第11話 エイルの音
西の結界石は、森の影を背負って立っていた。
村の木柵のすぐ内側。
古い石柱の表面には、他の結界石と同じように細い溝が刻まれている。
けれど、その光は弱かった。
ついて、消える。
ついて、また消える。
青白い光が、息切れするように揺れている。
石の下からは、嫌な音がした。
しゅ。
しゅう。
ちり。
乾いた音と、湿った音が混ざっている。
結界石は水を求めている。
けれど、水路から届くはずの音は、途中で何かに食われている。
森から伸びた黒い根。
それが石の下の溝に絡みつき、水も音も吸っている。
木柵の向こうでは、黄色い目がいくつか揺れていた。
大きな魔物ではない。
けれど、夜になる前の森から近づいてくる気配は、十分に不気味だった。
ガンツさんが俺の前に立ち、槌を構えた。
「小僧、聞け。石を開く場所を間違えるな」
「はい」
ミラは結界石から少し離れた場所で、帳面を抱えていた。
顔色は悪い。
それでも、彼女の目は逃げていなかった。
「私は何をすればいいですか」
「村人を西側へ近づけないでください。灯りも、できれば少なく」
「灯りを?」
「強い灯りで森の影が動くと、音が聞きづらくなります。必要な場所だけ照らしてください」
「分かりました」
ミラはすぐに振り返った。
近くに集まり始めていた村人たちへ声をかける。
「みなさん、西側には近づかないでください。子どもたちは集会所へ。家の灯りは必要な分だけにしてください。井戸の水は使いすぎず、でも完全には止めないで。水の流れを保ってください」
迷いの少ない声だった。
村長代理の声。
その声に、村人たちが動き出す。
誰かが子どもを呼び、誰かが灯りを小さくする。
ハンナさんが畑の方から戻ってきて、村人たちを集会所へ誘導し始めた。
ポロの声も聞こえた。
「こっち! 小さい子はこっちだよ! 走らないで!」
少し前なら、自分も見たいと言って危ない場所へ来ようとしたかもしれない。
でも今は、自分の役目を見つけて動いている。
俺は結界石に手を当てた。
冷たい。
南の畑の石とは違う冷たさだった。
水が足りないだけではない。
森の根が石の中の温度まで奪っているような感覚がある。
耳を澄ませる。
東の井戸の音。
北の水車の音。
南の畑の結界石の音。
村の中央、鐘楼の土台石の音。
それらは細いながらも、ここへ届こうとしていた。
けれど、西の結界石の下で、黒い根がそれを遮っている。
しゅう。
音を吸う音。
俺は眉を寄せた。
「根が、音送りの溝に絡んでいます」
「切るか」
ガンツさんが言った。
「切るだけでは駄目です。根が石に食い込んでいます。無理に切ると、石の溝ごと欠けます」
「では、どう外す」
「根が絡んでいない場所を探します。そこから水を通して、石と根の境目を浮かせるしかありません」
「時間はあるか」
森の向こうで、低い唸り声がした。
黄色い目が一つ、木柵の近くへ寄る。
ミラが息を詰めた。
俺は結界石の音を聞いた。
ちり。
しゅ。
ちり。
弱い。
今にも途切れそうだ。
「長くはありません」
「なら急げ」
ガンツさんは短く言った。
俺は石の根元へ膝をついた。
表面の土は湿っている。
だが、石のすぐ下は妙に乾いていた。
水を吸う前に、根が奪っているのだ。
「ここを開けてください。手の幅二つ分だけ」
「分かった」
ガンツさんが細い鍬を入れる。
ざく。
ざく。
土が少しずつ避けられていく。
根が見えた。
黒い。
木の根のようで、木の根ではない。
表面がぬめるように光り、細い筋が結界石の溝へ入り込んでいる。
ミラが近づきかけた。
「危ないです」
俺が止めると、ミラは足を止めた。
「それが、音を食べている根ですか」
「はい」
「記録します。西結界石、根元に黒い根。表面に湿り。水路側の土は乾燥……」
ミラの筆が走る。
その音があるだけで、少し落ち着いた。
記録されている。
誰かが残している。
この音は、俺一人の中だけで消えない。
俺は黒い根へ耳を近づけた。
しゅう。
嫌な音だ。
水を吸うだけではない。
音そのものを飲み込むような、底のない布に声を投げるような音。
俺は思わず息を止めた。
音が消える。
聞こうとするほど、根の音に飲まれそうになる。
ガンツさんが気づいた。
「顔色が悪いぞ」
「大丈夫です」
「大丈夫な顔ではない」
ミラと同じことを言われて、少しだけ苦笑しそうになった。
だが、笑う余裕はなかった。
この根は、俺の耳にとって相性が悪い。
壊れたものの音は聞ける。
ずれた音も、欠けた音も、泣いている音も聞ける。
けれど、これは違う。
音を消すものだ。
聞こうとすればするほど、必要な音が遠ざかる。
ちり。
結界石がかすかに鳴った。
助けを求めている。
でも、その声も根に吸われていく。
「聞こえないのか」
ガンツさんが低く問う。
「聞こえます。でも、消されます」
「消される?」
「根が、石の音を吸っています。こっちが聞こうとすると、その音まで濁る」
「厄介だな」
「はい」
木柵の向こうで、何かが動いた。
小型の獣のような影が、柵に鼻先を近づける。
ガンツさんが槌を握り直す。
結界が弱っている。
このまま夜になれば、もっと近づいてくる。
焦るな。
自分に言い聞かせる。
焦って根を引けば、結界石を傷つける。
結界石が傷つけば、防護鐘へ音は戻らない。
防護鐘が鳴らなければ、村はまた夜に怯える。
聞け。
聞け。
けれど、聞こうとするほど、黒い根の音に沈む。
しゅう。
耳の奥が暗くなる。
その時、遠くから声が聞こえた。
「エイルさん!」
ミラだった。
「一度、石から手を離してください!」
「でも」
「顔色が悪すぎます。記録にも書けないくらいです」
そんな言い方をされて、思わず手を離した。
冷たい空気が指先に戻る。
息を吸うと、胸の奥が痛かった。
俺はいつの間にか、呼吸を浅くしていたらしい。
ミラが近づきすぎない位置で、こちらを見ていた。
「エイルさん。何を聞こうとしていますか」
「石と根の境目です」
「それは、根に消されるんですよね」
「はい」
「なら、消されない音はありませんか」
消されない音。
俺は答えられなかった。
ミラは続ける。
「井戸の音、水車の音、結界石の音。エイルさんは、いつも何かの音を聞いて直しています。でも、今回は相手が音を消してしまうなら……」
彼女は少し迷ってから、言った。
「エイルさん自身の音は、使えませんか」
「俺の音?」
「はい。音叉でも、声でも。石が聞き分けられる音を、エイルさんから出すんです」
俺は息を止めた。
自分の音。
そんなこと、考えたこともなかった。
俺はずっと聞く側だった。
壊れた道具の音を聞く。
ずれた魔力の音を聞く。
誰かが気づかない小さな異常を聞く。
自分から鳴らすことは、ほとんどなかった。
声を出しても、聞いてもらえないことの方が多かったから。
細かい。
うるさい。
地味だ。
もう触るな。
そう言われるたびに、自分の声は小さくなった。
でも、ミラは今、俺の音が必要だと言った。
ガンツさんが鼻を鳴らす。
「悪くない。聞こえないなら、鳴らして探せ」
「でも、俺の声で石が反応するかどうか」
「やる前から決めるな」
ガンツさんの言葉は短い。
けれど、炉の火のように芯があった。
ミラも頷く。
「私は記録します。エイルさんがどんな音を出して、石がどう変わるか」
俺は工具袋から音叉を取り出した。
祖父から譲られた古い音叉。
何度も助けられた。
井戸でも、水路でも、鐘の影でも。
けれど今回は、音叉だけでは足りない気がした。
根は音を吸う。
なら、音叉の澄んだ音だけでは、すぐに飲まれる。
必要なのは、石がこちらを見失わないための音。
俺自身の音。
俺は結界石の前に膝をついた。
音叉を軽く鳴らす。
りん。
その音はすぐに黒い根へ吸われた。
しゅう。
やはり駄目だ。
でも、完全には消えていない。
ほんの一瞬だけ、結界石が反応した。
ちり。
そこへ、俺は息を重ねた。
「ん……」
小さな声だった。
喉が震える。
情けないほど頼りない音。
自分の声を、こんなふうに聞くのは初めてだった。
音叉の余韻に、自分の声を合わせる。
「ん……」
低く。
細く。
でも、切らさない。
結界石がかすかに鳴った。
ちり。
黒い根が音を吸う。
しゅう。
それでも、声を止めない。
自分の声が、石の表面を撫で、水路の細い溝へ入っていくのを想像する。
井戸の水の音。
水車のこ、とんという音。
畑の結界石のりんという音。
鐘楼の土台石の低い震え。
それらを思い出しながら、自分の声を真ん中に置く。
「ん……」
少しだけ、音が変わった。
黒い根の音の中に、隙間ができた。
「今です」
俺は言った。
ガンツさんがすぐに動く。
「どこだ」
「根の左側。石に食い込んでいない部分があります。そこを、切らずに浮かせてください」
「浮かせるだけだな」
「はい。切らないで」
ガンツさんは細い金具を根の下へ差し込んだ。
黒い根が、ぬるりと動く。
しゅう。
嫌な音が強くなる。
俺の声が飲まれそうになる。
喉が震える。
音がずれそうになる。
すると、ミラの声がした。
「エイルさん、音が少し上がっています」
帳面を見ながらではない。
俺を見て、彼女が言った。
「最初の音は、もう少し低かったです」
俺は目を開けずに頷いた。
低く。
最初の音へ戻す。
「ん……」
音が戻る。
結界石が応える。
ちりん。
「合いました」
ミラが言った。
ガンツさんが根を少し持ち上げる。
「次は」
「右下です。そこに細い根が三本。真ん中だけ石に噛んでいます」
「外側は」
「外側は切っても大丈夫です。でも真ん中は切らないで。先に水を通します」
「水か」
ミラが振り返る。
「水を持ってきてください! 少しでいいです!」
近くにいた村人が、井戸の水を入れた桶を持ってくる。
ポロではない。
ポロは集会所にいる子どもたちのそばにいるはずだ。
ミラが桶を受け取り、俺の近くへ置いた。
「どう使いますか」
「根元の溝に、少しずつ。流し込むのではなく、垂らすように」
「分かりました」
ミラが柄杓で水をすくう。
俺は声を続けた。
「ん……」
音叉の余韻はもう消えている。
今は、俺の声だけだ。
恥ずかしい。
怖い。
少しでもずれたら、石を傷つけるかもしれない。
でも、止められない。
ミラが水を一滴ずつ落とす。
ぽつ。
ぽつ。
水が黒い根の周りへ染みていく。
しゅう。
根が水を吸おうとする。
だが、俺の声に反応した結界石が、ほんの少し光を返した。
ちりん。
水が、根ではなく石の溝へ入る。
さら。
聞こえた。
水の通る音。
「通りました」
俺は声を切らさないまま言った。
「ガンツさん、今、真ん中の根を外へ」
「任せろ」
ガンツさんが細い金具を動かす。
黒い根が、石の溝から少しずつ離れる。
ずる。
ずるり。
嫌な音。
でも、石の音は濁っていない。
もう少し。
「ん……」
喉が痛い。
息が足りない。
それでも続ける。
ガンツさんの手が止まる。
「残り一本だ」
「根元です。石の下ではなく、水路側に絡んでいます」
「見えん」
「音で案内します」
「言え」
俺は声を保ちながら、耳を澄ませた。
黒い根の音。
石の音。
水の音。
そこに、自分の声が細く通っている。
以前なら、自分の声が邪魔だと思ったかもしれない。
でも今は違う。
自分の音があるから、他の音の位置が分かる。
暗い場所に、細い糸を張るような感覚だった。
「右へ指一本分。下です。そこから奥へ」
ガンツさんが金具を動かす。
「ここか」
「はい。そこを押さえて、手前へ引かずに、上へ」
「上だな」
「はい」
黒い根が大きく震えた。
森の方から、獣の唸り声が上がる。
木柵の向こうにいた影が、いっせいに後ずさったり、近づいたりする。
結界の光が弱いせいで、迷っているのだ。
ミラが村人へ声を張る。
「柵に近づかないで! 灯りを揺らさないでください! 集会所の扉を閉めて!」
その声は震えていなかった。
俺は声を続ける。
「ん……」
結界石の光が、少しずつ戻ってきた。
ちり。
ちりん。
りん。
根が外れかけている。
だが、その時、黒い根が急に縮んだ。
しゅっ。
石の溝へ戻ろうとする。
「戻る!」
俺が叫ぶより早く、ガンツさんが根を押さえた。
「小僧、音を強くしろ!」
強く。
でも、ただ大きくすればいいわけではない。
声が乱れれば、石も乱れる。
必要なのは、大きな音ではなく、ぶれない音。
俺は息を吸った。
胸の奥に、今まで聞いてきた音を集める。
泣いていた井戸。
待っていた水車。
泥の中の鐘の影。
畑を守る結界石。
鍛冶場で生まれた葉留め。
ミラの帳面に走る筆。
ポロの笑い声。
ガンツさんの鎚。
この村に来てから聞いた音。
俺を、役立たずではなく、音繕いと呼んでくれた音。
それらを胸の中で重ねる。
そして、声を出した。
「――ん」
さっきより低く、まっすぐな音。
結界石が応えた。
りん。
南の畑の方から、かすかな音が返ってくる。
りん。
水車小屋から。
こ、とん。
井戸から。
さら。
村の中央、鐘楼の土台石から。
ごぉん。
音がつながった。
黒い根が、びくりと震える。
今度は根が音を吸えない。
吸おうとしても、石と水路と鐘へつながった音が、根を押し返している。
「今です!」
ガンツさんが最後の根を外した。
ずるり。
黒い根が石の溝から抜ける。
その瞬間、西の結界石の光が一度だけ大きく揺れた。
青白い光。
緑の光。
水のような淡い光。
それらが混ざり合い、石の表面を走る。
木柵の外にいた獣たちが、いっせいに森へ後ずさった。
傷つけられたわけではない。
ただ、ここは入れない場所だと分かったように、静かに影の中へ消えていく。
結界石は、澄んだ音を立てた。
りん。
西の音が戻った。
俺は声を止めた。
急に膝の力が抜ける。
倒れかけたところを、ガンツさんの太い腕が支えてくれた。
「立てるか」
「少し、無理です」
「正直でよろしい」
ガンツさんは俺を結界石のそばに座らせた。
喉が痛い。
胸も苦しい。
けれど、耳ははっきりしていた。
西の結界石の音が聞こえる。
りん。
りん。
水が通り、音が通り、森の根は外れた。
ミラが近づいてきた。
その目には、涙が浮かんでいた。
けれど、泣いている時間はないと言うように、彼女は帳面を開いたままだった。
「記録しました」
「全部ですか」
「全部は無理です。でも、できる限り」
ミラは震える指で帳面を見せた。
『エイルさん、自分の声を音叉代わりに使用。
結界石、声に反応。
井戸、水車、南結界石、鐘楼土台石が共鳴。
黒い根、音を吸えなくなり、ガンツさんが除去。
西結界石、光回復。』
俺は小さく笑った。
「俺の声、変じゃなかったですか」
「変でした」
「え」
「でも、必要な音でした」
ミラは、少しだけ笑った。
「村をつなぐ音でした」
その言葉に、胸の奥が熱くなった。
ガンツさんが黒い根を布の上に置いた。
根は石から離れると、ただの枯れた蔓のように力を失っている。
「燃やすか?」
「すぐには燃やさないでください。何か分かるかもしれません」
「気味が悪いものを残す趣味はないが、記録が先か」
「はい」
ミラが頷いた。
「森の根がいつから入り込んでいたのか、他の水路にもないか、調べる必要があります」
ガンツさんは低く笑った。
「村長代理らしいな」
「強がっているだけではありません」
「そうだな」
それだけ言うと、ガンツさんは西の結界石を見上げた。
「いい音だ」
短い言葉。
けれど、それが何より確かな合格の印に聞こえた。
その時だった。
村の中央から、低い音が響いた。
ごぉん。
今までとは違う。
詰まった音ではない。
苦しそうな音でもない。
西の音が戻ったことで、鐘楼の土台石まで四方の音が届いたのだ。
井戸。
水車。
南の畑。
西の結界石。
村の音が、中央へ集まっている。
ミラが鐘楼の方を見た。
「防護鐘……」
ガンツさんも顔を上げる。
「鳴るのか」
俺は耳を澄ませた。
防護鐘は震えている。
鳴りたがっている。
でも、まだ鳴らない。
鐘の舌は西へ傾いている。
そこを直さなければ、音はまっすぐ広がらない。
「まだです」
俺は言った。
「でも、明日の朝なら」
「朝?」
「防護鐘は、朝に鳴るものなんですよね」
ガンツさんが頷く。
「昔はそうだった」
「なら、朝に鳴らした方がいいです。水が一番落ち着いて、村の音が揃う時間に。鐘の舌を戻して、土台石の音を整えて、それから」
喉が痛んで、言葉が少しかすれた。
ミラが心配そうに覗き込む。
「無理に話さないでください」
「大丈夫です」
「大丈夫な声じゃありません」
「……はい」
ミラは少し厳しい顔になった。
「今夜は休んでください。鐘楼の記録は私とガンツさんで確認します。エイルさんは、明日の朝に備えてください」
「でも」
「一人で背負わないと言ったのは、エイルさんです」
言い返せなかった。
ガンツさんが満足そうに鼻を鳴らす。
「言われているぞ、小僧」
「はい」
「今夜は休め。明日の朝、鐘を鳴らす」
明日の朝。
その言葉だけで、西の結界石が澄んだ音を返した気がした。
りん。
村の方から、人々の声が聞こえ始めた。
「光が戻ったぞ」
「西の石が」
「森の影が下がった」
灯りが少しずつ増える。
けれど、さっきのような不安なざわめきではない。
誰かが集会所の扉を開けたのだろう。
ポロの声が遠くから聞こえた。
「ミラ姉! 兄ちゃん! 大丈夫!?」
こちらへ走ってこようとする足音がして、すぐにハンナさんの声が飛ぶ。
「走らない!」
「でも!」
「早歩き!」
「はい!」
そのやり取りに、緊張していた空気が少しだけほどけた。
俺は西の結界石に背を預けるように座った。
石はもう冷たくなかった。
内側に水が通り、音が通り、村とつながっている。
耳を澄ませると、リント村全体が小さく鳴っていた。
さら。
こ、とん。
りん。
ごぉん。
まだ完全ではない。
傷んだ場所も、弱い場所もある。
これから直すものもたくさんある。
でも、音はつながった。
その中に、さっきまで自分が鳴らしていた声の余韻が、ほんの少しだけ残っている気がした。
役立たずと言われた声。
小さくなっていた声。
誰にも届かないと思っていた声。
それが今、村の音の中に混ざっている。
俺は目を閉じた。
明日の朝、防護鐘を鳴らす。
そのために、今は少しだけ眠りたいと思った。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は、西の結界石と、エイル自身の音の回でした。
音を聞くことしかできないと思っていたエイルが、自分の声で石と水路と鐘楼をつなぎ、黒い根を外す道を見つけます。
井戸、水車、水路、畑、結界石。
リント村の音は、ついに防護鐘へ届きました。
次回は、第1章の締め。
明日の朝、鳴らないはずだった防護鐘を鳴らします。
ブックマークや評価で応援していただけると、とても励みになります。




