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【08話】ケンカ


「もうなにもはなしたくない」


 わたしは事務的に言葉を絞り出して席を離れた。

 それ以来ずっと、

 美和と口を聞いていない。



 ケンカ別れしてから3日、美和のことは完全に無視をして過ごした。


 学校でも部活でも。


 美和の方もいつもなら、わたしの席に遊びにきてたのに全く来なくなった。

 目も合わせない、美和がいる方に顔を向けたくない。


 今までもケンカはあったが、いつもわたしの方から折れていた。


 でも、今回に限っては、わたしは謝らないし謝れない。

 何よりも大切な家族を、侮辱されたからだ。


 わたしは悪くない。


 向こうから謝ってこないなら、

 もう、美和との関係も終わってもいいと、

 そう思っていた。



 美和とケンカしてから4日目の放課後、

 部活帰りにコロッケの買い食いにAコープに寄った時、中村のおばちゃんに話しかけられた。


「珍しくひとりだね、美和ちゃんとケンカでもした?」


「やだなぁおばちゃん、いつも一緒にいる訳じゃないよ!」


 わたしは努めて明るく応えた。


「美和ちゃんも来てたわよ?」


「へー」


 無関心を装って返答した。


 いつ?誰と?どんな様子だった?

 思ったが口には出さなかった。

 あと表情や態度に出ないように全力を尽くした。


 成功したかは分からないケド……

 ちゃんと隠せてましたか?って、おばちゃんに訊くわけにもいかないので、

 本日ここに、わたしの人生に永遠の謎がひとつ増えたのであった。


 ひとりで、黙々と、しゃくしゃくと、コロッケをいただいて。

「ごちそうさまでした」

 帰宅した。

 中村のおばちゃんは、ずっと苦笑いをしてた。



 夕方、自宅に帰ると。お母さんはまだ帰ってきてなくて、洗濯物だけ取り込んで待っていると、


 気が付いた時には、お母さんはすでに帰ってきていて、晩御飯の支度の最中だった。

 外は暗くなっていた。いつの間にか眠っていたようだ。


「お母さんおかえり。ごめん寝てた。」


「咲良、あんた大丈夫?」


「なにが?」


「……ううん、気のせいならいいのよ。

 ご飯にしましょう!」


 その日の晩御飯も、もちろんおいしかった。


「コロさん!おいで!!」

 その晩は家にいたコロさんと一緒に寝たかったけど、フラれてしまった。


 多分お母さんのところだろう。

 コロさんはお母さんっ子だ。



 そして、その次の日の夕方、仕事から帰ってきたお母さんから封筒を渡された。


「はいこれ」


「え!?なに?」


「なにって、前に言ってた旅行のためのお金よ?

 2万円ほど入れといたから

 あんたたちの旅行の頃に、色々と忙しくなりそうだから、先に渡しておくわ!」


「え!?…… あぁ、うん、ありがと」


「大事に使うのよ?

 そして中村のおばちゃんに迷惑かけちゃダメよ?」


「うん……」


 どうしよう……


 思っちゃった。


 あれほど、手に入れるために考えて、悩んで、


 のどから手が出るほど欲しかったハズの、このお金。


 大事にしなさいと言われて、お母さんから渡されたこのお金に……


 意味がないって。思っちゃった。


 こんな気持ちで、中村のおばちゃんと二人で、謎解き旅行に行っても、きっと楽しくない。


 この旅行、美和がいなくちゃ、楽しくないよ。


 美和と一緒に居ることが、

 当たり前過ぎて忘れてた。


 わたしはこの旅行、美和と行きたかったのだ。

 二人で行く謎解き旅行に、ワクワクしてたのだ。



 わたしは封筒を胸に押し付けた。

 大丈夫!無意味になんかしない!!


 今まで冷え切っていた胸の奥に熱い炎が宿ったような気がした。


 気づいたからには、どうするべきかは、もう決まった。


 いや、ケンカしたその時から、決まってたんだ!


「仲直りしなくちゃね!」


 わたしは、もう隠さない。もう迷わない。もう逃げない!!


 ちなみに今夜のおかずは、豚しゃぶと、温野菜サラダと、大根とお豆腐のお味噌汁と、コロッケだった。


「いただきます!」


 がつがつワシャワシャと勢いよく食べた!

 いつも以上に早食いだ!


「おいしかったです。ごちそうさまでした!!」


 今夜は手早くお風呂に入ってさっさと寝る!!


 急げばそれだけ早く明日が来るってわけじゃないけど、

 一刻も早く美和に逢いたかった。

 スマホなんかじゃ伝えきれない。

 わたしは美和と仲直りする明日が待ち遠しかった。




……あの日、教室で……



「もうなにもはなしたくない」


 咲良は事務的に言葉を絞り出して席を離れた。

 私、川岡美和かわいかみわは、その場に取り残された……



 今まで聴いたことのない無機質な声。

 見たことのない表情の咲良だった。



 私は咲良の前の席に跨ったまま、動けなくなってしまった。

 私はついさっき言った言葉を後悔していた。

 思ったことを、ズケズケと言ってしまう、自分の悪癖が恨めしい。


 でも、それは私の本心でもある。


 咲良はお母さんが絡むと本当にヘタレてしまう。

 私はそれがもどかしい。


 咲良は優しい子だ。


 私は優しい咲良も好きだが、

 もう一人の、裏の顔の咲良の方が大好きだ。

 憧れていると言っていい。


「勇気」のある咲良。


 私は、4年前のあの日から、咲良の勇気にずっと憧れているんだ。



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