【25話】むかしばなし
ふふふ……と笑いながら、中村のおばちゃんは話を続ける。
「私はここ松山の生まれで、ちょうどその歌のように瀬戸内海を渡って、いま私たちが住んでいる町にお嫁に行ったの」
「そこで流産をしてしまってね。
二度と子供が産めない身体になったんだ。
昔は何でも女が悪いと言われた時代で、
そして、女の仕事は子供を産み、育てることだった。
子供を産めなくなった私は、お嫁に行った家から追い出されてしまってね。
実家からも勘当されたのよ」
「ええ!?」
子供を亡くして一番ショックを受けている人に、そんな酷いこと……家族がするの!?
「女は産む機械…なんて堂々と言い放った政治家もいたけど、
あんな感覚が当たり前の時代だったのよ。
当然、今も昔も、決して言っていい言葉ではないわ」
「子供を死なせてしまった罪悪感を抱えて。
知ってる人は誰もいない知らない町で、
実家にも戻れずに、いくあてもなく、
長い事ふらふらしてたんだよ。
本当に色々とあったね……」
「そんなフラフラしている時に、柳井の駅前のスーパーでね、当時5歳の咲良ちゃんのお母さん、ゆいちゃんが、私の手を掴んでね。
『お母ちゃん』って言ってくれたんだよ。」
「多分間違えちゃったんだろうけど、私はつい、ゆいちゃんを攫ってしまったんだ。
そのまま無意識に、故郷に向かうフェリーに乗ってしまって……」
「その時に撮ったのがこの写真なんですね。
年代を考えると、かなり綺麗な写真ですが、やっぱり撮ったのは、今の旦那さんですか?」
ズバッと訊くなぁこの親友。
船上の推理のときから、誰が撮ったのかずっと気にはなってたけど。
「美和ちゃんの推理通り、今の私の旦那よ、
私とゆいちゃんの後をこっそり尾行してきたんだって、
何かおかしいと思って」
「ストーカーじゃん!!」
わたしと美和の声がダブる。
「あっはっはっ、あの頃、そんな言葉は無かったからね〜」
笑いながら、中村のおばちゃんは言った。
「そして、船の上で私を説得して、一緒に連れ戻してくれたの。
ゆいちゃんが行方不明で大騒ぎになってたけど、うちの人が上手くとりなしてくれてね。
事情を知った人たちが、私を可哀想と思ってくれたのかもしれない、お咎めはなかったわ」
お肉屋さんのご主人は、無口で無愛想な人だったと思ってだけど……
頑張ったんだろうなぁ……
そして、見た目によらず、やるな!あのおっちゃん!!
「見た目によらず、やるな!あのおっちゃん!!」
親友に心の声を、横取りされた!?
「世の中は理不尽で、辛いことの方が多いけど、誰も分かってくれないと、匙を投げたくなる時もあるけど、
観ていてくれてる人は必ずいるわ!
誰も見てなかったとしても、自分自身が見ている!
だから堂々と、図々しく、粘り強く泥臭く生きましょう!!
心の臓が止まるその日まで!」
……ん、ちょっと待って!?
まだ1個残ってる!!
「わたしの記憶にある、写真と同じ風景って結局なに!?」
「私もそれ思ったけど、思い込みとか既視感……
デジャブみたいなもんじゃない?」
「え!?そうなの?」
「違うわよ、私がもう1回誘拐したのよ、今度は咲良ちゃんを」
「2回目の誘拐!?」
わたしと美和の声がダブる。
ふふふっ…と笑いながら、中村のおばちゃんは楽しげに言った。
「大人になって結婚もして、子供もできたゆいちゃんが、子供の出来なかった私たち夫婦にプレゼントしてくれたの、子供との水入らずの旅行を」
「そんな旅行は何回かしたハズなんだけど、咲良ちゃん小さかったから、ほとんど忘れてちゃったのかな?」
「ああ〜この写真の子の年齢なら、たとえ記憶力皆無な咲良でも、もう少しちゃんと記憶に残ってる筈だと思ってたけど、
咲良との旅行が、この写真の子よりも、さらに小さい頃なら、記憶がおぼろげなのも納得だわ」
なるほどね……
あと、美和は後でオボエテロ。
「ちなみに私たち二人が、大人しく予定通りに明日謎解き旅行してたら、どうするつもりだったんです?」
「その時はゆいちゃんが行きの引率、松山で私が合流して四人で帰る算段だったのよ」
「なるほど、大人達は二段構えの作戦だったのね」
親友は参りましたと言う感じで、軽くて両手を挙げるポーズをした。
「ちなみにゆいちゃん明日こっちに来るから、今日はウチに泊まっていきなさい。
二人とも大人しく私の3度目の誘拐被害者になってもらうわよ!!」
あっはっは!と笑いながら中村のおばちゃんは言った。
大人達の方が、楽しげなのは気のせいだろうか……
そして中村のおばちゃんは、わたしの手元を見てこう言った。
「もう食べちゃったの!?
もう1枚いっとく?」
「いただきます!」
「あんた……船の中でもシーフードヌードル食べといて……」
「今度はうどん台付肉玉油イカプラスをお願いします!」
「うどん台付き?」
少し驚いた表情で店のおばちゃんが注文の確認をする。
「はい!今度はうどん入りでお願いします!!」
わたしは注文ははっきり言う。
届くご飯の量が減るのは面倒だ。
「ゴローさんかよ?
いや、ゴローさんに失礼だわ!!」
2枚目の三津浜焼きも美味しくいただきました。
ご馳走様でした!
中村のおばちゃんに案内されて、伊予鉄道高浜線と、乗り換えてJR松山駅前線に揺られて30分ぐらい、
あたりまえだけど、違う町の違う景色だ。
美和と二人でぎゃあぎゃあ言いながら、流れる車掌を夢中で眺めた。
中村のおばちゃんの実家の最寄り駅について、そこから徒歩で15分ぐらいで……
「……って言うかずっと塀が続いてない?」
「ほんとだ、なんでだろ?」
「それが、ウチだからだよ?」
「へ!?」
中村のおばちゃんのご実家のでっかい門に到着した。
「うわぁ……これはスゴイ……」
「ファーマー美和じゃなくて、お嬢様美和を用意すべきだったね……」
「あの格好でも浮くでしょ?ここは……」
純和風のでっかい豪邸……
いや、お屋敷でした。
大きな蔵まであります。見える範囲で3つぐらいありました。
中村のおばちゃんって、こちらのお屋敷のお嬢様でいらっしゃったのですか!?




