↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土魔法しか使えない俺の隠れ里に、捨てられた天才たちが集まりすぎている  作者: 雅龍(がりゅう)
第2部 学園一年

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
31/61

第31話 十二の間の空席

 制服は、つぎはぎだった。


 古着屋で、いちばん安いのを買った。ひじに穴があったので、リルが夜なべして布を当ててくれた。当てた布だけ色が濃い。遠くから見ると、ひじに目玉がついているみたいだ。


「ティオさま。えりが、曲がって、います」


 リルが、少しかがんで俺の襟を直した。


 リルも新しい服を着ている。襟の高い、灰色の従者服だ。首輪は、襟の下に隠れている。灰色の耳だけが、ぴんと立っていた。


「……さまは、やめろって」


「人前、です」


 まだ人前じゃない。寮の玄関だ。でもリルは、もう背筋を伸ばしていた。


     * * *


 王立アルディア魔導学園の入学式は、前庭で行われた。


 正面に、白い石の本館がそびえている。そのてっぺんに時計塔。春の空に、針がきらきら光っていた。


 新入生は、クラスごとに並ぶ。従者たちは、前庭のいちばん後ろだ。振り返ると、大人の従者たちの列のすみっこに、灰色の耳が一組だけ見えた。


 校長の話は長かった。


(校長の話が長いのは、どこの世界でも同じか)


 俺は、時計塔を見上げていた。


 前の世界で、何百回も読んだ場面だ。魔法学園の入学式。貧しい主人公が、つぎはぎの服で並んでいる。周りは貴族の子ばかり。誰も、主人公の本当の力を知らない。


 今の俺だ。


 口のはしが上がりそうになって、あわてて引きしめた。


 リストの十八番。「学園で実力を隠す」。


 ついに、この日が来た。


 入学試験で聞いた、酒くさい女の先生の声を思い出す。


 ――一粒ずつ?


 あれは、ちょっと危なかった。


 これからは、気をつける。目立たない。笑われても気にしない。ふつうの、魔力の少ない平民でいる。


 前庭に、鐘の音が響いた。


     * * *


 Sクラスの教室は、時計塔のすぐ下にあった。


 本館の最上階、東の端。扉の上の札には「十二の間」と書いてある。


 扉を開けて、俺は息をのんだ。


 丸い部屋だった。真ん中に、大きな丸い机がひとつ。そのまわりに、椅子が十二。窓の外には、王都の屋根がどこまでも続いている。


(円卓だ)


 円卓の騎士だ。いや、魔導士だから円卓の魔導士か。どっちでもいい。かっこいい。


 問題は、どこに座るかだ。


 丸い机には、えらい人の席も、下っぱの席もない。でも、俺にはこだわりがある。壁を背にして、扉が見える席。誰が入ってきても、先に気づける場所。


 つまり、影の強者の席だ。


 俺はそこに座った。扉のすぐ横の、窓から遠い席。となりの二つは、空いていた。


 あとから入ってきた眼鏡の少年が、本から目を上げた。俺の席と、扉と、窓を、順番に見る。


「その席を選んだ理由は?」


「扉が見える」


「……なるほど。論理的ではあるな」


 少年は、それだけ言って、窓ぎわの席に座った。また本を開く。


 初めて、誰かに分かってもらえた気がした。たぶん、ぜんぜん違う意味で。


 学友が、一人ずつ入ってきた。


 大きな体の少年が、がははと笑いながら入ってくる。続いて、焼き菓子の袋をかかえた、ぽっちゃりした少年。入学試験で、魔量計の光を柱のてっぺん近くまで伸ばした奴だ。


 次に入ってきた少女を見て、背中がひやりとした。銀色の髪。冷たい青い目。試験で首席だった令嬢だ。通ったあとの空気が、なんだか寒い。


 赤い髪の少年が、扉を蹴るように開けた。鉢植えをかかえた、ふわふわした髪の少女。にこにこ笑っている、やわらかい雰囲気の少女。


 最後に、明るい目の少女がひょいと顔を出した。


「わっ、丸い机! これ、どうなってるの?」


 誰かが小声で言った。


「……王女さまだ」


 教室のすみには、フードを深くかぶった少女が、いつの間にか座っていた。誰とも目を合わせない。


 十二の椅子に、座っているのは十人。


 空いているのは、俺の左どなりから二つだけだった。


「なあ、ここ、誰か来るのか?」


 大きな体の少年が、俺のとなりの空席をのぞきこんだ。


「知らない。俺も、今来たところだ」


「そっか! がはは」


 何がおかしいのかは、分からなかった。


 にこにこした少女が、俺のひじをのぞきこんだ。


「その服、ひじのところ、目があるみたい。かわいいね、えへへ」


「……どうも」


 かわいいと言われたのは、たぶん人生で初めてだ。ひじが。


     * * *


 鐘が鳴って、しばらくしてから。


 扉が、だるそうに開いた。


 入ってきたのは、あの女の人だった。今日も、ほんのり酒のにおいがする。


「はーい、静かにー」


 まだ誰もしゃべっていなかった。


「担任のマグダレーナ。先生でいいわよー。名前、長いから」


 先生は、丸い机の上にどさっと名簿を置いた。


「先に言っとくわね。空いてる席のこと。一つは、秋から来る留学生の席。手続きが遅れてるんだって。めんどくさいわよねー」


「もう一つは?」


 眼鏡の少年が聞いた。


「ずっと空いてる。気にしなくていいわよー」


 先生は、それ以上言わなかった。


 俺は、となりの空席を見た。


 ずっと空いている席。誰も座らない椅子。


(……設定として、最高だ)


 どんな秘密があるんだろう。昔ここに座っていた天才が、行方不明になったとか。呪われた席だとか。


 想像していたら、先生と目が合った。


 先生の目が、すっと細くなった。


「はーい、静かにー。……で、そこの0.3」


 教室の全員が、俺のほうを振り向いた。


学園での生活が始まりました。次回は10月6日7時に公開します。以降は7時・12時・15時・18時・20時に1話ずつ更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。