【17話】柳と井戸と、親切そうなおじさん
お店を出て美和に尋ねる。
「お次は?」
「お次がラストよ!
柳井の名前の由来……
柳と井戸を見に行きましょう!」
「柳と井戸で柳井って安直……」
「変なカタカナの名前よりマシでしょ?」
「おっと、南アルプス市の悪口はそこまでだ!!」
「いや、具体的にはいってないでしょ?
私は南アルプス市って名前、好きよ!」
「好感度をとりにいったな!!」
「ちゃうっちゅーに!
それに一体、誰からの好感度なのよ?」
「もちろん、わ・た・し♪」
わたしは言いながら美和にくっついた。
「私のアンタへの好感度はだだ下りよ?」
「もう、美和はツンドラなんだから〜」
「誰が北極海沿岸などの寒冷地に広がる、樹木が生えない永久凍土地帯よ!!やかましい!
それを言うなら、ツンデレでしょ!ツンデレ!!」
「自ら認めたな!!
ツンデレだと!」
「ぐぬぬ……」
などとギャイギャイ騒ぎつつ、わたし達は柳井の地名の語源になった、柳と井戸を目指します。
その道すがら、街角のアチコチに飾られている金魚提灯は柳井の名物だ。
「金魚提灯かわいいね!!
でもなんで金魚なの?
柳井の畑から採れたとか?」
「そうそう、秋になると柳井中の畑から
ぎゃあきゃあと叫ぶ金魚草の鳴き声がって、なるかーっっ!!!
金魚が『庶民の憧れの高級魚』であり『幸福や金運を呼ぶ縁起物』だったからよ!
『金』の『魚』で金魚って言うでしょ?」
「なるほど、縁起物起源だったのね!
美和!ちょっと金魚提灯の方に寄って!」
カシャ!
スマホで、お嬢様美和と金魚提灯の写真を撮った。
「なんでまたしてもローアングル……」
「いやいや、今回のは高い位置にある金魚提灯と、美和のお顔を写すためのアングルですよ?」
「今・回・の・は!?」
ずずいっと怒ったお顔を寄せてくる美和お嬢様……
うーん、どう見てもかわいいので、怒られてるのににやけちゃう。
「まったく!それに私ばっかり撮ってもらって悪いから、咲良も撮ったげる!
ほら、金魚提灯側に寄って!!」
「え~わたしなんて撮ってもフィルムのムダだよ〜
そうだ!そんなことより美和のデコルテを撮ろう!さぁ鎖骨出して!!」
「スマホにフィルムはありません!!
それに、ナニ名案を思いついたふうにトンチキな事言ってんのアンタは!!」
……そんな感じで、美和と日常会話を楽しんでいると、
「お二人さん、撮ってあげようか?」
親切そうなおじさんが話しかけてきた。
顔を見合わせる美和とわたし
わたしはキリッとした表情で鋭く告げた!
「美和!すぐに鎖骨を隠して!!」
「まだ出してません!!」
「まだ?」
「言葉のあやよ!忘れなさい!!」
しまった!この余計なおっさんが話しかけてこなければ、美和の鎖骨が見られたかもしれないのか……!?
貴重なお嬢様美和の鎖骨シーン
「……お、おのれ……」
「もう、つっこまないわよ!」
「あの〜……」
あっ!!余計なおっさ……
じゃなかった、
親切なおじさんを、置いてけぼりにしてしまってた!
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
美和は自分のスマホを渡しながらお願いした。
「荷物も持ちますよ?」
と、親切なおじさん。
「ありがとうございます。でも大丈夫です。
咲良の荷物、私が持つわ!」
「え!?」
美和に二人分持たせるの悪いよ、と言いかけて、美和の言わんとすることが分かった。
この親切そうなおじさんが、美和のスマホをかっぱらって行くような不届きものなら、わたしが追いかけていって捕まえろってことね!
わたし達の荷物を渡さなかったのも、このおじさんを疑ってたからなら納得。
「了解!」
にこりと笑って私のバックを美和に手渡す。
美和は二人分の手荷物を後ろ手に持って、背中に回して胸を張るポーズをとる。
わたしは迷わず、両手が塞がって抵抗できない美和に抱きついた!
「うりゃあ!!」
「ちょっ!?」
パシャリ!!
満面の笑顔で、タックルするように美和に抱きついたわたしと
急に抱きつかれて、照れつつ慌てる美和お嬢様を、暖かく見守る金魚提灯の記念写真ができました!!
シャッターチャンスを逃さなかったおっちゃん!グッジョブ!!
ありがとう!!そして疑ってごめんなさい!!
「ありがとうございました」
結局普通の記念写真も、追加で撮ってもらって
親切なおじさんとは、お礼を言って別れました。
「ふふふ、いい写真撮ってもらったね!!」
「もう!!
まぁ、面白い写真なのは認めるわ、いい記念になったわね♪」
そんなことを話しながら歩いていると到着しました。
柳と井戸 こと『湘江庵』ってお寺に。
『柳井』の地名の発祥になったと言い伝えられている、伝説の井戸があるお寺だ。
「伝説によると、約1400年前に当時、豊後国……今でいう大分県南部の長者の娘である般若姫が、都へ上京する途中、嵐に遭ってこの地に立ち寄ったという物語が由来で、」
「般若姫って般若の面の姫だよね、めっちゃ怖そう……」
「いや、逆に超美人らしいよ?この井戸の清水を飲むと、般若姫のような美人になれるって伝説になるぐらい」
「なるほど、飲んどく?」
「いまは水質調査中とかで飲んじゃダメらしいけど」
「なるほど、じゃ、いいや」
「あっさりね?」
「わたしは別に美しくならなくていいし、美和はもう充分綺麗だし!!」
「……褒めてもナニも出ないわよ?」
「やだなぁ、正直なだけだよ!」
「……もうっ!!
伝説によると、般若姫はこの地で井戸の清水を飲んで、その水の清らかさをめっちゃ喜んだんだって、
そのお礼に『柳の楊枝』を差し出したら、なんと!その楊枝が一夜にして芽吹き、大きな柳の木に成長したとかなんとか。
それ以来、その地は『楊井』から『柳と井戸』という名前で呼ばれ、それが後に『柳井』に変化し、現在の市の名前の由来になったとされています。おしまい」
「美しい般若姫を襲う鬼とか敵は出ないの?」
「出ないわね、物語全てに悪役いる訳じゃないからね?」
「美しい姫が水飲んで柳の楊枝出したらすぐに大きくなりました、だけ?」
「だけよ?」
「だけかぁ……
そりゃ過疎るよなぁ〜」
「……まぁ、確かに盛り上がる物語だったら、地元を盛り上げるネタにできたかもね?」
「じゃあ、私たちで盛り上がる物語にしちゃえばいいんじゃない?」
「伝説を偽造する気?
そもそも、アンタの頭じゃロクな物語にならんでしょうに!」
「失礼な!いい?
柳井城の美しい美和姫が、悪しき竜王に連れさらわれるの!
それを助け出すのが、勇者ロトの血を引く勇者咲良!!」
「開始早々すでに柳井あるやんけ!
おまけに丸々ドラクエのパクリじゃないの!!
なんでロトだけ丸出しなんだよ!
ちょっとは隠せ!!」
「もちろん美和姫を助け出した後は、宿屋に泊まって、ゆうべはおたのしみ……ふぇふぃふぁふぇ……」
「やかましい!」
「ふぁにゃふぃふぇ〜」
ほっぺたを引っ張られて、ドラクエで一番のクライマックスシーンが言えなかった。
その後は、もちろん般若姫も大満足の清らかな井戸のお水のように、清く正しい心でお寺にお参りして。
「さぁ帰ろうか!」
「買い物に来たんでしょ!」
「そうでした!!」
さぁ、いよいよお買い物デートだ!!




