たちのざわめく声が聞こえてきた。



(何?)



 ふと、そちらを見て、マリアはげんなりとした表情になった。



(……また、あの2人……)



 視線の先にいるのは、傲慢そうな顔のダニエル第3王子と、あざとい表情を浮かべた義妹のイリーナ。

 他の生徒と何か揉めているらしい。

 ちなみに、王子とイリーナは体を密着させるように腕を組んでおり、どう見ても距離感がおかしい。



(……何か揉めているみたいだけど、どうせ、ロクなことじゃないわね……)



 マリアは遠い目をした。

 思い出すのは、2カ月前、謹慎が明けて学校に出てくるようになったイリーナと、ダニエル王子が、人目をはばからずイチャついていた姿だ。



(あれは本当に驚いたわね……)



 シャーロットの記憶を見て、2人が只ならぬ仲であるのは感じていたが、

 実際に見るとすごいインパクトだ。

 姉の婚約者に手を出す妹も凄いが、婚約者の妹に手を出す男も信じられない。


 シャーロットの記憶によると、婚約者のそういった行為については、注意するべきものらしいので、嫌々ながら、



「……イリーナと親密過ぎるのはお控えください」



 そう王子に提言してみたのだが、「ふん、やきもちか」と、傲慢そうに鼻で笑われた挙句に、



「お前が自分の価値を示すなら、考えてやらないでもない」



 と、上から目線で、王宮の仕事を押し付けようとしてきたので、それきりとなった。



(あの王子様、話が通じなさすぎる)



 シャーロットが戻って来た時に不都合がないように、努力しようと思っているが、さすがにアレは無理だ。



(シャーロットには申し訳ないけど、これについても戻ってから対処してもらうしかないわね。私じゃ悪化させそうだし)



 はあ、と深いため息をつくマリアを、バーバラが痛ましそうな目で見る。


 そして、エイベル公爵家の紋章の付いた馬車の前に到着すると、



「シャーロット、何かあったらいつでも相談して下さい。今日はゆっくりお休みになって」



 と、力付けるように、ギュッと手を握ると、「また明日」と自分の馬車の方へと歩いて行った。


 その後姿を見送りながら、マリアは感謝した。

 バーバラは、クールに見えるけど本当に優しい。



(いいお友達に恵まれたわ)



 そして、自分も馬車に乗り込むと、流れる外の景色をながめながら、憂鬱な気持ちで目を細めた。



(はー、帰りに嫌な物見ちゃったわ)



 せっかくタルトで楽しい気分になったのに、とため息をつく。



(でも、もうすぐ夏休みだわ)



 どうやら来月、「夏休み」と呼ばれるイベントがあるらしく、

 1カ月ほど学園に来なくても良いらしい。


 あの2人を1カ月見なくても良いと思うだけで、すごく気が楽だ。



(それに、ようやく本腰を入れて、元に戻る方法を調べられる)



 学園の図書館で調べた結果、

 元に戻る方法まではいかなかったものの、

 実は体が入れ替わったという話が幾つもあり、それらのほとんどが元に戻っていることが分かった。



(良かった、どうやら戻る方法がありそう)



 一先ず安心し、それらについて、もう少し詳細に調べようと思ったのだが、

 生徒会活動とテストで忙しくなってしまったため、なかなか調べる時間が取れなかったのだ。


 でも、1カ月も休みがあれば、思う存分、調べられる。



(早く夏休みにならないかしら。この機会に、ララと街に遊びに行ってみるのもいいかもしれない)



 ウキウキとそんなことを考えるマリアを乗せた馬車が、

 夏めいた白い雲の浮かぶ空の下、貴族街を走り抜ける。


 そして、学園を出て、約20分後。

 自分の小さな屋敷の前に到着し、彼女は、ホッと安堵のため息をついた。



(やっぱり帰ってくると落ち着くわね)



 そして、今日は久々に昼寝でもしようかしらと思いながら馬車から降りると、

 ララが玄関前まで出迎えてくれた。



「おかえりなさい、シャーロット様」

「ただいま、ララ」



 マリアは、ララに鞄を渡すと、あくびをかみ殺した。



「ララ、私、疲れたから少し寝るわ」

「最近お忙しかったですものね」



 ララが同情したような顔をする。



「ただ、お昼寝は後になさって下さい」

「どうして?」



 目をぱちくりさせると、ララが顔を近づけて声を潜めた。



「応接室に、クリストファー様がお待ちです」

「……え?」



 マリアは顔を引きつらせた。

 脳裏に浮かぶのは、爽やかに笑っているけど、目が全く笑っていない、腹黒い兄の顔。


 そして、「用件は何かしら?」と尋ね、「何でもお話があるそうです」という答えを聞いて、思った。


 それ、絶対にロクな話じゃないな、と。






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