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決意表明

 会議室にレイス(あとキールも)と戻ると、待っていたヴェイル、ルクス、ノクスは驚いていた。あたしが泣きながら帰ってくる可能性が高いと思っていたのに、清々しい顔をしたレイスとともに笑顔で帰って来たからだ。まあ、直前に泣いていたのは分かる顔ではあったんだろうけど。


「ついさっき決めたんだが」


 レイスが口を開きはじめる。


「俺たちの武道館公演は、予定通りに決行する。もちろん、キールも一緒にだ」

「「「マジか」」」


 メンバー全員が同時に椅子から立ち上がって、思わず顔を見合わせて笑う。それも仕方のない話だ。キールを失ったクリエクは、武道館公演はおろか解散の危機にさえあったからだ。ついさっきまで広がっていた地獄のような光景を見れば、誰だって未来は絶望的にしか見えなかったはず。それが一瞬にしてひっくり返った。


 依然として、キールを失ったダメージは計り知れない。それこそ、バンドにとって致命傷以外の何物でもないように。


 だけど、そんな中でもレイスは覚悟を持ってステージに立つことを決めた。見た目は妖艶な女形バンドマンでも、中身は頑固な職人だ。そんなレイスがほんの少しの時間でここまで態度を変えたことが、特に付き合いの長いメンバーたちは信じられないようだった。


「最初にやることはな、キールの遺作となった曲を俺たちの曲に作り変える。あれは確かに名曲ではあるが、あくまで打ち込みの音で作った『サンプル』に過ぎない。それを超えていくために、俺たちが曲へ命を注ぎ込む」


 レイスが」決然とした口調で言う。


 レイスの言う通り、あたしとキールが作業したものは、あくまでパソコンで既存の音声を継ぎはぎしてから電子的な音声を乗せただけだ。「職人」のレイスからすれば、満足のいかないところも多々あるんだろうなとは思う。


 だけど、もし全力でクリエクが新曲を作ったらどうなるんだろう?


 不謹慎だけど、想像するだけでゾクゾクした。それは一ファンとして絶対に聴いてみたいと思う。


 それを知っているせいか、レイスはさらなる考えを披露する。


「新しい音源を作ったら、それを武道館の来場者全員へ配る。無料でだ」

「そりゃあ……すげえな」

「エモいだろ?」


 レイスがイタズラっぽく笑う。たしかにそれはとんでもないサプライズだ。そのために新曲をレコーディングし直すつもりらしい。


 キールの新曲はたしかにあたしとの共作ではあるものの、所詮は既製品の安い機材を使って作り上げたものに過ぎない。やはりクリエクの新曲という扱いになるとレコーディングというか、人間の出した音の方が遥かに良い音になるはず。そんな期待が湧いてきた。


「そしてだ」


 さらにレイスは続ける。


「キールには実際にステージに立ってもらう。もちろん、この新曲も歌ってもらう」


 それを言った瞬間、やはりメンバーたちの考えることは同じなんだなと思った。


 生身のキールはもちろんステージには立てないけど、映像や音声を使って歌を再現することはできる。少し前にこの会議室で話し合われたことを、レイスも構想として語りはじめた。


「いいか。何も亡くなったアーティストが一緒に舞台へ立つのはこれが初めてじゃない。キールのマイクスタンドはしっかり用意して、後ろでは映像を流す。もちろん金はかかるだろうが、今さら知ったことじゃない。俺たちにできる、最高のステージをファンへ届けるぞ」


 レイスがそう言うと、メンバー全員の目が輝いていた。


 このライブはきっと、ただキールがいないだけの公演にはならない。それよりも、遥かに重要な意味合いを持ったものになる。誰もがそう確信した瞬間だった。


 ふとキールを見ると、彼自身が張り切っていた。とてもじゃないけど、追悼される側の人間なんかじゃないように見えた。


 キールが亡くなってしまったのはとてもつらいことだけど、なんだか前へ進める気がした。

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