【20話】おれんじぐれいす に飛び乗る!(飛び乗らない)
9時発の松山行きの便で、名前を おれんじぐれいす という。
松山までの航路を運航する船舶は、『おれんじぐれいす』と、『おれんじじゅぴたー』、『しらきさん』の3隻で、私たちが乗るのは2番目に新しい船の、『おれんじぐれいす』だ。
船名のひらがな、かわいい。
1番新しい しらきさん は、周防大島(伊保田港)を経由する便なので、日帰りで時間のない私たちは今回パスした。
おれんじぐれいすと、おれんじしゅぴたーは姉妹船で、ローテーション運行なので、どちらに当たるかは運任せだ。(問い合わせれば、事前に分かるらしいけど、同型艦なので、少なくともわたしは気にしない。)
「でっかいねぇ〜」
「うん、今回乗るおれんじぐれいすは、全長約61メートル、総トン数695トン、旅客定員200名、航海速力13ノットで、時速では約24キロ、1700馬力のディーゼル エンジンが2基搭載よ!」
「覚えてるの?」
「前に言ったでしょ?」
「覚えてるの?」
はぁ……とため息ついて、
「ハクション大魔王並みに数字が苦手よねぇ、大丈夫?高校受験」
美和に心配をされてしまったが、
「いや、これはどう考えても、覚えてる方がおかしいよ!?」
わたしは、きっちり主張しておいた。
出港15分前になって乗船開始。
出港まで時間があるので、船内をあちこち見て回る。
そして動いていない今の時点で、結構揺れる。
珍しく緊張した面持ちの親友に話しかけた。
「初めて乗ったよフェリー」
あの写真と、うっすらとした記憶があるから正確には少なくとも1回は乗ってるはずなんだけどね。
「実は私も……結構揺れるよね、大きい船だとあんまり揺れないって聴いたんだけど……」
「このぐらいの船ってフェリーの中では小さい方らしいよ?」
「うん、大阪と九州を結ぶ阪九フェリーなんかだと、この船と比べて長さだけで3倍、容積は23倍以上の超大型クルーズフェリー……」
「ひょっとして船酔いしてる!?」
「酔い止めは飲んでおいたから、多分大丈夫……」
そういえば、仲直りデートの時に、ちょっと長めにトイレ行ってたから、その時にこっそり買ったのか……
多分、わたしに心配させないために。
そういえば、美和は小学校のバス旅行でも気分悪くしてたっけ?
その時は、ちょっと気分が悪くなっただけだったし、普段の路線バスでは酔わないから、あまり気にしてなかったけど、大きく揺れる船だと乗り物酔い症状が大きく出るのかも……
これは茶化したらダメなガチのやつだ!
「お手洗い行くよ!」
美和を抱きかかえて、一緒にトイレに行き、背中をさすってあげて、麦茶が船酔いに良いのか悪いのか分からなかったので、自販機で水を買って来たり。
全力で親友のお世話を焼いた。
「アンタは昔から底なしに優しいお人よしよね……」
「わたしのために船酔いするのに、船旅に付き合ってくれるアンタほどじゃないよ〜」
「ありがとう……いつも、いつも話しかけてくれて、私の友達でいてくれて……私と仲良くしたせいで、あんたまで無視されてるから……」
わたしの親友は本当に珍しく弱気になってる。
美和は中学生になってから、はっきりとものを言う性格と、優秀な成績、目立つ風貌がクラスのカースト上位勢に疎まれて、イジメを受けていた。
小学校の頃は、生徒が少ないアットホームな校風と、転校初日にわたしのためにがんばってくれたのが、ズバズバモノをいう面も、勉強ができる面も、「一生懸命な良い子」として好意的に受け入れられた。
だけど、中学校に入ると、他校の小学校からの入学者数の方が圧倒的に多いので、人数が増えてだけではなくて、私たち少数派の小学校のそれまでの常識が全く通用しなくなった。
出身学校だけで馬鹿にしてくるヤツもいた。
美和はそんな中で一人、気を吐いていた。
テストで何度も学年トップの成績を取り、馬鹿にしてきたヤツらの鼻をあかしたのだ。
そして目をつけられた。
暴力こそなかったけど、公然と無視やニヤニヤと笑いながら、ある事ない事、噂話を吹聴されて……
でも、先生に注意されるのは、いつもなぜか美和の方、教室の隅に呼び出されて、
「先生は真面目な川岡がそんな事しないと思ってるんけど、そんな風な話もあったから確認のために、えっ誰が言ってたのかって?いや、噂だよ噂、誰がって訳じゃない……」
そんな感じで教師に詰められてたり。
その時私は見たんだ、そうやって美和を問い詰めるようなことを先生がした後、先生がイジメの主犯格に目配せしたのを、
アイツら先生に上手く取り入ってるんだ……
でも、私はスーパーマンじゃない、真正面から立ち向かえない臆病者だ。
周りの目を気にせず、美和に話しかけて、一緒に無視される事しかできない。
もっとわたしに力があったらなぁ……
中学2年生にもなると、物理的な力ではどうしようもないことがあることを知っていた。
集団の同調圧力に抗うには別の力がいる。
それは、美和にもわたしにも縁がない力だ。
世の中は理不尽だらけだ。
こっちは真面目に頑張ってるだけなのに、気に食わないって理由で足を引っ張るヤツら大っ嫌い!!
わたしにできるならお母さんの病気も、陰湿なイジメ連中も、エコ贔屓の教師も、
まとめてぶっ飛ばしてやるのに!!!
頑張ってる人を困らせるようなモノ全部この世からキエロ!!
美和を介抱しつつ一人エキサイトして、メラメラ闘志を燃やしてると、美和がほっぺたを引っ張った。
「こら!物騒な妄想に走らない!!」
「こぅこぅふぉうぉほふんひゃふぁい(心を読むんじゃない)」
「ありがとう。少し落ち着いたから、写真の場所探しましょ!」
いつもの調子を取り戻した親友がわたしを今、この場所に引き戻してくれた。
「こちらこそ、ありがとう!」
わたしは思い出した。
礼に始まり、礼に終わる……だよね!
フェリーはいつの間にか出港していた。
気のせいかもだけど、走り出してからの方が揺れは少ないみたいだ。
そのおかげからか、美和の船酔いも落ち着いたし、松山に着くまでの2時間で捜査しないと!
土曜日の夜遅くまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!
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謎の写真の真実、そして誘拐事件は本当に起きるのか――?
明日の朝【8:05頃】に、第21話から更新を再開します!
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