200年後の世界!?①
「ふむ……」
シエルの頭を撫で回しながら、健斗はテーブルに広げられた新聞へ視線を落とした。
指名手配欄に並ぶ、かつて手塩にかけて育て上げたNPCたちの顔写真。教皇を暗殺した暗殺者、国家転覆を目論む軍師、大量虐殺を引き起こした大魔導士――どれも健斗の記憶にある面影を残してはいるが、あまりにも大人びて、成熟しきっていた。
だが、新聞に映る彼らの眼光や雰囲気は、かつてゲームの画面越しに見ていた爽やかさや無邪気さなど微塵もなく、無数の死線を潜り抜けてきた本物の「怪物」のそれだった。
(……待てよ。いくらなんでも成長しすぎだろ)
健斗の脳内に強烈な違和感が走る。
自分が現実世界で心臓発作を起こし、意識を失う直前まで遊んでいた『ディストピア・クロニクル』。そのゲーム内において、彼らはここまで重々しく危険な雰囲気を纏った姿ではなかったはずだ。せいぜい数ヶ月、長くても1~2年程度の変化ならまだ分かる。だが、新聞に映る彼らの表情は、何十年、あるいはそれ以上の気の遠くなるような歳月を生き抜いてきた者特有の深みと歪みを宿していた。
(なにがあった……?俺が倒れてから、この世界でどれだけの時間が経ってるんだ?)
疑問を確かめるため、健斗は抱きついたままのシエルに問いかけた。
「……シエル。一つ確認だが、俺がいなくなってから……一体何年の月日が経過した?」
シエルはすりすりと健斗の胸に頬を寄せながら、少し首をかしげて指を折った。
「そうですね……レディオン様が姿を消されてから、おおよそ二百年くらいだと思います」
(に、二百年ぁぁぁ!??)
感情抑制スキルのおかげで顔面は冷徹なイケメンのままだが、健斗の内心は叫び声を上げて崩壊していた。二百年。ニートの自分が倒れて意識を失っていたわずかな(?)時間の間に、ゲームの世界では気が遠くなるほどの星霜が流れていたのだ。
「ずっと……ずっと寂しかったです、レディオン様! もう二度と離れませんから……!」
感情を爆発させたシエルが、ぎゅうううっと力任せに健斗の腰を抱きしめてくる。
(……はぁ、見た目がどれだけ成長しても、シエルは甘えん坊のままだな。……変わったところと言えば、立派な超特級犯罪者になっちまったことくらいか)
遠い目になりかけた健斗だったが、ふと我に返る。問題は、シエル以外の「元・仲間の賞金首たち」だ。これ以上の惨劇と冤罪の拡大を防ぐためには、一刻も早く彼らを見つけ出し、暴走を止めなければならない。
「シエル。他の者たちの居場所に心当たりはあるか? あいつらが今、どこで何をしているのか知りたい」
尋ねられたシエルは、一瞬だけ困ったように眉を下げ、泣きそうな瞳で健斗を見上げた。
「……申し訳ありません、レディオン様。私にも、皆様の正確な現在地までは分からなくて……。最後にご一緒したのも、百年前の集会でしたから……」
自分の無力さに絶望したのか、シエルの瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちる。
「うぅ……っ、お力になれず申し訳ありません……っ! 私が無能だからといって、お願いです、捨てないでください……!!」
さらに強まる抱擁の力。
(痛い痛い痛い骨が折れる!! どんだけ筋力ステータス高いんだよこの子!?)
ミシミシと嫌な音を立てる己の肋骨に悲鳴を上げつつ、健斗は必死の思いでシエルの頭を優しく撫でまわした。
「す、捨てない! 捨てるわけがないだろ! だから落ち着け!」
「ふぇ……? ほ、本当ですか……?」
「本当だ! 絶対に捨てない!」
健斗の必死の保証(と撫で撫で)によって、シエルは「えへへ……」と安心したように腕の力を緩めた。九死に一生を得た健斗は、荒い息を殺しながら追及を続ける。
「……ゴホン。では、他に何か知っていることはないか? 奴らの『目的』などでもいい」
これ以上の冤罪被害と世界の崩壊を防ぐため、一刻も早く彼らを回収しなければ、健斗自身の「第二の人生」どころか世界そのものが滅びかねない。
健斗の問いに、シエルはぱっと表情を明るくし、胸を張って答えた。
「皆様の『目的』なら分かりますよ!」
「……そうか。一応、聞いておこうか」
「はい! この世界はレディオン様のものであると、すべての愚民どもに知らしめることです! えっへん!」
満面の笑みで、誇らしげに胸を張るシエル。
(……そうですか)
思わず遠い目になる健斗。完全に狂信者の集団である。自分が丹精込めて育てたNPCたちは、マスターを失った結果、世界を征服して捧げようとする最悪のテロリスト集団へ変貌を遂げていたのだ。




