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第6話 二つの世界の狭間で

 翌朝、俺は少し早めに目を覚ました。


 隣の部屋からは、ナギとミナの規則正しく愛らしい寝息が聞こえてくる。二人を起こさないよう静かに木床を踏みしめて身支度を整え、朝食の準備に取りかかった。


 しばらくすると、料理の匂いや物音に気づいたのか、二人が眠たそうに目をこすりながら顔を出した。


「おはようございます、アレンさん。」


「おはよう。二人とも、よく眠れた?」


「はい。昨日より、ずっとよく眠れました。」


「それならよかった。じゃあ、温かい朝食にしようか。」


 三人で食卓を囲む。温かいおかゆを口に運びながら、俺は今日の予定に思考を巡らせていた。


 日本に戻って調べたいことは山ほどあるが、こちらの隠れ家での生活環境も万全に整えなければならない。何より、幼い二人を保護したばかりの今、長時間放置して寂しい思いをさせるのは避けたかった。


「今日は隠れ家の片付けをもう少し進めようと思っているんだよ。二人も、できる範囲で手伝ってくれると助かるな。」


「私達も手伝っていいんですか……!?」


「もちろん。ただ、まだ体調も万全じゃないだろうから、絶対に無理はしないでね。休み休みで大丈夫だからね。」


「はい……!」


 食事を終えると、俺たちは隠れ家の本格的な整理に取りかかった。


 棚の埃を払ったり、使いそうな道具を分類したり、奥の収納スペースを点検したりする。二人にも危険のない簡単な軽作業をお願いした。最初は遠慮がちだったナギとミナも、俺が優しく褒めてやり取りを重ねるうちに、少しずつ自分から進んで動いてくれるようになっていった。


 その健気な様子を温かく見守りながら、俺は重い道具を運んだり、棚の高さを使いやすいように微調整したりした。


 こうして一緒に作業を重ねることで、二人も少しずつこの場所を「安全な自分の家」として認識し始めてくれているようだった。


 ◇


 昼食を終え、ナギとミナが綺麗になった棚の整理を楽しそうに続けている隙を見計らい、俺は隠れ家の静かな奥の小部屋へ移動した。


 日本側で早急に確認しておきたい重要事項があるからだ。


 ただし、二人には次元渡りのチート能力について話すわけにはいかない。まだ出会って数日であり、俺自身の異能についても詳しく説明できる段階ではなかった。


 部屋の奥で周囲の気配を注意深く確かめる。二人の楽しそうな声がかすかに響く距離だが、こちらの姿は完全に見えない位置だ。


 俺は静かに『次元渡り』を発動させた。


 青白い光の粒子が視界を包み込む。


 次の瞬間、俺は東京の自室に整然と立っていた。


 日本へ戻って最初に行ったのは、部屋の安全確認と時間の経過チェックだった。


 窓の外には見慣れた高層ビル群と日本の平和な街並みが広がっている。机の上のノートパソコンや書類も、出かける前と寸分違わぬ位置にあった。


 こちらの世界では、やはりほんの僅かな時間しか経過していないようだ。


 まずはサッとシャワーを浴びて汗を流し、清潔な私服に着替える。それからパソコンの電源を立ち上げた。


 会社からの連絡状況も気になっていたからだ。


 俺は現在、会社を退職したわけではなく療養目的で休職中の身である。体調が戻れば復職する意向だし、社会人としてのつながりを無下に断ち切るつもりはなかった。


 メールボックスを開くと、直属の上司からの連絡や社内連絡がいくつか届いていた。


 上司からのメールには、体調を思いやる温かい言葉とともに、復職の時期については焦らず無理のないタイミングで相談してほしいという旨が記されていた。


(そういえば、俺にはこっちの社畜としての日常もあったんだよな……。)


 異世界での波瀾万丈な生活が始まってから、どうしても意識がそちらへ偏りがちになっていた。けれど、現代日本での基盤を全て投げ捨てる気はない。


 将来的に復職するためにも、会社への定期的な状況報告は誠実に行っておくべきだ。


 俺は上司への返信を作成し、現在も順調に療養を続けていること、復職については体調の経過を見ながら改めてご相談させてほしい旨を丁寧な文章で送信した。


 ひと通り事務連絡を終えたところで、俺は本日のメインテーマへと思考を切り替えた。


 ◇


「異世界のポーションを、現代日本で正式に販売・事業化することは可能なのか?」


 それが、今日どうしても調べておきたい最大の課題だった。


 パソコンを駆使して医薬品の販売・製造に関する法律や手続きを調べていくと、予想通り数々の巨大な法理の壁が立ち塞がった。


 日本では、人間の疾病の治療や傷の治癒を目的とする製品は、すべて『薬機法(医薬品医療機器等法)』に基づく厳格な医薬品・医薬部外品として扱われる可能性がある。成分の特定、効能の科学的立証、製造過程の管理など、無数の過酷なハードルをクリアしなければ自由に販売することなど不可能なのだ。


 城塞都市ガレリアでは、ポーションは冒険者にとってあまりにも身近な傷薬であり、薬屋の店頭で普通に売買されている。


 しかし、現代日本においてはまったく事情が異なる。


 そもそも、魔素の存在する異世界で作られたポーションの成分を、魔素の存在しない地球の科学分析器で正確に測定できるのだろうか。


 未知のエネルギー体を含む液体を日本の分析機関に持ち込んだら、一体どのような結果が出るのか。俺には想像もつかなかった。


(……ふむ、これは自己判断で動くより、法律のプロに相談した方が賢明だな。)


 個人で調べられる範囲には限界がある。俺はネットで薬機法や新規医薬品の事業化に詳しい弁護士事務所を探し、コンサルティングの予約を入れることにした。


 もちろん、いきなり「異世界から持ち込みました」などとバカ正直に明かすつもりはない。


 俺が次元渡りという超常能力を持っていると知られれば、ポーションの販売どころか国家レベルの機関に身柄を拘束されかねない。どこまで情報を開示し、どういう名目で相談を進めるべきか、慎重に戦略を練る必要があった。


 最初の問い合わせでは、「海外の特殊なルートで入手した未承認の天然由来成分の液体があり、その成分分析や安全性を調査した上で、国内での事業化の可能性を探りたい」という体裁で連絡を入れた。


 数日後に無事、専門弁護士との面談予約を取り付けることができた。


 本日のタスクを完了した俺は、パソコンをシャットダウンした。


 長居は無用だ。日本側での用事は済んだため、すぐに向こうへ戻ることにする。


 次元渡りを発動すると、青白い光とともに視界が切り替わった。


 隠れ家の奥の部屋へと舞い戻ると、外の居間から二人の可愛らしい会話が聞こえてきた。


「ミナ、そっちの棚の掃除は終わった……?」


「うん! こっちも、あともう少しだよ……!」


 どうやら、健気に片付けを続けてくれていたらしい。


 俺は二人のいる居間へ足を踏み入れた。


「ただいま。二人とも、すごく作業が進んでいるね。」


「あっ、アレンさん……! お帰りなさい……!」


「ありがとうね。二人とも、疲れたりしていない?」


「大丈夫です。途中でお休みしながらやっていますから。」


「それならよかった。そろそろ休憩にしようか。美味しいお茶を淹れるよ。」


「お手伝いします!」


「それじゃあ、お椀とカップをテーブルに並べてもらえるかな。」


 三人で温かいお茶を飲みながら、片付けの進み具合や、部屋の模様替えについて楽しく意見を交わした。


 日本側で何をしていたかは話せない。それでも、こうして二人と過ごす穏やかな時間を心から大切にしたいと思った。


 ◇


 数日後、いよいよ弁護士との面談当日がやってきた。


 それまでの間、俺は隠れ家の生活基盤を整えつつ、次元渡りを駆使して日本側での事前準備を念入りに進めていた。


 日本へ渡る際は、必ずナギとミナが安心している様子を確認してから奥の部屋へ移動する。用事が済めば即座に戻り、食事や団んらんの時間は必ず三人で過ごすよう徹底した。


 双子も、俺が奥の工房部屋で集中して作業をしていると思っているらしく、特に疑問を抱く様子はなかった。


 弁護士との相談当日も、朝食を終えてから三人で楽しく片付けを行った。


「今日はちょっと集中して調べたい専門書があるんだよ。昼過ぎまでは奥の部屋で作業をしているからね。」


「分かりました。私達は、昨日の続きのお掃除をしていてもいいですか……?」


「ああ。でも、疲れたら絶対に休むんだよ。片付けは逃げたりしないからね。」


「はい!」


 二人が楽しそうに作業を始めたのを見届けてから、俺は部屋の奥へ向かった。


 周囲の気配を確認し、次元渡りを起動する。


 青い光が収まると、東京の自室へと戻っていた。


 身だしなみを整え、予約した時間に合わせて都内の弁護士事務所へと向かう。


 担当してくれたのは、医療・医薬品関連の法務に非常に精通したベテラン弁護士だった。


「本日はご相談いただきありがとうございます。事前にお伺いした内容では、特殊な液体の成分や安全性を調査し、将来的には国内での事業化をご検討とのことですね。」


「はい。ただ、具体的な入手経路や製造元については、現段階では公にすることができません。」


「承知いたしました。お話しいただける範囲で構いませんよ。我々弁護士には厳格な守秘義務がございますからね。ただし、実際に公的な手続きや契約へ進む段階では、相応の情報確認が必要になります。」


「承知しています。今回はまず、法的なハードルと今後の具体的な手順についてご教示いただきたいと考えています。」


 俺は持参したポーションの概要について説明した。


 液体状の製剤であること。外傷の治癒や回復を目的として使用されていること。一般的な既存の医薬品とは構成概念が異なる可能性があり、国内での成分分析や臨床上の安全性確認は未実施であること。


 弁護士はメモを取りながら、鋭い視線で確認を重ねてきた。


「まず結論から申し上げますと、現段階での国内販売は絶対に避けるべきです。」


「やはり、そうなりますよね……。」


「ええ。人体への疾病治療や創傷治癒を標榜して販売する場合、薬機法上の『医薬品』に該当する可能性が極めて高いです。成分の特定だけでなく、使用目的や効能効果の表記、さらには製造管理基準まで厳しく審査されます。」


「成分すら未特定な現状では、そもそも法律上の分類すらできないということですね……。」


「その通りです。まずは信頼できる分析機関での精密な成分分析が必要不可欠でしょう。ただし、完全に未知の試料となりますと、受託してくれる分析機関の選定も慎重に行う必要があります。」


 弁護士は手元の資料を繰りながら説明を続けた。


「最初から大量の試料を持ち込む必要はありません。まずは少量でどの程度の成分分析が可能かを打診し、徹底した秘密保持契約(NDA)を締結した上で進めるべきです。」


「仮に分析結果が出た場合、その後はどのような手順を踏むことになりますか?」


「分析データを整理した上で、まずは事業所を管轄する都道府県の薬務主管課へ事前相談に赴くことになります。そこでの判断に基づき、必要な許可申請や治験の手順をクリアしていく形になりますね。」


「なるほど……いきなり厚生労働省へ持ち込むわけではないのですね。」


「ええ、窓口はまず自治体の薬務主管課となります。そこからPMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)への開発相談へとステップアップしていくのが正規のルートです。」


 なるほど。


 異世界のポーションを現代日本で事業化するには、想像以上に緻密で段階的なプロセスが必要なのだと理解できた。


「それから、一つ確認させてください。」


 弁護士が表情を少し引き締めた。


「その液体が万が一、海外からの個人輸入や特殊な経路で持ち込まれる場合、通関時の薬事手続きも関係してまいります。その点のリーガルチェックも不可欠です。」


「ええ、そのあたりも含めて、慎重に整理して進めたいと考えています。」


 次元渡りで持ち込む以上、通常の税関手続きを通せるはずもない。この課題をどうクリアするかは、今後の極めて重要な検討事項だ。


「成分分析が完了するまでは、第三者への譲渡や試飲などは絶対に行わないでくださいね。予期せぬ副作用や健康被害が出た場合、取り返しのつかない法的責任を問われますから。」


「もちろんです。安全性と法的手続きが確立するまでは、絶対に販売も配布もいたしません。」


「よろしい。分析結果が出ましたら、またいつでもご相談ください。必要であれば私どもが行政窓口との調整コンサルティングも引き受けますので。」


 弁護士のクリアな説明のおかげで、今後のロードマップが明確に見えてきた。


 ◇


 事務所をあとにした俺は、近くのカフェでコーヒーを飲みながら思考を整理した。


 まずは信頼できる民間または大学の分析機関を探し、厳重な秘密保持契約のもとでポーションの少量を精密分析にかける。その結果を踏まえて弁護士と再協議し、行政への相談ステップを踏む。


 製品化への道のりは遠いが、確実に最初の一歩の踏み出し方は分かった。


 調査費用や専門家への報酬を確保するためにも、異世界と日本双方での資金調達ルートを確立しなければならない。


 異世界の貴重な素材を日本へ、日本の便利な製品を異世界へ。


 この超次元物流のスキームを成功させれば、二つの世界を行き来する意味は計り知れないものになる。


 コーヒーを飲み干した俺はマンションへと戻り、必要な手続きのメモをパソコンに残してから『次元渡り』を発動した。


 光が収まり隠れ家へ戻ると、ナギとミナが仲良く昼食の準備をしてくれていた。


「お帰りなさい、アレンさん。」


「ただいま。二人で準備を進めてくれていたんだね。」


「はい。アレンさんが戻られたら、すぐに一緒に食べられるようにと思いまして。」


「ありがとうね。じゃあ、俺も仕上げを手伝うよ。」


 三人で温かい昼食を囲む。


 日本での法的な相談は非常に有意義だった。こうして二人と笑い合いながら食事をしていると、異世界での暮らしが着実に自分のホームになりつつあることを実感する。


「午後はどうしようか?」


「私達は、さっきの片付けの続きをやろうと思います。」


「そうかい。それじゃあ俺も手伝うよ。今日は無理せずのんびりやろうね。」


「はい……!」


 二人の表情は、数前に出会った頃の怯えが嘘のように柔らかく穏やかになっていた。


 ◇


 その後、俺は二人の生活環境をさらに良くするため、日本での買い出しを計画的に進めることにした。


 特に気になっていたのは二人の服装だ。今着ている服は森を逃げ惑った際についた傷みや汚れが目立っており、早く新しくて綺麗な服を着せてあげたかった。


 ただ、女の子の服のサイズやデザインを俺一人で完璧に選ぶのは難しい。まずは当面の着替えとして使えそうな基本の服を揃え、後日二人と一緒に選ぶ機会を作るのがベストだろう。


 ある日の午後、二人が心地よさそうに昼寝をしているタイミングを見計らい、俺は隠れ家の奥の部屋へと向かった。


 二人の静かな寝息を確認してから、次元渡りを発動する。


 日本へ戻った俺は、すぐさま大型の衣料品店へと向かった。


 子供服売り場で立ち止まり、二人の姿を思い浮かべる。


 十歳の女の子の服となるとサイズ選びがなかなか難しい。二人の華奢な体格を考慮し、少しゆとりのあるサイズを中心に選んでいくことにした。


 普段使いしやすい着心地の良い服を数着、清潔な下着や靴下も多めに確保する。肌寒い時に羽織れる可愛らしい上着も選んだ。靴に関してはサイズズレが怖いので、後で足型を測ってから購入することにする。


 色合いやデザインは、二人に似合いそうな落ち着いた可愛らしいトーンのものを選んだ。


(気に入ってくれるといいんだが……。)


 続いて日用品コーナーへ向かい、二人用の柔らかい歯ブラシやタオル、肌に優しい石鹸、洗顔用品をカートに入れていく。髪を綺麗に整えられる櫛や可愛らしいヘアゴムも忘れない。


 さらに食品売り場へ移動し、お米、各種調味料、缶詰、レトルト食品、保存の効くドライフードや粉ミルクなどを大量に買い込んでいく。


 そして、最も重要なアイテム——お菓子のコーナーへ。


 ナギとミナはキャラメルを本当に嬉しそうに食べてくれた。なら、他のお菓子も絶対に喜んでくれるはずだ。


 チョコレート、クッキー、ビスケット、キャンディーなどを次々とカートへ追加していく。甘いものばかりに偏らないよう、香ばしいおせんべいや小袋のスナック菓子もバランスよくチョイスした。


(……ちょっと買いすぎてしまったかな。)


 山盛りになったカートを見て苦笑したが、俺には無限に収納できる『アイテムボックス』があるのだ。二人の弾けるような笑顔が見られるなら、これくらいの出費は何でもなかった。


 その他にも、隠れ家で使いやすそうな調理器具や保存容器を買い揃え、人目のつかない場所で全てアイテムボックスへと格納した。


 マンションへ戻り、会社からの連絡がないか確認を済ませ、弁護士から提示された分析機関の候補リストを再確認する。


 準備は万全だ。


 俺は室内を確認し、全ての物資がアイテムボックスに格納されているのを確認してから、次元渡りを起動させた。


 ◇


 青い光が収まると、そこは隠れ家のすぐ近くの静かな森の中だった。


 周囲の安全を確認し、俺はドアを開けて隠れ家へ戻った。


「あっ、アレンさん……! お帰りなさい……!」


「ただいま。二人とも、よく眠れた?」


「はい、すごくすっきりしました。」


「それならよかった。実はね、二人に買ってきたものがあるんだよ。」


 俺はアイテムボックスから、日本で購入してきた大量の物資を取り出し、綺麗な木床の上へ並べていった。


 色鮮やかな衣服、衛生用品、調理器具、そして山のようなお菓子の袋。


 二人は目を見開いて、次々と現れる不思議で綺麗な品々を信じられない様子で見つめている。


「アレンさん、こんなにたくさんの物……どうされたんですか……!?」


「二人が着る綺麗なお洋服や、ここで暮らすのに必要な日用品を用意してきたんだよ。今の服はボロボロで大変だったろう? 着替えがたくさんあった方が安心だからね。」


「私達のお洋服ですか……!?」


「そうだよ。サイズがピッタリ合うか分からないけれど、似合いそうなものをいくつか選んできたんだ。気に入ったものがあったら着ておくれね。」


 ナギは綺麗に畳まれた新品の服を愛おしそうに見つめ、信じられないというように胸を詰まらせていた。


「こんなに素敵なものを……私達がいただいてもいいんですか……?」


「もちろん。これからここで一緒に暮らすんだから、必要なものはどんどん揃えていこうね。」


 ミナはおずおずと服の包みを両手で抱きしめた。


「ありがとうございます、アレンさん……!」


「どういたしまして。あとね、こっちはお菓子だよ。前に渡したキャラメルとはまた違う、美味しいお菓子がたくさんあるからね。」


「お菓子もこんなに……!?」


「うん、チョコレートやクッキーもあるよ。後でみんなで一緒に食べようね。」


 ミナの顔がパッと輝くような笑顔に包まれ、ナギも包みを大事そうに撫でていた。


「はい……!」


 二人の弾けるような笑顔を見ているだけで、買い出してきた苦労など一瞬で吹き飛んでしまう。


 服や日用品を整理しながら使い方のコツを丁寧に説明し、食料の保管場所も二人で使いやすいように決めていった。


 これで、隠れ家での生活基盤は格段にレベルアップしたはずだ。


 日本側ではポーションの成分分析と法的な準備を推し進め、こちらではナギとミナが心から安心して暮らせる環境を完璧に整えていく。


 やるべきタスクは山積みだが、二つの世界を行き来できるこの特別な力があれば、どんな未来だって切り拓いていける確信があった。


「さて、それじゃあ今夜の美味しい夕飯の準備をしようか。」


「私達も喜んで手伝います……!」


「ありがとうね。それじゃあ、美味しくなるように一緒にお料理しようか。」


 隠れ家の中に、二人の少女の明るく温かな歓声がいつまでも響き渡っていた。

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