↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土魔法しか使えない俺の隠れ里に、捨てられた天才たちが集まりすぎている  作者: 雅龍(がりゅう)
第2部 学園一年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
39/66

第39話 流砂と熱血

 レオンが、ふうっと肩で息をした。


 大きな火を出したあとの、ひと息だ。


 それから、にやりと笑った。


「……割れたな」


 レオンは、剣を構え直した。


 今度は、右足を、ぐっとうしろに引いた。


「火が流されるなら、壁ごとぶった切る!」


 ふみこむ気だ。


 始めの一歩。右足で、大きく。


 毎回、同じ場所に。


 砂時計の砂は、まだ半分残っている。


 右足が、砂を蹴った。


 一歩目が、落ちてくる。


 あの場所に。


 俺は、つま先で二回、地面を叩いた。


「――深淵の流砂(アビス・サンド)!」


 要するに、足もとの砂をゆるくしただけだ。


 その右足が、ずぶりと沈んだ。


「なっ――」


 左足も、つられて前に出る。そこも、ゆるい。ずぶ、ずぶ、と、レオンは膝まで砂に沈んだ。


 走ってきた勢いのまま、上半身だけが前につんのめる。剣の火が、空に向かってめちゃくちゃに飛んだ。


     * * *


 種を明かすと、こうだ。


 三晩かけて、あの場所の砂を、毎晩ほぐしておいた。砂つぶ一つずつ、すき間を作って、重みがかかったら崩れるように。魔力は、ほとんど使っていない。時間をかけただけだ。


 だから、今日の流砂は、大技一つぶんですんだ。


 前もって掘っておく落とし穴と同じだ。


 膝まで砂に埋まったまま、レオンは剣を振り回した。


「くそっ、抜けねえ!」


 火が、四方に飛ぶ。


 俺は、ひびの入った壁のうしろに回りこんだ。火が来るたびに、壁のかげに入る。壁は、火を受けるたびにひびが増えていった。


 三度目の火で、壁が崩れた。


 土の山が、どさりと砂に戻る。


 俺は、もう一歩うしろに下がった。レオンの剣が届かない場所へ。


 燃料は、あと一回。


 使えば、もう一枚、壁が立つ。でも、それで終わりだ。四回目はない。みんなの前で、倒れるわけにはいかない。


 だから、使わない。


 逃げる。ひたすら、火の届かないところへ。


「逃げるな、0.3!」


「逃げるのも、技だ」


「かっこつけんな!」


 剣が、低く横に振られた。地面すれすれを、火が走ってくる。


 俺は、跳んだ。


 足の下を、熱い風が抜けていく。着地した砂が、じゅっと鳴った。


 柵の外が、わっとわいた。


「跳んだ!」


「0.3が跳んだ!」


 跳んだだけで、なぜかわく。魔力0.3は、跳ぶのも珍しいと思われているらしい。


 オリヴィアが、柵から身を乗り出していた。


「ねえ、今の、どうなってるの? なんで火が来るって分かったの?」


 分かったのは、リルの尻尾のおかげだ。言えないけど。


 クラウスは、砂時計と俺を見比べていた。


「……砂の残り、あと三十呼吸」


 声に出して数えるな。プレッシャーだ。


 セシリアは、何も言わなかった。柵をつかんだ手のまわりだけ、白く霜が広がっていた。


 レオンが、砂から片足を引き抜いた。すごい力だ。でも、もう片方の足が、もっと深く沈んだ。


 柵の外で、ドミニクが笑っていた。


「がはは! レオン、沼にはまった牛みてえだ!」


「うるせえ!」


 砂時計の砂が、細くなっていく。


 レオンが、両手で剣を握りしめた。剣の火が、ぐんと大きくなる。顔が、汗でびっしょりだ。


 最後の一発が来る。


「くらえ! えーと……」


 レオンが、叫びかけて止まった。


「……燃える、すごい斬り!」


 技の名前だった。たぶん、今考えた。


(三十点)


 セシリアの声が、頭の中で勝手に採点した。


 でも、名前をつけたくなる気持ちは、よく分かる。


 尻尾が、立った。


 俺は、地面に伏せた。


 頭の上を、炎が通りすぎた。背中が、かっと熱くなる。


 炎は、そのまま柵の手前で消えた。


 顔を上げると、砂時計の砂が、ちょうど落ちきるところだった。


     * * *


「はーい、そこまでー」


 先生の声が、演習場に響いた。


 俺は、砂の上に座りこんだ。足が、がくがくしていた。燃料は一回ぶん残っているのに、体のほうが限界だった。


 先生は、酒瓶を片手に、立ち上がりもせずに言った。


「判定、レオンー。出力の差ね」


 当然だ。


 俺は、一度も攻撃していない。点を取れるわけがない。


 落第がかかっているのに、ふしぎと胸は落ち着いていた。


 理由を見せられたかどうかは、先生にしか分からない。


 俺は、柵の外を見た。灰色の耳が、まっすぐこっちを向いていた。


 柵のまわりは、ざわざわしていた。


「……0.3、一回も当たってないぞ」


「ずっと、立ってた。最後まで」


「レオンの火を、全部……」


 ドミニクが、柵をこえて入ってきた。レオンの両わきに手を入れて、砂から引っこ抜く。大根みたいに、すぽんと抜けた。


 その手を、レオンはふりほどいた。


 膝から下が、砂で真っ白だった。靴の中まで砂だらけらしく、一歩ごとに、じゃりっと鳴る。


 砂まみれの足で、まっすぐ俺のところへ歩いてくる。


 見下ろされた。


 顔が真っ赤だ。怒っている。


 でも、怒っているだけの顔とは、何かが違った。


「おい」


「……なんだ」


「なんでだ。魔力最低が、なんで俺の火を流せる!」


「流れたかったんだろ」


「ふざけんな! 納得いかねえ! もう一回だ!」


 剣に、また火がついた。勝手についたみたいだった。


 柵の外で、灰色の尻尾が、ばたばたばたっと揺れていた。


 先生が、あくびをした。


「はーい、終わりー」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。