(閑話3)義母と友人
マリアが学園に通い始めた頃。
エイベル公爵家の庭園内にある木々に囲まれた白い東屋にて
公爵夫人である、シャーロットの義母が、客人とお茶を飲んでいた。
客人の名前は、薄紫色の髪と瞳をした、トレイダス侯爵夫人。
元は隣国の貴族だったが、トレイダス侯爵との大恋愛の末、この国に嫁いできた控えめな雰囲気の上品な女性だ。
義母は、メイドたちを東屋から遠ざけると、不愉快そうにため息をついた。
「ごめんなさいね、本来ならば、イリーナを呼ぶところなのだけど、今謹慎中なのよ」
「まあ、どうされたのですか?」
侯爵夫人が、心配そうに目を見張る。
義母が怒りの表情を浮かべた。
「シャーロットにしてやられたのよ。あの娘にあんな度胸があったんなんて」
「そうなのですか? とても大人しそうな方に見えましたが」
「猫を被っていたのよ。さすがはあの女の娘ね。中身はとんでもない性悪だったわ」
義母が、あることないこと、シャーロットの悪口をぶちまける。
侯爵夫人が、それを「まあそうなの」「ひどいわね」と同情したような表情で聞き入る。
そして、思い切りぶちまけてスッキリした顔の義母が、申し訳なさそうに侯爵夫人を見た。
「……貴女には本当に申し訳ないことをしたわ。あんなに協力してもらったのに」
いえいえそんな、と侯爵夫人がとんでもないという風に首を横に振る。
そして、心配そうな顔で尋ねた。
「あのお菓子、もしかして効果がなかったのかしら?」
「いいえ、確かに効果はあったわ。でも、邪魔なメイドが医師を呼んでしまったの」
「……その医師は何か言っていなかった?」
「少し変だと思ったようだけど、他のメイドが食べて何ともないのを知って、納得したそうよ」
そう、と、侯爵夫人は微笑むと、優しい口調で言った。
「どうか気になさらないで。わたくしも貴女と気持ちは同じですもの。ダニエル殿下の妃に相応しいのはシャーロットさんじゃなく、イリーナ様よ」
義母が目をうるませた。
「分かってくれるのは貴女だけだわ。夫に言っても梨のつぶてで……」
「そうですの?」
「ええそうなの。あの人は何も分かっていないのよ」
そうなのですね、と侯爵夫人が目を伏せる。
しばしの沈黙の後、笑顔で顔を上げた。
「では、ダニエル殿下に直接アピールしたらどうかしら。イリーナ様は可愛くて魅力的ですもの。ダニエル殿下もきっとイリーナさんをお選びになるわ」
殿下に直接選んでもらえばいいのよ、とにっこり笑う侯爵夫人の手を、義母が感謝を込めて握った。
「その通りだわ。貴女は真の理解者ね」
「そんなこと言わないで。わたくしと貴女の仲じゃありませんか。それに、わたくしも、この国の繁栄を心から祈っている忠臣ですもの。イリーナ様が王室に入るべきだと思っていますわ」
ありがとう、と感動したように微笑む義母。
和やかな空気が東屋を流れる。
その後、2人は楽しくお茶をしつつ今後について話し合いをし、
「またお会いしましょうね」と親しげに手を振りつつ別れた。




