【11話】スマホ動画拡散(オフライン)
夏休みが終わって、転校生として初めての登校日。
引っ越してきた直後は、二学期なんて永遠に来なければ良いのに、とすら思ってたのに、私はこの日が待ち遠しかった。
たぬき顔のあの子に逢えるから!
夏休みの間中、あの日の動画をスマホが擦り切れるくらい何度も観た。
あの子の、諦めない心を!
あの子の、積み重ねた修練の結晶たる、美しく伸びやかな突きを!!
あの子の、倍の背丈のある大人の男の人にも、挑みかかる勇気を!!!
もし、私があの子の立場だったら、諦めてるし、なんだったら不満タラタラで、文句言ってたと思う。
それを、一切の泣き言を言わずに挑み続け、そして千載一遇の勝機をつかみ、打ち勝った!
(あの勝負の勝敗は、エキシビジョンマッチだったことと、15歳以下の子供の試合では、突きが無効のため、決着つかず扱い。)
小さい子なので学年は違うだろうけど、この学校は生徒数の少なさから、学年間の垣根が低い。
全校生徒で、まとまって給食を食べたりしているので、あの子とお話しするチャンスはありそう!
絶対にお近づきになってみせる!!
だから、あの子が同じ学年のクラスメイトだった事は、嬉しい誤算だったんだけど……
『殺人犯』なんてあだ名で呼ばれていることには、さらにびっくりした!
夏休み明けの転校生は大変だ。
「ねぇねぇ、どこからきたの?」
「大阪ってどんな感じ? 都会?」
「大阪弁喋ってみて!!」
この学校では、転校生がとても珍しいのか、クラスメイトの女子が、めっちゃ群がってきた。
そして、ソワソワしながら遠巻きに、こちらをうかがう男子。
そんな中、たぬき顔の女の子は、自分の席に座ってしょんぼりしている。
今は話しに行きにくいなぁ……
そんな転校直後の騒々しさも、少し落ち着いた放課後、と言っても始業式だけなので、まだお昼前だが、クラス委員長が校内の案内をしてくれることになった。
学校内は放課後直後だからか、まっすぐ帰らない子でけっこう賑やかだった。
バス通学の子は、1時間に1本の、バスの待ち時間が結構あるしね。
そんな中、校内の案内してくれた工藤さんっていうクラス委員長の女の子から、詳しく話が訊いてみると。
なんでも、あの剣道大会の一件が『殺人犯』なんてあだ名の元になっていて、あの剣道大会会場で、私みたいに見学してた男の子発信で。
警察官がタンカで運ばれた→ 警察官を病院送りにした→警官殺しの殺人犯
夏休みの間に、一部男子の間でこのような流れで、尾びれ背びれが付きまくり……
結果『殺人犯』なんて物騒なあだ名になってしまったらしい。
「男子にも困ったものよね〜……、北野さん落ち込んじゃってるし、どうにかしてあげたいけど……」
と、困り顔の委員長。
ちなみに男子の間では、『あんなヤツ無視しようぜ!」って、感じではなく『あいつ……、やるなっ!!』みたいな、一目置かれる感じだったとかなんとか。
ダークヒーローかな?
「北野さん男子に人気あるのよね、ちっちゃくてかわいいのに、運動神経良くて足が速いから」
「そうでしょうとも! 私も鼻が高いです!!
あと、北野さんに色目使った男子はコロス!」
「なんで、あなたが自慢げなの?
それからヤメてね、このクラスから、二人目の殺人犯のウワサ出すのは……」
大きいニュースのない田舎での事件(というほどの大袈裟なものではないけど……)、悪ふざけが大好きな小学生男子の中で、大袈裟な話になっていたようだ。
「今回は、タンカで運ばれたのは事実だし……」
事実だから何だというのか!
私はカッとなって、委員長に向かって思わず言った。
「あの子が殺人犯なんてとんでもない! めっちゃカッコよくて強かったよ!!」
私は熱弁した!
あの子の、諦めない心を!
あの子の、積み重ねた修練の結晶たる、美しく伸びやかな突きを!!
あの子の、倍の背丈のある大人の男の人にも、挑みかかる勇気を!!!
スマホの中の動画を観せて、コマ送りで解説した!
委員長は若干引いたっ!!
そこに、「ねぇねぇなんの話?」と、別の女の子が加わってきたので……
私は熱弁した!
あの子の、諦めない心を!
あの子の、積み重ねた修練の結晶たる、美しく伸びやかな突きを!!
あの子の、倍の背丈のある大人の男の人にも、挑みかかる勇気を!!!
スマホの中の動画を観せて、コマ送りで解説した!
二人はめっちゃ引いたっっ!!
「ねぇねぇなんの話…」
以下、クラス中の女の子の間で共有されるまで繰り返した。
結果、無事に北野さんの冤罪は晴らされた。
今度の習字の時間は『無罪』って書こう。
持って走ろう!
噂の元ネタがの発生が、夏休みの間のことだったので、学校内に広がらず、クラスの一部男子の間でしか噂されてなかったことと、
始業式の初日に、転校生という事で注目されていた私の熱弁で、『殺人犯』の噂はあっさり消えた。
その代わり、後日『あの二人は怪しい……』という別の噂が立つのだが、それはまた別の話だ。
……、そして、なぜか殺人犯の噂が消えた後も、あの子の元気は戻らなかった。




