【31話】出口のない海
わたし北野咲良と、親友の美和との、夏休みのちょっとした冒険は終わり。
また、いつもの夏休みの日常に戻っていった。
スタンドバイミーで子供達四人組が、家に帰ったように。
グーニーズで海賊の宝を手に入れた後、子供たちが家族のもとに戻ったように。
わたし達も、部活と、夏休みの宿題と、家のお手伝いの毎日に戻った。
そして、夏休みも後半に差し掛かったころ、美和が私の家に遊びに来た。
わたしが美和を誘ったのだ、近所に海と山と古墳以外のスポットを見つけたと。
その日は、お母さんは仕事で留守だが、コロさんがちょうど家にいて、ネコ派の親友は、心ゆくまで、コロさんを吸って堪能した。
「ぷはあっ!!えーわー、コロさんと咲良、ウチに連れて帰りてー」
「わたしはコロさんのおまけかよ!!」
「え!?やきもち?しょうがないなぁ、咲良も吸ってやるよ!!」
言いながら、美和はわたしに襲い掛かて来た。
うわぁ、なんかいつもと逆だぞ!?
ぎゃぁぎゃぁと、いちゃついていると。
ピピピとスマホのアラームが鳴った。
「おっと、もうそろそろ行かなくちゃ!」
「ずっと気になってたんだけど、何処いくの?」
わたしの家から徒歩で5分。
美和を連れていったのは、第二次世界大戦で使用された自爆兵器、「回天」の練習施設の跡地。
「阿多田交流館」
水中特攻隊の資料、若き隊員達の遺品や遺墨など、約400点を展示されており、
今は戦争の歴史を伝えるための施設となっている。
「おお、これはすごいわね……
咲良やるじゃん!
ただ、ここをスポットって呼ぶのは
不謹慎だと思うけど……」
「でしょ、調べて見つけて、
ぜったい美和と来ようって思ったんだ
美和との柳井デートや、
中村のおばちゃんの話を聞いて、
この辺りの昔のこと、もっと知りたいなって思って」
「映画『出口のない海』でも使用された、原寸大の回天のレプリカなどがある、本格的な施設で、過去の戦争で、この場所がなにがあったのか、どんな意味があったかを教えてくれるんだよ!」
「こりゃ、いつもと逆ね。咲良先生!!よろしくお願いします!」
「えっへん!
……
……以上です!!」
「もうないんかい!!」
回天レプリカのある入り口前で、軽く漫才をこなしてから施設内に入る。
「ここで、私たちとあんまり変わらない歳の少年兵が、自爆攻撃のための訓練してたんだよね……」
展示品を見ながら、美和が神妙な面持ちで言う。
「自分が必ず海で死ぬって分かってて……
どんな気持ちで、この海を見てたんだろうね?」
「海の綺麗さはずっと変わらないはずなのに、恐ろしい海に見えたのかな……?」
「自分が死ぬための訓練なんて……今なら死刑囚にだってそんな酷い事しないよ、
それを何にも悪いことしてない若い子にさせるとか、戦時中の日本って、どうかしてるよね……」
「でも、昔の……戦争中の日本の価値観なら、それが当たり前だったんだよね……」
「お国のため?」
「そうそれ」
「やっぱ同調圧力はクソだわ!
こんな酷いこと命令したヤツに、文句言ってやる!!
そいつちゃんと責任取ったの?」
わたしは憤ってしまう。
「命令した当時の日本軍の偉い人たちは、この件では、戦後の裁判で無罪だったらしい」
「なんで!?」
「戦争中に軍人を死なせた責任とる法律なんて、無かったからね。
でも、日本軍の偉い人の何人かは自決したわ。
部下達の後を追うって……
でも、それは少数派で、大多数は生き延びてるの。
戦後の平和な時代を生きた人がほとんどよ」
「なにそれ?」
「特攻や回天の命令に関わっておきながら、自分は死ぬ係じゃないからって言って、生き延びた人もいる」
「うわぁ……ひど!!」
「でも、その人は、他の国から帰ってくる復員兵の引き上げ業務に奔走したりしてるの」
「…………」
「それが、その人の責任の取り方だったのかもね?」
「…… その人、どんな気持ちで生きて、復員兵の人たちのために働いたんだろ。
…… 戦争で幸せになった人っていないね……」
「だね……」
「じゃ、そろそろ行こっか!」
「うん!」
阿多田交流館を後にして、二人して一緒に登るのは2回目の神花山参りに向かった。




