【12話】出会いと再会
翌日、あの子の無罪を勝ち取った私だったが、たぬき顔のあの子とはまだ話せてなかった。
まだ落ち込んでいるのだ、噂とかあだ名が原因ではなかったのかな?
まだあの子と話す勇気のない私は、昨日の一件で仲良くなった委員長に話を訊いてみた。
「北野さんどうも剣道部辞めるらしいの。
あの剣道大会の一件で、責任感じちゃってるみたいで……」
「ええ!? なんやて工藤!!」
「なんで突然コッテコテの大阪弁を!?
そんなに気になるなら、本人に直接訊いたら?
あなた、北野さんのこと好きなんでしょ?」
「……、ちょっ……、そ、そんなことないし……」
いきなり心を見透かされて、髪をいじりながら、しどろもどろに応えてしまった……
なんでバレたんだろ……?
分かりやすいツンデレを今しがた見た。と、言わんばかりに微笑む表情の委員長を残して、
そそくさと、私は他の人の証言を聞き取りに行った。
行った先は校長室。
3回ノックして、
「失礼します」
返事を待たずにさっさと入ると、とっとと要件を告げた。
「校長、剣道部顧問なら、あなた主催の剣道大会に参加した結果、
気落ちしている北野さんを、助けてあげてください!!」
校長は席に座って向こうを向いたまま、ラスボスっぽく言った。
「くっくっくっ……、よくわかったね?
私が、真の剣道部の顧問で、あの大会の影の支配者だと……
君は昨日転校してきたばかりじゃろう?
担任の西山先生に聞いたのかな?」
高そうな椅子をくるりと返して、こちらを向くと。
ずんぐりむっくりのハゲ頭。
北野さんと違って、悪い意味でたぬきに似ている校長が現れた。
「いや、あの日、剣道大会の日、校長めっちゃ仕切ってたじゃないですか?
本来の顧問の西山先生、困ってましたよ?
そもそも西山先生、剣道経験者じゃないですよね?」
そう、剣道部の顧問は、私達の担任の西山だったのだ。
剣道大会以来、北野さんの心のケアに頑張ってくれていた。
でも、西山が剣道未経験者だと言うのは歩き方ですぐ分かった。
一人だけがに股で、つま先が外に向いている歩き方だったからだ。
剣道大会の日には、周りが剣道経験者ばかりで、すり足気味に、真っ直ぐ足を出す歩き方の人だらけだったから、西山の歩き方は余計に目立ってた。
そして、剣道大会の日、あの事故があった時に、いの一番に、倒れた大人の部の優勝者に駆け寄ったのは、西山ではなく校長だった。
だから思ったんだ、西山は多分形式的な剣道部顧問で、実質的には校長が剣道部顧問だって。
そして、大人の部の参加者達を呼んだのも、校長だろうと予想していた。
「北野さんはあの日以来、ずっと落ち込んで、剣道も辞めるって聞いてます」
「うん、彼女の剣の才能を考えると、とても残念だけど……、無理強いするモノでも無いしね」
校長は、まじめに戻って応えてくれた。
「北野さんに何とか、元気になって欲しいんです」
「どうやって?」
「その相談がしたいんです。
北野さんについて、校長が知ってること、教えてもらえませんか?」
「断る……、と言ったら?」
私はスッとスマホを出して……
「校長室に無理やり連れ込まれて、変なことされたって通報します」
「君、それ、小学生のやり口じゃないよ!?」
私は、無言でスマホの画面に触れる……
「まぁ、意地悪せんと教えてあげるけどさ」
「ありがとうございます♪」
私は笑顔で、校長にお礼を言った。
校長は、北野さんの情報を進んで教えてくれました。
「北野くんは真面目でおとなしく、優しい子だが、頑固で融通の効かないところもある。
剣道の練習も、真面目にコツコツ取り組んでるよ。
今回の件で、闘争心も強いことが分かって、なお剣士向き。
特に良いのは、鍛えた足腰からなる重心コントロール、目の良さと、手首の柔らかさからなる、剣の切先のコントロール。
この二つは大人顔負けじゃ、特に切先のコントロールはまるで剣の先を、神経の通った自分の指のように扱う。まさに天才じゃよ。
学業の方は、勉強の出来は真ん中ぐらい、国語と社会が少し良いかな?」
「つまり理数系ダメなんですね?」
「ズバッと言うねぇ
まぁ、誰しも得意不得意あるからね!
どうかな? 参考になったかな?」
私は今聞いた情報を、少し考えてから。
「北野さんはコツコツと、まじめに取り組む頑固なタイプ……
ってことは、やり始めたことは、時間がかかっても、きっちり最後までやり遂げたい
そんなタイプの子なんじゃないですか?」
「うむ、確かにそうとも言えると思うよ?」
「例えば、やっつけちゃった大人の人とお話しする……、とかできませんか?
あの試合を、キチンと終わらせるために」
私の脳裏にはあの日の、呆然と立ったままの北野さんの姿が浮かんでいた。
あの試合、彼女の中ではまだ、区切りというか、キチンと終わっていないのではないのだろうか……?
「でも、それって、逆効果じゃない?
トラウマの相手が、目の前に来るんだから」
「いえ! 彼女なら大丈夫だと思います!」
「その根拠はあるのかな?」
私は、校長にスマホを見せて解説した!
私は熱弁した!!
あの子の、諦めない心を!
あの子の、積み重ねた修練の結晶たる、美しく伸びやかな突きを!!
あの子の、倍の背丈のある大人の男の人にも、挑みかかる勇気を!!!
スマホの中の動画を観せて、コマ送りで解説した!
なぜか校長は、委員長と同じ微笑みをたたえつつ言った。
「うむ、ここにキマシタワーを建てよう」
「?」
「ん! ゴホン!! ワシとしては、時間が解決するのを待つ方が良いと思うのだが……
君がついててあげれば大丈夫じゃろう。
それに、たまには若い子の熱意に絆されるのも、悪くないしのぅ」
笑って校長は引き受けてくれた。
笑うと『よいたぬき』に見える。
なんだか、化かされたような気分だった。
そしてその2日後の放課後、校長が色々と調整をしてくれて、
あの剣道大会のエキシビジョンマッチで、対戦した二人を合わせてくれた。
校長室に、あの日タンカで運ばれた大人の人……、松井というらしい。と、北野さん、そして校長。
そしてなぜか、私も呼ばれていた。
校長はいつもの椅子に、北野さんと松井は来客用の机とソファーのセットで向かい合わせに座っている。
松井は、いかにも武道が得意な警察官らしい、大柄で筋肉質な男で、頭は角刈り、
ネイビーのラガーシャツにベージュのチノパン姿。威圧感はなく穏やかな印象を受けた。
全員挨拶は済ませたのだが、話しの核心には触れずに、世間話が主に校長と松井の間で交わされていた。
「ところで、川岡くん、剣道大会の日の動画を二人に見せてあげてくれないか?君の解説付きでね!!」
「え? ヤです!」
「なんで!?」
「だって、恥ずかしいし……」
私はつい、モジモジと応えてしまう。
「初対面の校長に、あれだけ熱弁しといて!?」
「…………」
チラッと北野さんを見ると、ずっと俯いたままだった。
その様子を見守っていた松井が、真面目な顔で口を開いた。
「校長、ココにキマシタワーを建てましょう!」
「君にも分かるかね! 松井君!!」
二人はなぜか、がっちり握手をしている。
私はキモいなと思いました。




