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推しと共に立てる誓い

「ねえキール、武道館公演に向けて準備はできているの?」


 自宅へ帰ると、あたしはキールへちょっとイタズラっぽく訊いてみる。


「そりゃそうだ。俺も一緒に武道館に立つぞ。ボイトレも絶好調だ」


 軽口を返すキール。交通事故の現場で出会った時とは比べ物にならないほど打ち解けてきた。


「新曲、楽しみだね」

「ああ、きっと俺が誰よりも完成を楽しみにしている」


 そう言って笑うキール。だけど、その顔にはどこか寂しさがあるように見えた。キールとしては新曲を自分の声で歌いたかったに違いない。


 あたしとは不思議なテレパシーみたいな会話でやり取りしているけど、その声はPAと呼ばれる音響機材を通してはどう頑張っても聞こえない。そこに寂しさを感じるのは当然な反応だろう。


「なあ、怜愛ちゃん。ちょっといいか?」

「……なに?」


 キールの声の調子に違和感を覚えたあたしは、何となく嫌な予感がした。


「これはあくまで俺の感覚なんだけどさ」

「うん」

「武道館のライブが終わって、未発表曲を届けたら、俺は多分いなくなると思うんだよね」


 そう言われた時、胸がさーっと寒くなった。


 なんとなく分かってはいたことだけど、それをキールの口から聴くと、どうしても身体的な反応が出てくる。


 そんなことないよと言ってあげたいところだけど、そもそもこうやってキールと会話をできているあたしの状態こそ異常なのだ。きっとその異常な状態には終わりが来る。それは本能的に分かっていたことだった。


「うん、分かったよ」


 正直なところは「やだー!!」ってギャーギャー騒ぎたいところだけど、そんなことをしてもキールを困らせるだけだ。あたしも覚悟を決めないといけない。


「あたしもキールの立ち姿、しっかりこの目に焼き付ける。だから、一人のファンとして本当に楽しみにしているね」


 自分で言っていて涙が出てくる。キールがその涙を拭おうとして、体をすり抜ける。キールは一瞬だけ悲しそうな顔をしてから口を開く。


「絶対に最高のライブにしてやるからな。しっかりと俺の生きざまを見ていてくれ」

「うん」


 こうして、あたし達はあたし達なりに武道館公演への誓いを立てた。

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