↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土魔法しか使えない俺の隠れ里に、捨てられた天才たちが集まりすぎている  作者: 雅龍(がりゅう)
第2部 学園一年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
49/71

第49話 四人まとめて

 四人は、通路の真ん中まで入ってきたところで、足を止めた。


 ブルーノが、先頭でにやりと笑った。


「よう、黙り岩。今日は、ずいぶん持ってるじゃねえか」


 ほかの三人も、にやにやしている。前に「けが人」だった男は、今日はぴんぴんした足で立っていた。いちばん後ろの細い男は、短い弓を持っている。


「この前の傷薬、よく効いたぜ。礼に、今日の袋も預かってやるよ」


「足、もう治ったんだ。黙り岩の薬のおかげでな」


 けが人だった男が、自分の太ももをぱんと叩いて、げらげら笑った。


 ブルーノが、腰のナイフを抜いた。


 リルが、低くうなった。


「ふくろ、かえして」


「は? なんのことだか」


 ブルーノは、肩をすくめた。


「ちびの仮面に、ちびの奴隷。ここは行き止まりだ。痛い目にあいたくなきゃ、さっさと袋を――」


 とんとん。


 俺は、つま先で地面を二回叩いた。


「深淵の流砂(アビス・サンド)」


 声には出さない。口の中だけだ。


 朝のうちに、中までふかふかにしておいた床だ。最後のひと押しだけでよかった。土の粒をつないでいた力を、ふっとほどく。


 床が、砂になった。


 四人の足が、ずぶりと沈んだ。


「うおっ!?」


 ひざ。もも。腰。


 前の三人は、あっという間に腰まで砂に埋まった。


 でも、いちばん後ろの細い男は、通路の入口ぎわにいた。沈んだのは、ひざまでだった。男は、あわてて弓を構えた。


「リル!」


「うん!」


 リルが、壁をけって跳んだ。


 せまい通路の左の壁、右の壁。砂に沈んだ三人の頭の上を、跳ねるように飛びこえていく。


 弓の男が、矢をつがえる前に。


 リルのひざが、男のあごに入った。


 男は弓を落として、ひざまで砂に埋まったまま、後ろにひっくり返った。


 残りの三人は、砂の中でもがいていた。


「くそっ、抜けねえ!」


「なんだこれ、魔法か!?」


「詠唱なんて、聞こえなかったぞ!」


 けが人だった男が、砂に埋まったまま腕を振りかぶった。手には、小さな投げナイフ。


 ナイフが、俺の仮面めがけて飛んできた。


 とっさに、つま先で床を叩く。目の前の床から、手のひらほどの土の板が跳ね上がった。


 かつん。


 ナイフは土の板に刺さって、止まった。


 板を崩すと、ナイフはぽとりと床に落ちた。小技だ。燃料は、まだ大技二回ぶん残っている。


(危なかった。今のは、本気で危なかった)


 心臓が、どくどくと鳴っていた。仮面の下で、冷や汗が一筋流れた。


 三人は、まだもがいていた。もがけばもがくほど、砂は動いて、足をくわえこんでいく。


 ブルーノが、ナイフで砂をかきながら、俺のほうへ腕をのばした。


 とんとん。


「大地の鎖(アース・バインド)」


 ――要するに、砂の下で、あいつらの足首に土を巻きつけた。


 これで、二回目の大技だ。四人ぶんの足首を一度に巻くのは、小技ではすまなかった。


 砂の中で、四人の足が、ぴたりと止まった。


 もう、もがくこともできない。


 リルが戻ってきた。


 一人ずつ、前に立つ。


 まずは、けが人のふりをした男。リルは、その男の顔をじっと見て、においをかいだ。


「……このにおい。うそつきのにおい」


「ひっ、ま、待て、嬢ちゃん――」


 ごん、と額に拳。男は白目をむいた。


 次の男も、その次の男も、同じように静かになった。


 最後に、ブルーノが残った。


 ブルーノの額に、汗が浮かんでいた。


「ま、待て。待ってくれ。悪かった。返す。袋は返すから」


 ブルーノは、腰のあたりの砂をかいて、小袋を引っぱり出した。


 ひもの切れた、俺の小袋だった。


 リルが、それを受け取った。


 中をのぞいて、においをかいで、こくりとうなずく。


「ぜんぶ、ある」


「なっ? 返したろ? な? だから――」


 ブルーノが、俺を見上げた。


 俺は、黙っていた。


 仮面の奥から、ただ、ブルーノを見下ろしていた。


 しゃべらないのは、ノワールだからだ。


 でも、今は、それだけでもなかった。


 言いたいことが、多すぎた。だから、何も言わなかった。


 ブルーノの顔から、すうっと血の気が引いた。


「……な、何とか言えよ……」


 リルの拳が、ブルーノのあごを打った。


 ブルーノは、静かになった。


 通路が、しんと静まった。


 リルが、ふうっと息を吐いて、俺のほうを振り向いた。フードの奥の目が、まだ少し光っている。


「あるじ。みんな、いきてる」


「ああ。それでいい」


 俺は、砂に埋まった四人を見下ろした。


 殺そうと思えば、たぶんできた。流砂をもっと深くすれば、それで終わりだった。


 でも、それをやったら、俺はこいつらと同じ側に立つことになる。袋を盗むのと、命を盗むのは、きっと同じ道の上にある。


     * * *


 砂をほどいて、四人を引っぱり出すのに、しばらくかかった。


 大技は、あと一回残っている。でも、これは使わない。


 かわりに、腰の袋の土で、細い縄をなう。小技をくり返して、四人の手首を一本の土の縄でつないでいく。


 縄の端を、俺とリルで持った。


「せーの」


 引っぱる。


 重い。


 大人四人だ。重いに決まっている。


 ずる、ずる、と、気を失った男たちが、苔の床をすべっていく。


 十歩で、俺の腕がぷるぷるしてきた。


 リルが、俺の手から縄を取った。


「わたしが、引く」


「いや、俺も」


「あるじは、うしろ、見てて」


 リルは縄を肩にかけて、ぐいっと前に出た。四人の大人が、ずるずるとついていく。


 ……俺より、リルのほうが、ずっと力持ちだ。


 俺は、仮面の下で情けない顔をしながら、その後ろを歩いた。


 二層の階段を上り、一層の回廊を抜けて、地上の光の中へ。


 入口の前にいた冒険者たちが、ぎょっとして道を開けた。


 縄でつながれた大人四人を、小柄な仮面と獣人の少女が、引きずって出てきたのだから。


お読みいただき、本当にありがとうございます!


もし少しでも「面白い」「続きが気になる」と思っていただけましたら、

画面下にある【☆☆☆☆☆】をタップして評価していただけると、執筆の大きな励みになります!

(「面白かった!」と思っていただけたら、★を増やして応援していただけると嬉しいです!)


ブックマーク登録もぜひよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。