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【03話】土曜日の学校帰りのコロッケ

「掛かる費用はひとり、1万3千円ね、なんとか日帰りで行けそう……、金額の内訳訊く?」


「美和先生にお任せします」


 ここ数日にわたる、熱のこもったディスカッションと調査の結果を、美和はわたしに告げた。

 そして、わたしは数字が苦手だ。


 写真の謎を解き明かす誓いを立ててから5日後、土曜日の正午過ぎ。


 部活帰りにAコープ前の屋台『お肉屋さんのコロッケの店』裏のベンチで、コロッケを買い食いしながらの作戦会議。


 Aコープは、JAがやってる、この辺ではちょっと大きいスーパーだ。

 お店の外、入り口近くの屋台で、店内の精肉コーナーでお惣菜として売っているコロッケを、単品から売ってくれている。


 中学校が近いので、下校時の買い食いにとてもありがたい存在だが、表向きは校則で買い食いは禁止なので、皆こっそり利用している。



 最近の学校での、わたしたち二人の話題は、夏休みに行く謎解き旅行でもちきりだった。


 クラスの女子の皆が、期末テストや進路の話題、部活の大会の話題、流行の服やコスメの話題。

 ドラマ・映画・アニメ・漫画、誰と誰が付き合ったとか別れたとかの話題で盛り上がる中……


「こんなんでいいのかしら、わたし達……」

 言いつつ、揚げたてホカホカのコロッケを、シャクリと食しつつ、


「ええんやで~」

 気の抜けた美和のエセ関西弁を聞き流した。


 土曜で学校は休みだが、部活はある。

 部活は嫌いだが、午前中だけで終わる土曜日の部活は、まぁまぁ好きだ。

 土曜の午後、美和とゆっくり過ごせるから。


 わたし達は二人とも、ソフトテニス部に所属している。


 理由は、大会がほとんど無く、わが校は強豪校でも無い、練習もキツくはない、要するに、あまり熱心では無い部活動だったからだ。

 もちろんソフトテニス上達に熱心に頑張ってる人たちも居るが、そうでないわたし達みたいなのも居る部活。


「ソフトテニス頑張ってる人には悪いけど、強制的に頑張らされる身にもなって欲しいよねぇ~」


 ソフトテニスのルールは普通のテニスとほぼ一緒で、シングルスがなくて、二人一組のダブルスしかない。

 使うボールも、ラケットのにぎり方も、スイングも違う。

 正直ドマイナーなスポーツだ。


 部活動。

 わたしはプロになる訳でもないのに、そんなに熱心に取り組む意味が分からなかった。


 せめて硬式ならプロになる可能性も若干……

 ミジンコの、触角の、先っちょ、くらいはあると思うのだけど。


 ソフトテニスはマイナーゆえに、そもそもプロがほとんどいないので、その練習をする部活の存在意義がわからない!!

 やる意味どころか、部活の存在意義も分からないのだから、練習に身が入らないのも当然だった。



「学童保育と一緒よ、この辺共働きが多いから、私たちの自由時間を削って『悪いこと』をさせないようにしてるのよ」


「悪いことって?」


「ん!? エッチなこと……とか?」

 美和はスカートの裾をめくりあげながら、しなをつくって媚びた視線を投げかけてきた。


 残念だが、貴様がハーパンを下にはいていることは、マルっとお見通しなんだよ!

 さっき更衣室で見たし!!

 あと、その媚びた視線も、身長差的に上から目線なんだよ!

 コンチクショー!!


 なので、そんなの効きませんのことよ? の意思を込めてジト目でにらんでやると、


「そんな目で見たって、その目になる前に私のふくらはぎをチラ見してたの気づいてるんだからね!」

 ニヤリと笑って勝ち誇ったドヤ顔を晒してきた。


 ……あ、バレてた……。だ、だって、だって……っっ!!


「このスケベなふくらはぎが悪いんじゃーっっっ!!!」

 と、美和のふくらはぎを、いやらしくも紳士的にくすぐてやった。


「いや~ん、およしになって……って、あっひゃひゃ!!

 ヤメロ!マジで!!! あひゃひゃひゃひゃ!!」


 わたしはここ最近、失礼発言の多かった敵討ちに、親友の白いふくらはぎを心ゆくまで堪能した。


「ふふふ……、今日のところはこのぐらいで勘弁してやるか……」

「はぁはぁ……、オボエテロ……」


 ふう。……、満足っ!!



 コホンとわざとらしく咳払いすると、美和はメモに書いた行程を睨みながら言った。


「咲良は行けそう? お金的に」

「正直厳しい……」


 中学生にとって1万3千円は大金だ。

 現在の貯金と、これから貰うお小遣いではギリ届かない。


「実は私も……、こうなったら、バイトするしかないわよね……」


「でも校則でアルバイトは禁止でしょ? そもそも中学生じゃないのアンタ達」

 作戦会議に、エプロン姿のコロッケ屋台のおばちゃんが入ってきた。

 わたし達は親しみを込めて、中村のおばちゃんと呼んでいる。


 優しい笑顔と背筋の伸びた正しい姿勢、上品ながらもはっきりした物言いで、密かにファンが多い。

 わたしも、このおばちゃんが大好きだ。


 中村のおばちゃんは、『この地域の子供は、みんな私の子供だよ!』と、公言する名物おばちゃんなのだ。


 半ば公然と行われている買い食いに、学校からのお咎めが無いのも、場所がAコープ(JA)だって事と、このおばちゃんがここの保護者的な存在だから、だと思ってる。


 道路から見えない位置に、わたし達学生のために、こっそりベンチを置いてくれているのも中村のおばちゃんで、学生達の憩いの場所だ。


 しかし、決して放置はせずに、このベンチ周りは、おばちゃんの目がしっかり行き届いている。

 なので皆、お行儀よく使わせていただいている。決して荒れたりはしない。


 まぁ、わたし達二人は、他の人が居ないタイミングでしか、利用しないけどね。


 あと、美和に笑われるから言ってないけど、あの写真を見た時に、白のワンピースの女の人で真っ先に浮かんだのが、このおばちゃんだ。

 あの白いワンピースの女の人と雰囲気が似てる、ただ年齢が合わない。


 中村のおばちゃんは、今年で60歳になるハズなので、あの写真、わたしが……、例えば5歳ごろの写真だとしたら9年前で、当時おばちゃんは51歳になる。

 あの写真の女の人は、どう見ても20代半ばぐらいなので、多少の誤差があったとしても、タイムマシンでも無い限り、ちょっとありえない。


 もし、中村のおばちゃんに娘さんがいたら、年齢的にちょうどよい感じになりそうだけど、残念ながら中村のおばちゃんに子供はいない。

 JA近くの一軒家で、ここの精肉コーナーで働くご主人と、夫婦で二人暮らしをしている。


「大丈夫です! 家のお手伝いで稼ぎますから!!」

 美和は大人相手でも、はっきりとものを言う。


 美和は、中村のおばちゃんと同じタイプに見える。

 今は上品さでは負けてるけど、将来的には中村のおばちゃんみたいな感じになりそう。


 わたしは、どうだろう?

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