【30話】お母さん
楽しい昼食は終わり。
私、川岡美和と咲良は、ハイカラ通りで食後のデザートに、みかんジェラートを買ってもらって食べ歩き。
道後温泉駅前まで戻って、坊っちゃん列車を待っているのだが、
私は、ちょっと緊張していた。
咲良のお母さんとは、あんまり接点なかったからだ。
さっきのうどんも、咲良と二人きりなら、もしくは中村のおばちゃんとの三人旅なら、咲良の鼻の穴に突っ込んでた。
それをフリだけでとどめたのは、ひとえに咲良のお母さんが見てたから……
(鼻の頭には当てました。そのうどんはスタッフ(咲良)がおいしくいただきました。)
確か2回くらいは会った事あるけど、軽く挨拶したくらいだし、それによく考えたら私、今、完全アウェイじゃない?
咲良は、お母さんと、いつもの中村のおばちゃん……
さらには過去に一緒に旅行をした、家族ぐるみの付き合いが発覚したばかり……
この中で私だけ、咲良にくっついて来ただけの他人じゃん!!
(おーい咲良!!助けて〜!!)
と、咲良に念を送るが、咲良はみかんジェラート片手に、中村のおばちゃんとはしゃぎながら、引き込み線に留まっている坊っちゃん列車を見に行った。
(おーい!!)
「…………」
今から二人を追いかけたら、咲良のお母さんを避けたみたいになっちゃうしなぁ……
今更ながらに緊張を増していると。
「……やっと二人きりになれたわね……」
耳元で囁く咲良のお母さん。
「!?」
「なーんてね! 中村のおばちゃんに頼んどいたのよ! 咲良をちょっと引っ張ってってって!」
てっが多いな!意味は分かるけれども!?
「一度、美和ちゃんとじっくりお話ししてみたかったのよ!
あの子、家では美和ちゃんのことばっかり喋ってるんだから!」
「あ、そうなんですか?」
私は、逆に家では咲良の事は殆ど喋らない。
大切な事は、自分の心に留めておく派だ。
「だから、ケンカした時はすぐに分かったわ!
美和ちゃんのこと、何にも言わなくなっちゃうんだもん!」
「あー、確かに咲良は、嘘をつくのは苦手ですよね」
「ねぇねぇ、私の事、お母さんって呼んでみて!」
「え!? お母さん?」
「君にお義母さんと呼ばれる筋合いはない!!」
「言わされたのに! この仕打ち!?」
「ふふふ、ごめんね〜いっぺんやってみたかったのよ♪
さすがはツッコミの美和ね!
鋭いツッコミ!
ボケがいがあるわ〜
ボケ老人になっても安心ね♪
介護はヨロシク!
ちなみに私は同性婚アリ派よ!」
「ぶっっ!!」
みかんジェラートを吹き出しかけた!
「ツッコミどころが多すぎるわ!!」
「ふふふ、これぞ、ツッコミどころが多すぎて有耶無耶にするの術よ〜♪」
ああ〜 確実に親子だわ〜
似たようなこと咲良にされた覚えがあるわ〜
知恵と経験をつけた咲良って感じだわ〜
「うちの子のこと、よろしくね!!
あなた達の将来がどうなるか、知ったこっちゃ無いなりに、楽しみにしてるのよ?」
「……さっきドサクサで同性婚とか言ってましたけど……
日本じゃ無理ですよ? 法律的に」
ジト目でやり返す。
「そう? 将来はどうなるかわからないし、
自治体によってはすでにパートナーシップ制度もあるから、大丈夫じゃない?」
「お母さんは、その、孫の顔を見たいとかはないんですか?」
「孫ねぇ…… 養子でも貰えばいいじゃない?」
「そんなもんですか?」
「私は、家族は血のつながりよりも、心や考え方の繋がりが大事だと思うの
次の世代に残すのは、血じゃなくて、知なの、
何を大事にするべきなのかってことを伝えたいの!
価値観とか、哲学とか……
たとえは、中村のおばちゃんのこと、誘拐されたその日から、
私はもう一人のお母さんだと思っているのよ?
血が繋がってなくても、お母さんなの!」
「なるほど、確かに中村のおばちゃんも同じこと言いそうですよね」
私は素直に『伝わっているんだな』って思った。
「中村のおばちゃんの、ご家族の話は聞いた?」
「はい、勘当されたって話と、中村のおばちゃんの尽力で絆が戻った話を」
「血の繋がりなんて関係なく、絶縁してしまったわ。
もう一度やり直せたのは、血の力じゃなくて、中村のおばちゃんの真心の力だと、私は思うの」
「それは確かに、私も思います」
「愛って、無くなったり、減ったりなんかしないものよ。
ただただ、増えてゆくものなの!」
「それが、咲良のお母さんの哲学なんですか?」
「ふふふ、私はもう美和ちゃんのこと、自分の娘だって思ってるからね!
今日、私の愛は一つ増えたわ!!」
言いながら、私を抱きしめてきた。
強引なスキンシップは、咲良に似てるけど。
それだけじゃない気がした。
これは確かに『お母さん』って感じだな……
私は、勝手にアウェーを作ってたんだな……
帰ったらホントのお母さんとも、もっと話をしよう。
そう思った。
坊っちゃん列車が出発する前には、咲良と中村のおばちゃんが帰って来て、四人全員で乗り込んだ。
初めて乗った坊っちゃん列車は、楽しかった!
坊ちゃん列車は、夏目漱石の小節『坊ちゃん』に登場する『マッチ箱のような汽車』を模した、当時のレトロ感満載の、蒸気機関車風のディーゼル機関車だ。
観光客向けのサービスも充実していて、乗車中の観光ガイドや、終点での人力方向転換とか、咲良と私は無邪気に楽しむことができた。
多分だけど、保護者がいるから気を張らなくてよくなったからだと思う。
咲良は、いつものように戯れついて来たけど、今度は私からも抱きしめ返した。
最初咲良は、びっくりしたような顔をしてたけど、とても喜んでくれた。
多分私は怖かったんだ、自分から好意を伝えることが、だからいつも待ってたんだなって思った。
もう、咲良には遠慮せずに行こうって思った。
次からは鼻の穴にうどんを突っ込むぞ!と、心に固く誓った!!
こうして、咲良と私のひと夏の冒険旅行は幕を閉じたのだった……
……ら、よかったんだけどね……
帰りのフェリーで、私はまたもや盛大に船酔いした。
3人がかりでお世話をしてもらって、ありがたいやら、申し訳ないやら。
そして夏休み終盤に、私は咲良に呼び出しを受けることになる。
私たちのひと夏の冒険は、もう少しだけ続くみたい。




