↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土魔法しか使えない俺の隠れ里に、捨てられた天才たちが集まりすぎている  作者: 雅龍(がりゅう)
第1部 幼少編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
27/61

第27話 せがれも受ける

 冬が終わって、春が来て、俺は十一歳になった。


 闇の日ごとに、森のふちへ通う日々は続いていた。熱冷まし草。角ウサギ。たまに森狼。Eランクになってから、受けられる依頼も増えた。


 仮面には、細いひびが三本入った。そのたびに、粘土を足して直した。外套のすそは、もう縛らなくても地面につかない。


(伸びる予定は、ちゃんと予定どおりだった)


 ただ、リルのほうが伸びるのが速い。それは今は考えないことにしている。


     * * *


 七月の、ある夕方だった。


 森から戻ると、俺は東門の手前で仮面を外す。外套を裏返して、ただの灰色のぼろにする。リルはフードをかぶったまま。そうすれば、どぶ坂の孤児と、その連れの獣人の子に戻る。


 その日、東門をくぐったところで、大きな背中が目に入った。


 守備隊の詰所のわき。見張り塔の影になったところに、古い石碑が一本立っている。


 その前に、ブラント隊長が立っていた。


 俺は、どうしようか迷った。隊長とは、ギルドで「あの坊主は大丈夫だ」と言われて以来、ちゃんと話していない。会えば、なんとなく目をそらしてしまう。


 隊長のほうが、先にこっちを向いた。


「坊主か」


「……こんばんは」


「腹は減ってないか」


「減ってない、です」


 隊長は、ひげをなでた。いつもの、「やっぱり、減ってないと言った」という顔だ。


 リルが、俺の背中をつついた。


「わたし、先に帰ってる」


 気をつかったのか、ただ腹が減ったのか。たぶん後ろのほうだ。


     * * *


 俺は、隊長のとなりに立って、石碑を見上げた。


 表には、たくさんの名前が彫ってある。どれも、雨と風で角が丸くなっていた。


 六歳の夏に、東門の大きな石碑の前で、隊長から聞いた大暴走。俺が生まれる前の話だ。これは、その守備隊のぶんの碑だ。ここには、そのとき死んだ守備隊の人たちの名前だけが並んでいる。


 隊長は、しばらく黙って名前を見ていた。


 それから、低い声で言った。


「坊主。王都の学園を知ってるか」


「学園?」


「王立アルディア魔導学園。魔法を学ぶところだ。国中から、魔法の才のある子が集まる」


 魔法学園。


 その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かがはじけた。


 ラノベで、何十回も読んだ。転生した主人公が、魔法学園に入る。入学試験で、とんでもない結果を出して、教師たちが青ざめる。


 ――いや、待て。


 俺は、お茶わん一杯の魔力だ。


「でも、ああいうところって、貴族の子が行くんじゃ」


「平民の特待枠がある。試験に受かれば、学費も寮の金もいらん」


「ただ、ですか」


「ただだ」


 隊長は、うなずいた。


「受けられるのは、十二になった子だ。冬の二月に王都で試験。受かれば、春から四年」


 俺は、頭の中で指を折った。


 今は、十一歳の七月。十二になるのは、来年の五月。その次の二月が、試験。


「……再来年、ですね」


「そうなる」


 隊長は、石碑から目を離さずに言った。


「うちのせがれも、その年に受ける」


「せがれ……息子さん、いたんですか」


「ああ」


 それだけだった。名前も、どんな子かも言わない。隊長は、言う必要のないことは言わない人だ。


     * * *


 俺の頭の中で、ノートのページがぱらぱらとめくれた。


『十八、学園で実力を隠す』


 魔法学園に入る。でも、本当の力は見せない。授業では、平凡なふりをする。そして夜は、仮面をつけて――。


(最高じゃないか)


 ただの特待生として入学して、裏では謎の冒険者ノワール。まさに、影の強者の生き方だ。


 でも。


 俺は、もう一つのことを思い出した。


「隊長。学園って、従者を連れて行けますか」


 隊長は、こっちを見た。


「獣人の子か」


「……はい。リルは、置いていけないので」


 隊長は、ひげをなでた。


「従者の部屋は、別の金がいる。特待でもな。それと、王都までの馬車代だ」


「いくら、ですか」


 隊長が言った金額を聞いて、俺は目を閉じた。


 今の貯金では、ぜんぜん足りない。部屋代だけで、今の貯金の何倍もする。


 前の世界の言葉で言えば、「授業料無料! ※寮費・同伴者の費用は別途」みたいなものだ。だいたい、小さい字のほうが高い。


(あと一年半。闇の日だけで、足りるか?)


 足りないかもしれない。


 でも、置いていく、という答えだけは、最初から頭になかった。


 隊長は、しばらく俺の顔を見ていた。


 それから、石碑のほうへ向き直って、ぽつりと言った。


「受けるなら、試験は再来年の二月だ。……それまでに、腹をこわすなよ」


 それは、たぶん「がんばれ」という意味だった。


     * * *


 廃屋に帰ると、リルが入口のところで待っていた。手に、ふかした芋を二つ持っている。


「おかえり。ネロが、ティオのぶんって」


「ありがとう」


 芋を受け取って、俺は廃屋の前の段にすわった。リルも、となりに座った。


 夏の夕方の空が、西のほうだけ赤い。西の街道の、ずっと先。王都のある方角だ。


「リル」


「うん」


「俺、王都に行く」


 リルの耳が、ぴんと立った。


「いつ?」


「再来年の、冬」


「……ずいぶん、先」


「準備が、いろいろあるんだ。金とか」


 リルは、芋をひと口かじった。もぐもぐと、ゆっくりかんで、飲みこんだ。


 それから、西の空を見ながら、ぽつりと言った。


「わたしも、行く。……王都って、どんなにおい?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。