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地球と二世界往復サバイバル 〜 前世の異世界へ帰還したら、魔素欠乏症が治った件 〜  作者: Fランク冒険者


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第8話 蒸気と鋼の道具

 扉を開けると、金属を叩く重々しい音と蒸気の抜ける音が響いてきた。


 工房の中には、大小さまざまな工具や部品がところ狭しと並んでいる。壁際には銃器らしきものや金属製の装備品が吊るされ、奥には作業台と、用途の分からない機械がいくつも置かれていた。


 金属を加工する熱気と油の匂いが混じった、独特の空気。いかにも職人の工房といった雰囲気だ。


「いらっしゃい……。何か探し物かい……?」


 作業台の向こうから、一人の男が顔を上げた。


 背丈は俺の腰ほどしかないが、肩幅は並の男の倍近くある。分厚い胸板と丸太のように太い腕、そして顎下を覆う見事な髭。作業着の袖をまくり上げた姿は油汚れにまみれており、一目でドワーフの職人だと察しがついた。


「武器と防具を探しているんですが、見せてもらえますか……?」


「武器と防具だと……? ふん、使うのはあんたかい……?」


 ドワーフの男は、眼光の鋭い目でじろりと俺を検分した。


「そうです……。できれば魔法を使わずに扱えるものがいいんですが。」


 俺がそう答えると、男は太い眉をピクリと動かし、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「ほう……魔法を使わない武器だと……? 剣や弓ならいくらでもあるが、それじゃ芸がねえな。ちと面白いものがあるぞ……!」


 男は作業台の上に置いてあった布をガバッと取り払い、その下から一丁の重厚な拳銃を取り出した。


 見た目は回転式拳銃に近い。ただし、地球で見慣れた銃とは細部が違う。銃身の下には筒状の機構が取り付けられ、グリップの付け根にも小さな金属部品が組み込まれていた。


「こいつはSX-04……。蒸気式の回転拳銃だ!」


「蒸気式ですか……?」


「そうだ……! 魔法で弾を飛ばすんじゃねえ。水を加熱して蒸気を作り、その圧力を利用して弾を撃ち出す仕組みよ。魔力を持たねえ奴でも、扱いさえ覚えりゃ均等に威力を出せるすぐれものだ……!」


 それは俺にとって、かなり魅力的な説明だった。


 この世界に戻ってきてから、魔素が満ちた空気には慣れてきた。けれど、俺自身が魔法を使えるようになったわけではない。魔導具の中には魔力を必要とするものも多く、便利そうだからという理由だけで選ぶことはできなかった。


 その点、蒸気を動力にする銃なら問題はない。


「弾は……?」


「魔鋼製のペレットだ……! 通常の鉛弾より硬く、威力もあるぞ。装填数は六発。回転式だから、構造も頑丈で扱いやすい。」


 男は拳銃を武骨な手で掲げ、側面にある小さな部品を指で示した。


「圧力は三段階で調整できる。低圧なら反動も小さく、近距離で扱いやすい。中圧は標準的な設定だ。高圧にすれば威力と射程が跳ね上がるが、その分だけ反動も強烈になるから覚悟しな。」


「初心者でも扱えますか……?」


「低圧ならな。だが高圧は別だ……! 慣れてねえ奴がいきなり撃てば、手首の骨を折るぞ……!」


 男はそう脅すように言うと、俺の手へ乱暴かつ確実に拳銃を渡してくれた。


 ずっしりとした重さがある。金属製の銃身と蒸気機構を備えていることを考えれば当然だろう。グリップは手に馴染み、引き金の位置も悪くない。


 回転式拳銃という形状は、俺にとっても馴染みがある。もっとも、こちらの世界で実際に使うのは初めてだ。


「試し撃ちはできますか……?」


「ふん、度胸はあるようだな……! 裏に試射場がある。使い方も叩き込んでやるから、ついてきな……!」


 男は満足そうに頷くと、重い足音を響かせて工房の奥へと歩き出した。


 ナギとミナも、興味深そうに拳銃を眺めている。


「アレンさん、それで魔法を使わずに攻撃できるんですね……!」


「そうらしいね。実際に撃ってみないと分からないけれどさ。」


「どんな音がするんでしょう……?」


「それは撃ってからのお楽しみだね。」


 二人は顔を見合わせ、少しだけ笑った。


 ◇


 工房の裏手には、土を盛り上げた簡易的な射撃場が設けられていた。


 的は少し離れた場所に置かれており、周囲には弾痕の残った木板や金属板が並んでいる。ここで何度も試射が行われてきたのだろう。


「まずは水を入れる。ここが給水口だ……!」


 ドワーフの男は太い指で拳銃の側面を開き、小さなタンクに手際よく水を注いだ。


「次に加熱機構を動かす。水が蒸気になって圧力が上がるまで、少し時間がかかる。圧力計の針から目を離すなよ……!」


 説明を聞きながら、俺は操作手順を確認する。


 給水、加熱、圧力の確認、そして発射。構造は複雑そうに見えたけれど、実際の操作はそれほど難しくなさそうだ。


「最初は低圧で試す。構え方はこうだ……!」


 男が力強いフォームで見本を見せてくれた。


 両手でしっかりと握り、腕を伸ばしすぎない。照準を的に合わせ、引き金を引く。


 俺も同じように構えた。


「よし、撃ってみろ……!」


 引き金を引く。


 パンッ!


 乾いた音が射撃場に響き、銃口からわずかに白い蒸気が噴き出した。


 弾は的の中央から少し外れた場所に当たっている。


「ほう……! 初めてにしては筋がいいじゃねえか……!」


「思ったより反動がありますね。」


「低圧でもそれなりにはある。だが、そんだけしっかり抑え込めてりゃ十分だ。」


 俺は銃を下ろし、手の感触を確かめた。


 反動はあるけれど、想像していたほどではない。銃口の跳ね上がりも小さく、姿勢を崩すことはなかった。


「次は中圧で試してみます。」


「よしきた……! 圧力を上げるから、少し待て。」


 男が手慣れた手つきで機構を調整し、圧力計を確認する。


 準備が整ったところで、再び銃を構えた。


 パンッ!


 先ほどよりも強い反動が腕に伝わる。弾は的の中央付近に命中した。


「なるほど……。」


「中圧が標準だ。こいつを使いこなせりゃ一人前だぞ……!」


 最後に高圧を試すことにした。


 男がギロリと俺を睨み、念を押すように言った。


「高圧は反動がハンパじゃねえぞ。無理に撃つ必要はねえんだからな……?」


「一度だけ試してみます。もちろん、注意しますよ。」


「……ふん、頑固な奴だ。しっかり構えろよ……!」


 圧力計の針が上がる。


 俺は両手でグリップを握り直し、的に照準を合わせた。


 パンッ!


 今度は明らかに違った。


 発射と同時に腕へ強烈な衝撃が伝わり、銃口が大きく跳ね上がる。体勢を崩すほどではなかったけれど、連続して撃つには相当な訓練が必要だろう。


 弾は的の奥に設置された厚い鉄板に命中し、深い凹みを作っていた。


「どうだ……!?」


「威力は十分ですね。ただ、連射するには練習が必要そうです。」


「カカッ、当たり前だ……! 高圧は一発でデカい獲物を仕留める時の必殺技だと思っとけ。普段は低圧か中圧で十分だ。」


 俺は拳銃を見下ろした。


 魔法を使わずに扱える。操作も覚えやすく、圧力を調整すれば状況に合わせた使い分けもできる。弾の補充や水の確保といった手間はあるけれど、俺の目的には合っている。


「これを購入したいです。」


「おっ、気に入ってくれたか……! いい目をしてやがる。」


「はい。弾と予備の部品もお願いします。」


「弾は百発付けてやる。予備の弾倉も二つ、それから俺特製の革ホルダーもセットだ……!」


 男は工房へ戻ると、必要な品をズラリと作業台に並べた。


「本体と弾百発、予備弾倉二つ、ホルダー込みで八十シルバだ……!」


 決して安い買い物ではない。


 けれど、命を守るための装備と考えれば、惜しむべき出費ではないだろう。


「分かりました。それでお願いします。」


 俺が代金を支払うと、男は拳銃の不具合やメンテナンスの手順について、ぶっきらぼうながら細かく説明してくれた。


「特に蒸気機構はデリケートだ。使い終わったら必ず水を抜いて乾かせ。それと、定期的なオイルの注油も忘れるな。万が一、圧力計の調子がおかしくなったり蒸気漏れが起きたら、無理にバラさず俺のところへ持ってきな。」


「自分で分解するのは危険ですか?」


「当たり前だ……! 高圧蒸気炉をナメたら命吹き飛ぶぞ。メンテも修理も、作った俺に任せるのが一番安全だ。」


「頼もしいですね。……そういえば、まだお互いの名前を聞いていませんでしたね。俺はアレン。冒険者です。」


 俺が手を差し出すと、ドワーフの男はニッと笑い、油のついた大きな手で力強く握り返してきた。


「俺はアルトマンだ……! この『アルトマン魔導機関工房』の主さ。アレンか……覚えやすい名だ。困ったことがありゃ、いつでもこのアルトマンを頼りにしてくれて構わねえぞ……!」


「ありがとうございます、アルトマンさん。大切に使わせてもらいますよ。」


 信頼できる腕利きの職人と繋がれたのは大きな収穫だった。


 次は防具だ。


 俺が希望を伝えると、アルトマンさんは棚から頑丈そうな革製の胸当てを取り出した。


「こいつは魔鋼で補強したインナーレザーチェストだ……! 服の下にも着られるし、動きやすさも抜群だぞ。」


 手に取ってみると、見た目以上にしっかりした作りだった。胸や腹部を守る部分には薄い金属板が組み込まれているけれど、革の柔軟性も残されている。


「腕や膝はどうする……?」


「動きを妨げないものがいいですね。」


「なら、この肘当てと膝当てを組み合わせろ……! 関節の可動域を潰さねえ工夫がしてある。」


 アルトマンさんが出してきた防具を試着する。


 少し調整してもらうと、身体に無理なく収まった。これなら普段の移動や戦闘でも邪魔にならないだろう。


「こちらも購入します。」


「胸当てと肘、膝の防具で四十五シルバだ……!」


 拳銃と合わせて百二十五シルバ。手持ちの金はまだ残るけれど、これから必要になる物もある。無駄遣いはできない。


 支払いを済ませ、購入した装備を受け取った。


「いい買い物をしたな、アレン……! SX-04は俺の自信作だ。可愛がってやってくれよな。」


「ええ、大切に使わせてもらいますね。」


「ガハハ、メンテナンスを怠るんじゃねえぞ……!」


 豪快に笑うアルトマンさんに礼を言い、俺たちは工房を後にした。


 ◇


 工房を出ると、街の喧騒が戻ってきた。


 通りには武器や防具を扱う店が並び、職人や冒険者らしき人々が行き交っている。工房にいる間は作業音に紛れて気にならなかったけれど、外に出ると人の声や馬車の車輪が石畳を叩く音が耳に入ってくる。


「さて、武器と防具は揃ったね。」


 購入した品を確認してから、俺は通りの先を見た。


 この辺りには、武器や防具だけでなく、魔導具や素材を扱う店もある。せっかく街まで来たのだから、少し見て回っておきたい。


「二人とも、もう少し付き合ってもらってもいいかな……?」


「もちろんです、アレンさん!」


「どこへ行くんですか……?」


「魔導具や鉱石を扱っている店があるみたいなんだよ。俺もガレリアの道具や素材について、もう少し知っておきたくてさ。」


「面白そうですね……!」


「見てみたいです……!」


 ナギとミナも興味を示したので、三人でそちらへ向かうことにした。


 通りを少し進むと、店先に色とりどりの石や金属片を並べた店が見えてきた。看板には、鉱石と魔石を示すらしい絵が描かれている。


 中へ入ると、棚やガラスケースの中に、見慣れない石がいくつも並んでいた。


 赤や青、緑に透き通った結晶。表面に細かな光の筋が走る黒い鉱石。金属のように見えるのに、角度を変えると内側から淡い光を放つ石もある。


 地球の鉱物標本にも似ているけれど、明らかに違うものも混じっていた。


「いらっしゃい。何かお探しかな……?」


 店の奥にいた老人が声をかけてきた。


「魔石や鉱石を見せてもらいたいんですが。まだ詳しくないので、いろいろ教えてもらえると助かります。」


「なるほど、冒険者のかね……?」


「ええ。素材についても知っておきたくて。」


「それなら、まずは魔石から説明しようか。」


 老人は棚から小さな青い石を取り出した。


「これは一般的な魔石さ。魔物の体内から採れるものとは少し違い、鉱脈から採掘されるんだよ。大きさや純度によって価値が変わるけれど、魔導具の動力源として使われることが多いね。」


「魔石そのものに魔力が蓄えられているんですか……?」


「そうだね。加工すれば魔力を蓄えたり、必要なときに放出したりできるのさ。魔導具の種類によって使い方は違うけれどね。」


 俺は石を受け取り、光にかざしてみた。


 透明感のある青色で、内部に細かな筋が見える。見た目だけなら美しい鉱物標本だけれど、これが魔導具の動力になるというのだから面白い。


「これは魔力を持たない人間でも使えますか……?」


「魔石そのものを扱うだけなら問題ないよ。けれど、魔力を流して操作する道具となると話は別だ。魔導具によって仕組みが違うからね。」


 やはり、魔石があれば何でも使えるというわけではないらしい。


 俺は魔法を使えない。魔導具を購入するなら、動力源が内蔵されているものや、魔力を必要としない仕組みのものを選ぶ必要がある。


「こちらは何ですか……?」


 ミナが指差したのは、淡い緑色の結晶だった。


「それは風晶石だね。風属性の魔力を蓄えやすい鉱石で、風を起こす魔導具などに使われるものさ。」


「風を起こせるんですか……?」


「加工した道具ならね。石そのものが風を吹かせるわけではないよ。」


 老人は穏やかに笑った。


「属性によって得意な用途が違うんだ。火晶石なら熱を扱う道具、水晶石なら水に関係する道具といった具合さ。もっとも、加工の仕方や純度によって性能は変わるけれどね。」


 ナギも別の棚に目を向けていた。


「この黒い石は、ほかの石と違うんですか……?」


「よく気がついたね。それは黒鉄鉱さ。普通の鉄鉱石より重く、加工すると強度の高い金属になるんだよ。魔鋼の材料にも使われることがあるね。」


「魔鋼にも鉱石が必要なんですね。」


「もちろんだとも。魔鋼は自然にそのまま転がっているわけじゃない。複数の鉱石を精錬し、魔力を含ませながら加工するのさ。職人の腕によっても出来が変わるものだよ。」


 俺は棚に並んだ鉱石を眺めた。


 魔石や鉱石は、単なる換金素材ではない。武器や防具、魔導具の材料として使われ、街の産業を支えている。アルトマンさんの工房で見かけたSX-04にも魔鋼製の部品が使われていた。こうした素材の流通や加工技術を知ることは、この世界で生活していくうえでも役立つだろう。


「初心者が持っておくと便利なものはありますか……?」


「素材の知識を身につけたいなら、まずは小さな標本をいくつか持っておくといい。見比べれば違いも分かるからね。あとは、魔石の純度を調べる簡易鑑定具かね。」


 老人が取り出したのは、小さな金属製の道具だった。


 片手に収まる大きさで、中央に透明な石がはめ込まれている。


「これは魔石の品質を大まかに調べる道具さ。魔力を使わず、魔石をこの台に置くだけで反応を見ることができるんだよ。」


「それは便利ですね。」


「ただし、あくまで簡易的なものだからね。正確な鑑定には専門の道具が必要になるよ。」


 魔力を使わずに扱えるという点は、俺にとって重要だった。


「これを見せてもらえますか……?」


 老人は鑑定具を台に置き、優しいトーンで使い方を説明してくれた。小さな魔石を中央に置くと、透明な部分に淡い光が浮かび上がる。魔石の品質によって光り方が変わるらしい。


 これなら、魔石を手に入れたときに価値を判断する目安になる。


「これを一つください。それと、先ほどの魔石と鉱石も少しずつ購入したいです。」


「標本用かね……?」


「そうですね。実物を見ながら覚えたいので。」


 老人は、青い魔石、風晶石、黒鉄鉱、それに赤みを帯びた火晶石を小さな袋に分けてくれた。大きなものではなく、手のひらに収まる程度の欠片だ。


 鑑定具と合わせて代金を支払う。


 高価な素材を大量に買うつもりはない。まずは基本的なものを手元に置き、少しずつ知識を増やしていけばいい。


「こちらはサービスだね。魔石の扱い方を書いた簡単な説明書も付けておこう。」


「ありがとうございます。助かります。」


 袋を受け取り、俺は改めて店内を見回した。


 地球では見たことのない鉱石や、魔力を利用した道具が並んでいる。こうした品物を見ているだけでも、この世界の技術がどのように成り立っているのか、少しずつ見えてくる気がした。


「アレンさん、あちらにも何かありますよ……!」


 ナギが奥の棚を指差した。


 そこには、小さな金属製の道具がいくつか並んでいた。装飾品のようにも見えるけれど、どれも用途が分からない。


「これは何に使うんですか……?」


 俺が尋ねると、老人は一つを手に取った。


「これは温熱石を使った携帯用の保温器さ。中に小さな魔石を入れて、熱を保つ仕組みになっているんだよ。寒い時期には便利だからね。」


「魔石を入れるだけで温かくなるんですか……?」


「この型は、あらかじめ蓄えられた魔力を使うのさ。使い切ったら、魔石を交換する必要があるね。」


 魔法を使えない俺でも扱える可能性がある道具だ。


 けれど、今すぐ必要というわけではない。仕組みや価格を聞き、今回は購入を見送ることにした。


 ほかにも、暗い場所を照らす小型の灯具や、水を浄化するための魔導具などがあった。どれも便利そうだけれど、動力源や使用条件を確認しなければ、買っても使えない可能性がある。


 気になるものをいくつか質問し、俺は店を出る前に説明書をもう一度確かめた。


「いろいろ教えていただき、ありがとうございました。」


「またおいで。分からないことがあれば聞いてくれればいいさ。」


 老人に礼を言い、俺たちは店を後にした。


 ◇


 店を出ると、街には夕方の気配が漂い始めていた。


 通りを行き交う人々の足取りも、昼間とは少し違う。店先では片付けを始める者もいれば、これから仕事に向かう者もいる。


 購入した鉱石や魔石は、割れないように布で包んである。簡易鑑定具も含め、持ち帰ったら保管場所を決めておこう。


「今日は珍しいものをたくさん見られましたね……!」


 ミナが楽しそうに言った。


「魔石にもいろいろな種類があるんですね……。色だけでなく、使い道も違うなんて知りませんでした。」


「俺も勉強になったよ。魔導具を買うときは、使い方だけじゃなくて、動力源も確認しないといけないね。」


「アレンさんは、ああいう道具を使ってみたいんですか……?」


「便利なものなら使ってみたいかな。ただ、魔力が必要なものは俺には扱えないからね。まずは魔法を使わなくても動くものを探すつもりさ。」


「今日の拳銃もそうですね。」


「そうだね。あれは練習が必要だけれど、使いこなせれば頼りになると思うよ。」


 ナギは、俺が持っている鉱石の袋に目を向けた。


「買った石は、何に使うんですか……?」


「まずは種類や特徴を覚えるためかな。実物を手元に置いておけば、次に同じものを見たときにも分かりやすいだろうからね。それに、魔導具や武器の材料について知る手がかりにもなるし。」


「私たちも覚えておいた方がいいですか……?」


「興味があるなら、一緒に覚えていけばいいさ。無理に覚える必要はないけれどね。」


「私は覚えてみたいです……!」


「私もです! 今日見た石の違いが分かるようになったら、面白そうです。」


「それなら、今度また見に行こう。ほかにも気になる店があれば寄ってみればいいさ。」


 二人は嬉しそうに頷いた。


 隠れ家での生活に必要な衣類や日用品は、前に日本から持ち帰ったもので一通り揃っている。今後は、こちらの世界でしか手に入らないものや、生活を便利にする道具を少しずつ探していくのもいいだろう。


 ただ、何でも買えばいいというものではない。使い方が分からない道具を集めても仕方がないし、限られた資金を無駄にするわけにもいかない。


 実際に必要かどうかを考えながら、少しずつ揃えていこう。


 俺たちは荷物を持ち直し、隠れ家への帰路についた。


 ◇


 隠れ家に戻ると、まず購入した品を整理した。


 SX-04は湿気や埃を避けられる場所に保管し、弾や予備弾倉もまとめておく。防具はすぐに取り出せるよう、近くに置いておくことにした。


 魔石や鉱石は、種類ごとに分けて机の上に並べた。青い魔石、風晶石、黒鉄鉱、火晶石。店で聞いた説明を思い出しながら、簡易鑑定具と一緒に保管しておく。


「こうして並べると、色も形もずいぶん違うね。」


「同じ魔石でも、色によって使い道が違うんですよね。」


「そうらしいよ。詳しいことは、これからゆっくり覚えていこう。」


 ナギとミナも、興味深そうに石を眺めていた。


「この風晶石、光に当てると中が少し緑色に見えます……!」


「本当だね。店で見たときよりきれいに見えるよ。」


「こっちの黒い石は、ずっしりしていますね。」


「黒鉄鉱だからね。普通の石より重いんだろうさ。」


 買ってきた品を一つずつ確認するだけでも、話題は尽きなかった。


 こういう時間も悪くない。


 今日手に入れたものは、すぐに役立つものばかりではない。けれど、知識を増やすための手がかりにはなる。異世界で暮らしていく以上、武器や防具だけでなく、素材や道具についても知っておく必要があるだろう。


「アレンさん、夕食の準備をしますか……?」


 ナギが尋ねてきた。


「そうだね。今日は少し遅くなったし、簡単に済ませようか。」


「私たちも手伝います!」


「じゃあ、野菜を洗ってもらえるかな。俺は鍋の準備をするよ。」


 二人は頷き、食事の支度を始めた。


 特別な料理ではない。けれど、三人で手分けして準備をする時間は、少しずつ温かい日常になりつつある。


 食事を終えた後、俺は改めてSX-04を手に取った。


 金属の表面を確認し、給水口や圧力計、可動部分に異常がないかを確かめる。今日の試射で分かったことを思い返しながら、操作の手順も頭の中で整理した。


 低圧なら扱いやすい。中圧は標準的な威力。高圧は強力けれど、反動が大きい。


 実戦で使うなら、状況に応じて判断する必要がある。何より、準備に時間がかかることを忘れてはいけない。


 剣や短剣とは違う武器だ。これまでの戦い方に、そのまま当てはめることはできないだろう。


 それでも、魔法を使えない俺にとっては心強い道具になる。


「アレンさん。」


 片付けを終えたミナが声をかけてきた。


「今日はありがとうございました。工房も、鉱石のお店も面白かったです!」


「私もです! 知らないものがたくさんあって、見ているだけでも楽しかったです。」


「俺も勉強になったよ。まだ知らないことばかりだからね。」


「また一緒に行きたいです……!」


「もちろん。気になるものがあれば、また見に行こうね。」


 二人の表情を見て、俺も自然と笑みがこぼれた。


 この世界での生活は、まだ始まったばかりだ。


 やらなければならないことも多い。調べたいこともあるし、身につけなければならない技術もある。


 それでも、今日のように必要な道具を揃え、新しい知識を得ながら少しずつできることを増やしていけばいい。


 俺はSX-04を元の場所に戻し、机の上に並べた魔石と鉱石をもう一度眺めた。


 焦る必要はない。


 できることから一つずつ進めていこう。

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