【22話】白いワンピースの女の人
フェリー3階の外部デッキで、強風にあおられて美和の麦わら帽子が海に向かって飛んでしまった。
わたしはとっさに麦わら帽子に向かって飛び出していて……
背の高い美和の手が届かなかったのに、背の低いわたしがどんなに飛び出しても、手を伸ばしても届くわけなんかないと思われるかもしれないが……
わたしの手には、美和のリュックから素早く抜き取った傘があったので、傘の先の部分を握り、持ち手のフックになってる部分を、麦わら帽子に向かって伸ばして……
届いた!!
そこから、くいっと手首を返して、傘の持ち手の『J』部分をリボンの輪に引っかけることに成功。
全力で麦わら帽子へ向かってジャンプしたので、身体の半分以上、足の付け根ぐらいまでが完全に船の柵の外に飛び出していたが、ひざを柵の上端にかけて、体幹の力でグイっと全身を船に戻して、麦わら帽子と一緒に無事帰還!着地も成功!!
どんなもんだい!!
……と、得意満面で、美和に麦わら帽子を返してあげようとしたら。
「……バカ!!バカさくら!!危ないでしょ!海に落っこちたらどうすんの!!いま体のほとんど船の外に出てたじゃない!!バカ!バカ!!大バカ!!」
「あ、ごめん……」
半泣きの美和に全力説教くらってしまった。
美和の麦わら帽子が飛んだ瞬間のあの表情を見たら体が勝手に動いてしまった。
なんて言ったら、美和が自分自身を責めちゃうのでもちろん黙ってる。
美和は差し出された麦わら帽子を抱きしめて、
「私のせいで……ごめんね、ありがとう」
黙ってても伝わっていたみたい。
「こちらこそ、ごめんなさい。
心配してくれてありがとう。
そして……どういたしまして!」
色々あったけど、再び最初の場所まで舞い戻って検証開始。
「景色から考えると、あの写真を撮ったのはやっぱりここが1番近いわね。
でも、うーん、やっぱりどの角度から見てみても違う。
写真に写っているのはこの船じゃないみたいね」
今乗っている おれんじぐれいす は1996年就航。今年で就航31年だ。
だから時期的には、わたしが乗ったハズの頃と被ってるんだけど、写真の船体とは、微妙に違って見えた。
この船と おれんじじゅぴたー は姉妹艦で同じ形のはず……
でも、ひょっとしたら、外観部分なんかは、少し違う可能性もあるし、しらきさん は、そもそも違う型の船なので、あの写真の船は、おれんじじゅぴたー しらきさん の2隻のどちらかで、今乗っているこの船では無かったのかもれない。
くじ運は、いい方なんだけどなぁ〜
今回は、ハズレを引いたかぁ……
わたしと美和は、写真を撮ったであろう、めぼしい場所をいくつか見つけたが、写真とは微妙に景色が違うので、ちょっとがっかりしていた。
「でも、天気も良いし、ロケーションはあの写真と変わらないと思う。
咲良、どう?何か思い出せそう?」
「う〜ん…… ちょっとよく分からないかな?」
頑張って思い出そうとしても、やっぱり都合よく記憶は出てこない。
「美和とは違って、わたしは、テスト前日の一夜漬けの答えすら出てこないのだ!
小学竿に上がる前の事なんて都合よく思い出せるわけがない!!
無理を言ってもらっては困る!」
「なんで偉そうなのよ?
ちょっと気がついた事があるんだけど……
この写真の二人、咲良と白ワンピの人、二人とも手ぶらだよね」
当事者ではない美和の方が、この場所でヒントを掴んだみたいだ。
「実際現場に立ってみて、改めて気がついたんだけど、結構風が強いから荷物は手に持っておきたいと思うはずだよね。
だから、荷物はどこなんだろう?ってのが一つと……
この写真にはもう一人登場人物がいるわよね?」
「え!?だれ!?私には見えないけど……幽霊!?」
「バ……写真を撮った人よ!!」
「ああっ!そーゆーアレね……
あと、はっきりバカって言って!気を使わないで!!気を使われるバカの方がおバカ度高いから!!」
「ごめんね…バカ♡」
美和はしなを作ってウインクしつつ言った。
「謝りながら変な感じで言うんじゃない!!」
「多分写真撮ってる連れの人が、荷物を持ってくれてるんだと思う。
だから二人旅じゃなくで、少なくとも三人旅」
「たまたまその場にいた人に、写真撮ってもらったとかは?」
「その場合、荷物預けるかな?
そういう場合、普通は自分で持ってるんじゃない?
通りすがりの人、そこまで信用しないでしょ?」
「確かに……」
「あともう一点、写真の奥に救命用の浮き輪があるじゃない?」
写真にオレンジの浮き輪が写っている。
「今乗ってるこの船の浮き輪には、防予フェリーって書いてるけど、写真の方は……
よく読めないけど漢字4文字っぽいのよね……だから多分だけど……」
「多分!?」
「まだ秘密!!」
「なんで!?」
「でも、あくまで多分だけど、謎は解けた気がするわ!!」
「ええ?なんで!?教えてよ!!」
「じゃあヒント、多分この白ワンピの女の人は、中村のおばちゃんよ!」
「わたしもそれ、前に一瞬だけ思ったけど、ありえないよ。
だって中村のおばちゃん、私が子供の頃からおばちゃんよ?この写真の人は若すぎるわ」
「そこにトリックがあったのよ!
まぁ確証はないから……」
そこで美和の顔が再び青ざめている事に気がついた!
「ちょ……急いでお手洗いへ行くわよ!!」
結局、わたしは松山に着くまでの残りの時間、親友の背中をさすり続けましたとさ。
名探偵美和の船上推理ショー!
訊きたかったなぁ〜
わたし達が、松山の三津浜港のフェリーターミナルに到着すると……
そこには、写真と、そして私の記憶の中と同じ、白のワンピース姿の女の人が待っていた。
「いらっしゃい!私の故郷へ」
「嘘つきにならずに済んで良かったわね」
揺れない大地に帰還して、船酔いから回復しつつある美和が言った。
「へ!?あぁ、乗船券買う時の嘘ね、確かに!
おじいちゃんじゃないけど、保護者が迎えに来てくれたね!!」
「んもう!あんだけ心苦しそうにしてたのに、もう忘れちゃったの!?」
親友は呆れて言った。
そして、白ワンピースの女の人に向き直ると
わたしと美和は、声をそろえて言った。
「こんにちは、中村のおばちゃん!」
白いワンピースを着た、中村のおばちゃんが、わたし達の迎えに来てくれていた。




