↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土魔法しか使えない俺の隠れ里に、捨てられた天才たちが集まりすぎている  作者: 雅龍(がりゅう)
第2部 学園一年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
35/77

第35話 落第ー、と先生は言った

 入学して二週間で、小試験が五つあった。


 魔力の巡らせ方。詠唱。属性の基礎。魔物学。王国史。


 俺は、全部で最下位を取った。


     * * *


 言いわけをさせてほしい。


 まず、魔力の巡らせ方。体の中で魔力をぐるぐる回して、その速さを測る試験だ。


 これは、わざとゆっくり回した。本気でやると、速すぎて測る道具が変な音を立てる。入学試験で、砂鉄盤を一枚割っている。二枚目はまずい。


 次に、詠唱。


 これは、本当にできなかった。補助輪をつけると転ぶ。前の授業で分かっていたことだ。


 属性の基礎。土の玉を、どれだけ大きく作れるか。


 これも、わざと小さくした。豆つぶくらいの、真ん丸の玉を出した。先生が「……ふーん」と言って、点を書いた。


 王国史。


 これは、本当に知らなかった。貧民街に、歴史の本はない。初代の王様の名前を書けと言われて、「王様」と書いた。


 そして、魔物学。


 これが、いちばんまずかった。


 問題を見たとき、全部分かった。森狼は群れの頭を落とせば散る。角ウサギは巣穴の出口が二つある。黒樹海のふちで、何年も見てきたことだ。


 でも、手が止まった。


 貧民街の孤児が、どうして森狼の群れの崩し方を知っている?


 怪しまれる。いや、絶対に怪しまれる。


 俺は、全部の答えを、ちょっとずつずらして書いた。


 結果、最下位だった。


(隠しすぎた)


 分かっている。分かっているのだ。


     * * *


 成績は、寮の掲示板にはり出された。


 どの列も、俺の名前のすぐ上に、ベルントの名前が並んでいる。


「ぼく、下から二番目なんだよぉ」


 ベルントは、掲示板の前で焼き菓子をかじっていた。


「ティオがいてくれて、よかったぁ」


「……喜ぶところか、それ」


「だって、一番下だったら、落第なんだよぉ。知らないの?」


 知らなかった。


 背中に、冷たい汗がつうっと流れた。


「おい、0.3」


 うしろから、大きな声がした。レオンだ。掲示板を見上げて、鼻で笑っている。


「全部、一番下か。Sの面汚しだな」


「……そうだな」


「そうだな、じゃねえ! 悔しくないのか!」


 悔しい。


 悔しいけど、半分はわざとだ。そうは言えない。


 俺が黙っていると、レオンは顔を赤くして、どすどす去っていった。


「レオンくん、怒ってたねぇ」


「怒られる理由が、よく分からん」


「たぶん、ティオがやる気なさそうに見えるからだよぉ」


 ベルントは、のんびり言って、焼き菓子をもうひとつかじった。


 その日の放課後、先生の部屋に呼ばれた。


     * * *


 教官棟の二階の、いちばん奥。扉を開けると、酒のにおいがむわっと来た。


 棚に、酒瓶がずらりと並んでいた。本より多い。机の上にも、一本。


「座ってー」


 先生は、机の上に紙を一枚置いた。


 成績表だった。どの列も、いちばん下に同じ名前があった。


 ティオ。ティオ。ティオ。ティオ。ティオ。


 五回並ぶと、なんだか知らない人の名前みたいに見えた。


「0.3」


「……はい」


「落第ー」


 酒瓶のふたが、ぽんと開いた。


「え」


「Sクラスはね、成績が一番下のまま一学期を終えると、下のクラスに落ちるの。決まりなのよー」


「まだ、二週間ですけど」


「二週間で、五回連続最下位。新記録よ。おめでとー」


 ちっともめでたくない。


 先生は、成績表の一か所を指で叩いた。


「王国史。王様って書いたの、お前だけよ」


「……知らなかったので」


「で、こっち。魔物学」


 指が、横にずれた。


「答えが、全部ちょっとずつずれてる。おかしいわよねー。ずらすってことは、正解を知ってるってことでしょ」


 息が止まった。


 先生は、じっと俺を見ていた。眠そうな目だった。なのに、奥のほうだけ、ぱっちり起きている。


「……勘です」


「ふーん」


 先生は、それ以上聞かなかった。酒をひとくち飲んだ。


「で。お前が落ちたら、困るのは私なの」


「先生が?」


「お前をSに入れたのは、私が勝手に決めたこと。お前が落ちたら、私の目が節穴だったことになる。説明しなきゃいけない。書類も書かなきゃいけない」


 心の底からいやそうな顔だった。


「めんどくさい」


     * * *


「だから、条件」


 先生は、指を一本立てた。


「月末に、実技評価がある。一対一の模擬戦ね。砂時計ひと回りぶん。そこで、結果を出しなさい」


「結果って」


「勝てとは言わないわよー。でも、お前がSにいる理由くらいは、見せなさい。見せられなかったら、落第ー」


 俺は、膝の上で拳をにぎった。


 リストの十八番。やっと叶ったところなのに。


「先生。もし、俺が……その、目立ちたくない、って言ったら」


 先生の目が、ちらっとこっちを見た。


 何もかも見透かされそうだった。俺は、思わず目をそらした。


「隠すのは、勝手よー」


 先生は、窓の外を見た。


「でも、隠したまま落ちたら、それはただの落第生。かっこいい隠し方じゃないわね」


 胸に、ぐさっと来た。


 かっこ悪い隠し方。


 それは、困る。


 影の強者は、影にいても、ちゃんと強いから影の強者なのだ。隠したまま負けて消えるのは、ただの影の薄い奴だ。


「……わかりました。やります」


「はーい。じゃ、相手を発表ー」


 名簿が、ぱらぱらとめくられた。


 どうでもよさそうに、先生の指がひとつの名前を叩く。


 なんとなく、嫌な予感がした。


「相手は、レオン・ブラントねー」


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◆ 公式X(旧Twitter)開設しました!

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

X(@garyu_novel)にて、登場キャラクターたちの設定画や、作中のシーンビジュアルを順次公開しております。


「リルやティオがどんな姿なのか気になる!」という方は、ぜひ覗いてみてください!

フォローや感想なども大歓迎です。


▼ 雅龍 公式X

https://x.com/garyu_novel

(※ビジュアル画像はAI生成ツールを活用して制作・管理しております)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。