仲間?➁
健斗がその名を口にした瞬間、少女の顔にパッと花が咲いたような笑顔が戻った。
「はいっ、そうです! ああ、よかったです……! レディオン様に忘れられたら、私、今すぐここで自害するところでした……!」
「――ッ!?」
そう言いながら、シエルは再び「えへへ」と嬉しそうに力強く抱きついてくる。
(今、サラッとめちゃくちゃ物騒なこと言わなかった!? 自害!? なんでそんな重いの!?)
抱きつかれながら、健斗は過去のゲームプレイの記憶を必死に手繰り寄せた。
そうだ、シエルだ。彼女を仲間にしたのは数年前のこと。どこかの小さな村が戦争に巻き込まれて崩壊し、村人が全滅しかけていたイベントだった。当時、まだ7歳くらいだった幼い彼女を保護したのが、プレイヤーであるレディオンだったのだ。空と同じ綺麗な水色の髪をしていたから、『シエル』と名付けたはずだった。
「……忘れていたわけではない。成長して雰囲気が変わったお前に、一瞬気づかなかっただけだ」
感情抑制スキルのおかげで、完璧な「クールな主」のトーンで繕う。シエルは「もうっ、レディオン様の意地悪……」と、ポカポカと健斗の胸を可愛らしく叩いた。そして、どこか誇らしげに胸を張って言った。
「レディオン様。仰せの通り、邪魔者はすべて排除いたしました。……ふふ、褒めてくだされば嬉しいです」
(……は? 邪魔者? 排除……?)
健斗の背筋に凄まじい寒気が走った。
(え、怖怖怖っ!? この子怖ッ!! 拾った当時は『お兄ちゃんありがとう』って泣いてた、優しくて純粋な天使みたいな女の子だった気がするんだけど!? 何があったんだよこの数年で!??)
嫌な予感をヒシヒシと感じながら、健斗は努めて平然を装って尋ねた。
「……その『暗殺』というのは、もしかして教皇とかいう偉い人のことか?」
「はいっ!」
シエルは満面の笑みで即答した。濁りのない純粋な笑顔が、逆に恐怖を倍増させる。
「もしかして……暗殺したあとに、俺の名前とか使ったのか……?」
「もちろんです! この世界が一体誰のものなのかを分からせるために、私たちは『レディオン様の忠実なる配下であり、すべてはレディオン様の御命によるものだ』と、全世界に知らしめておきました!」
(お前たちのせいで俺の第二の人生めちゃくちゃなんだけど!!? 何してくれてんの!!? 俺、他の人から見たら、世界を滅ぼそうとしてる犯罪組織の邪悪なラスボスじゃねぇかよ!!)
心の中で吐血しそうなほどの叫びを上げつつ、健斗は引きつりそうになる口元を必死に抑え込んだ。
「……ちなみに聞くが、シエル。お前自身は、具体的に何をしたんだ?」
シエルは「褒めて! 撫でて!」と言わんばかりのキラキラした目を向け、得意気に語った。
「私は、古代の封印を解除してきました!」
(お前かよ!! 新聞に書いてあった『古代封印の不法解除』の犯人!!)
絶句しながらも、ここで怒ったら何をされるかわからない恐怖から、健斗は反射的にシエルの頭に手を置き、撫でてやった。シエルは「えへへ……っ」と気持ち良さそうに目を細める。
「……一応聞くが、その封印から何が出てきたんだ?」
「ドラゴンです! 今も無数の国が合同で討伐隊を出して、大混乱になっていますよ!」
「…………」
健斗は震える手で、テーブルの上の新聞をもう一度取った。指名手配書に書かれた数々の凶悪事件。そして、それを実行したとされる不気味な犯罪者たちの特徴や名前。
大量虐殺。国家転覆。教皇暗殺。封印解除。黒魔術行使――。
記事を凝視していた健斗の口から、抑えきれなくなった素の声が漏れ出た。
「……こいつら全員、俺が大事に育てたNPCじゃねぇかよ……」
「え? んぴーしー……ですか?」
シエルが不思議そうに首を傾げた。そして、健斗の困惑をどこか深読みしたのか、その瞳をいっそう輝かせる。
「まさか……それも、レディオン様の『新たな作戦』なのですか……!?」
崇拝と期待に満ち溢れた、どこまでも真っ直ぐな瞳。
ここで「違う、俺は何も知らないニートだ」なんて言えば、この狂信的な少女がどう暴走するか分かったものではない。
健斗はゴクリと唾を呑み込み、完璧な冷酷皇帝の笑みを浮かべて嘘をついた。
「……そうだ。これは俺の『作戦』だ。――このことは、二人だけの秘密だぞ」
「はいっ……! レディオン様……!」
シエルが感激に頬を染めて頷く横で、健斗は自分の引きつる心臓を必死に押さえていた。




