↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土魔法しか使えない俺の隠れ里に、捨てられた天才たちが集まりすぎている  作者: 雅龍(がりゅう)
第2部 学園一年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
60/62

第60話 決闘状

 修行会は、戻ってきた。


 しかも、前より大きくなって。


 空き教室の戸には、マギー先生の名前の札がかかった。「使用許可」。字がすごく雑だ。


 放課後になると、学友が勝手に集まってくる。


 ベルントは、今日も豆つぶの水の玉を指先に浮かべている。一回ずつ、ていねいに。俺のことを「先生」と呼ぶのは、何度言ってもやめない。


「先生、今日は五回できたよぉ」


「先生はやめろ」


「じゃあ、師匠?」


「もっとやめろ」


 ノエルは、図書塔から借りてきた体の本を読んでいる。ドミニクは、小魚の干物をかじりながら腕立て伏せをしている。


 クラウスは、毎朝、空気の重さを帳面につけはじめた。今のところ、三回中三回、天気を当てている。


 ミレイユの植木鉢は、三つに増えた。イリスは、いちばん後ろの席で、フードを少し上げて座っている。


 オリヴィアは、俺の手もとをのぞきこんで「それ、どうなってるの?」を一日に二十回は言う。


 セシリアは、相変わらず「監視」だ。いちばん前の席で、本を読むふりをしながら、指先でこっそり霜の花を咲かせている。俺が見ると、すぐに消す。


「……別に。手が冷えただけよ」


 窓の外の植えこみでは、リルが、セシリアのほうを見張っていた。耳が、ずっと後ろを向いている。


「ティオさま。あの人、また、つめたいにおい」


「霜の花のにおいだろ」


「……花じゃない。つめたいだけ」


 リルとセシリアは、目を合わせない。合わせないのに、ずっと相手のほうを向いている。器用な二人だ。


 一人だけ、いなかった。


 レオンだ。


「あいつは来ない。計算するまでもない」


 クラウスが、帳面から顔を上げずに言った。


「どうして」


「意地だ。ブラント家は騎士の家だそうだ。騎士の家の次男が、魔力最低の平民に頭を下げるとは思えない」


 俺は、窓の外の夕日を見た。演習場のほうから、ぼっ、ぼっと、聞き覚えのある音がしていた。


     * * *


 レオンは、演習場にいた。


 夕日の中で、一人で剣を振っていた。剣に火をまとわせて、打ちこみ台に叩きつける。何度も。何度も。


 台はもう、真っ黒にこげていた。


「レオン」


 俺が柵の外から声をかけると、レオンの剣が止まった。


「……なんだ、0.3」


「修行会、来ないのか。みんな来てるぞ」


「行かねえ」


 レオンは、背を向けたまま言った。


「ベルントが的のど真ん中を撃った。セシリアまで、最近、氷の形が変わった。みんな、お前の変な修行のおかげだって言ってる」


「言ってるだけだ。やったのは、あいつらだ」


「同じことだろ」


 レオンが、振り返った。


 汗まみれの顔だった。目が、怒っていた。いや、怒っているのとは、ちょっとちがう気がした。


「俺はな、0.3。親父みたいな騎士になるんだ。剣と火で、街を守れる騎士に」


 レオンの剣に、火がぼっとついた。本人は、つけたつもりがないみたいだった。


「その俺が、魔力0.3に習うことはない!」


 声が、演習場に響いた。


 四月の実技で、俺はレオンの火を一度も受けなかった。流して、足を止めて、時間切れにしただけだ。判定はレオンの勝ちだった。


 でも、レオンは、たぶん、勝ったと思っていない。


「……そうか」


 俺は、柵から離れかけて、足を止めた。


「レオン。お前の火、まだ剣の振り下ろしの半拍あとに来てるぞ」


「……は?」


「四月から変わってない。だから流せたんだ」


 レオンの顔が、真っ赤になった。剣の火が、ごうっと大きくなった。


「うるせえ! 帰れ、0.3!」


 俺は、帰った。


(言わなきゃよかった。……いや、言ってよかったのか?)


 寮へ戻る道で、さっきのレオンの言葉を思い出していた。


 親父みたいな騎士に。


 あいつの「親父」がどんな人かは知らない。でも、あの火の音は、毎日聞いている。朝も、夕方も、演習場から。


 魔力の量は、俺の何十倍もある。それでも毎日、こげるまで台を叩いている。


 悔しいけど、かっこいいと思った。口が裂けても言わないけど。


 背中のほうから、また、ぼっ、ぼっと火の音が聞こえてきた。レオンが、剣を振りはじめたのだ。


     * * *


 その夜。


 男子寮の三階の廊下は、もう乾いていた。床板に、うっすら水のしみが残っているだけだ。


 隣のベルントの部屋からは、大きないびきが聞こえていた。今夜のは、ただのいびきだ。水の音はしない。


 自分の部屋の前で、俺は足を止めた。


 戸に、何かが刺さっていた。


 食堂のフォークだった。


 フォークが、一枚の紙を、戸の板に縫いとめている。かなりの力で刺したらしく、先が半分まで木にめりこんでいた。


 俺は、フォークを引き抜いて、紙を広げた。


 廊下のランプの明かりで、字を読む。


 でかい字だった。下手な字だった。紙からはみ出しそうなくらい、力いっぱい書いてある。


 『勝負だ』


 それだけ。


 名前は、どこにも書いていない。


 俺は、紙を持ったまま、しばらく廊下に立っていた。


 ランプの火が、じじ、と鳴った。


 ふと、紙を鼻に近づけてみた。俺の鼻も、ちょっとはきく。


 インクのにおい。食堂のフォークの、油のにおい。


 それから、もう一つ。


 こげくさい。


 名前は、書いていなくても分かる。


 紙のはしが、ちょっとだけ焦げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。