↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
土魔法しか使えない俺の隠れ里に、捨てられた天才たちが集まりすぎている  作者: 雅龍(がりゅう)
第1部 幼少編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/71

第19話 においの道

◆リル視点


 ティオは、土と、雨と、小さな火のにおいがする。


 リルは、そのにおいが好き。


 はじめてかいだのは、ごみの山の上だった。熱くて、苦しくて、目もあけられなかった。でも、そのにおいだけは、わかった。


 土と、雨と、小さな火。


 檻の中には、なかったにおい。


 檻の中は、鉄と、さびと、泣いた子のにおいしかしなかった。夜はさむくて、だれもリルの名前を呼ばなかった。リルには、名前がなかったから。


 今は、ある。


 リル。ティオがくれた。


 だから、リルは、ティオについていく。


     * * *


 床がぬけた日の夜。


 ティオは、ねなかった。


 みんなが壁のそばで、ぬれた毛布にくるまってねたあと。ひとりで、穴の中におりていった。


 泥に、手をついた。


 においが、かわった。小さな火が、じっと、強くなるにおい。泣いてるにおいとは、ちがう。何かを、決めたにおい。


 リルも、穴におりた。


「リルは、ねてろ」


「やだ」


「……泥だらけになるぞ」


「もう、なってる」


 ティオは、それ以上いわなかった。


 床をささえる木を、ひとつずつ、さわっていく。


「リル。くさってる木、わかるか」


 リルは、鼻を近づけた。


 くさった木は、あまくて、すっぱいにおいがする。いい木は、かわいた森のにおいがする。


「これ。……これも。これは、だいじょうぶ」


「わかった」


 ティオは、リルがゆびさした木を、ぜんぶ信じた。一回も、うたがわなかった。


 くさった木の下に、土の柱を立てる。手で泥をこねて、魔力で、ぎゅっと固める。ティオの魔力は、少ない。においで、わかる。小さな火が、ゆらゆらして、消えそうになる。


 それでも、やめなかった。


 穴の底に、小石をしいた。その上に、あらい砂。その上に、固めた土。


 最後に、穴のすみから、外の路地まで、細い溝をほった。


「水の、にげ道だ。今度は、たまらない」


「みずの、にげみち」


「雨が来たら、ここを通って外へ出ていく。床の下には、残らない」


 ひみつのへやの、くずれた棚も、もういちど、土で固めた。


 泥の中から、紙のにおいがした。リルが、ゆびでつまんで出した。地図の、切れはし。


 ティオは、それをそっとのばして、棚にのせた。


 朝が来るころ、床はもとにもどっていた。


 前より、かわいていた。ふむと、こつこつ、かたい音がした。


     * * *


 それから、ティオは泥の中に手をいれた。


 長いあいだ、じっとしていた。


 ぽこ。


 泥の上に、銅貨がひとつ、出てきた。


 ぽこ。もうひとつ。


 ひとつずつ、ひろう。ゆびが、まっくろだった。目が、しょぼしょぼしていた。


 ネロが、起きてきた。


 だまって、ティオのよこにしゃがむ。ひろった銅貨を、ネロがかぞえた。


 かぞえおわると、ネロのにおいが、やわらかくなった。


「……ぜんぶ、ある」


「ある」


「芋は」


「……だめだった」


 ネロは、何もいわなかった。ティオの頭を、ぐしゃっと一回だけなでて、立ちあがった。


 もう、おこったにおいは、しなかった。


     * * *


 芋は、もどらなかった。


 泥にしずんだ芋は、ぜんぶ、くさってしまった。


 それから、ずっと、ごはんが少なかった。ティオは、じぶんの芋を、小さい子にわけていた。リルは、知っている。ティオのおなかは、夜、よく、ぐうっと鳴る。


 リルも、じぶんの芋をわけようとした。


「リルは、食え」


「ティオも、たべて」


「俺は、いい。お前はまだ、細すぎる」


 ティオのほうが、細いのに。


 暑くなりはじめた日。ティオが九歳になってからの、六月。


 ピアが、いなくなった。


 朝、ピアは、リルにだけいった。


「森のそとの草むらに、くすりの草がはえてるんだって。市場で、売れるんだって」


「ピア。ひとり、だめ」


「近くだもん。森には、はいらないもん」


「だめ」


「芋のぶん、とりかえすの。ティオ、ずっと、おなか鳴ってるもん」


 ピアは、毛布を肩にかけて、出かけていった。


 夕方になっても、もどらなかった。


     * * *


 戸口に、ティオが立った。


 はだしの足で、つま先を、とん、とん、と二回、地面にあてる。


 大地に、きいている。


 でも、ティオの足は、森までは、とどかない。


 リルは、鼻をあげた。


 ピアの毛布のにおい。日なたの、かわいたにおい。それが路地をぬけて、東の門のほうへ、のびている。


「ティオ。ピア、あっち。門の、そと」


 ネロが、ティオのうでを、つかんだ。


「森には入るな」


 声が、ひくかった。


「守備隊に言いに行く。お前は、ここにいろ」


 ティオは、こたえなかった。


「お前までいなくなったらどうする」


 ティオは、こたえなかった。


 ネロの手を、ふりはらいもしない。ただ、だまって、東を見ていた。


 リルには、わかった。


 においが、かわっていた。小さな火が、まっすぐ、高くなるにおい。床の穴をなおした夜と、同じにおい。


 ティオは、いく。


 ネロにも、わかったみたいだった。うでをはなして、守備隊の詰所のほうへ、走っていった。ふりむかなかった。


「リル」


「うん」


 リルは、ティオの前を走った。


 においの道を。


     * * *


 東の門は、荷車のかげにかくれて、ぬけた。


 草のはらを、走った。空が、だいだい色になっていた。


 森のふちに、ついた。


 木が、黒い。中は、もう、夜みたいに暗い。


 ピアのにおいが、森の中へ、ほんの少し、はいっている。


 そのにおいの先に、べつのにおいがあった。


 けもののにおい。でも、リルとは、ちがう。もっと冷たくて、おなかがすいた、においだ。


 ひとつじゃない。


 いつつ。


 せなかの毛が、ぜんぶ、さかだった。


 そのとき、森のおくで、声がした。


 長く、ひくく、ふるえる声。


 狼の、遠吠えだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。