EP 8
特異点の大決戦(バグだらけの戦争)
「――シールド最大展開ッ!! 【無限収納】から対魔装甲板、全放出ッ!!」
数十メートル後方の草むらに吹き飛ばされた銀河は、空中で体勢を立て直すや否や、持てる限りの防御チートをフル稼働させた。
目の前に分厚い光の障壁と、現代地球の最新鋭・対戦車装甲板が何十枚も壁のように展開される。
「ふざけるな……! なんで僕の緻密な心理戦が、ただの怪獣大決戦になってるんだよ!!」
シールドの向こう側では、言葉も、理屈も、サイコパスの計算も一切通じない【特異点】たちが、それぞれの最大火力をチャージしていた。
「銀河君を誑かす泥棒猫……私がここで、灰も残さず消し去ってあげる!!」
ダイヤが『天魔竜聖剣』を天段に構える。
彼女の全身から溢れ出す紅蓮の闘気が、剣身に収束していく。周囲の木々が、その圧倒的な熱量だけでチリチリと炭化し始めた。
「させないよ! 銀河君は、ポポロ村の立派な村人なんだからッ!!」
キャルルがクラウチングスタートの姿勢を取る。
タローマン特注の安全靴に仕込まれた『雷竜石』が解放され、一億ボルトの紫電が彼女の脚に纏いつく。マッハの速度で放たれる、質量と雷撃の暴力。
「まぁまぁ、野蛮な方々ですわね。ですが、愛する銀河様との結納を邪魔するおつもりなら、私も手加減はいたしませんわ!」
ルナが世界樹の杖を掲げる。
『やっちゃいなさいルナちゃん! ママも魔力全開でサポートするワ!』
背後のヤンデレ世界樹から莫大な魔力供給を受け、ルナの頭上に太陽と見紛うほどの巨大な炎の魔法陣が展開された。
三者三様の、一撃で軍隊を消し飛ばすほどの絶対的なエネルギー。
それが今、一点で激突しようとした――まさにその時だった。
「リーザ! 歌います!!」
戦場のど真ん中で。
鼻の穴に五円玉を二枚突っ込んだリーザが、ジャージの裾をまくり上げ、自分のお腹をペチペチと叩き始めた。
「♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポンッ!」
「「「…………は?」」」
殺意をたぎらせていた三人の動きが、あまりのシュールさに一瞬ピタリと止まる。
「♪月よ~月で~頭は ハーゲハゲでピーカピカ~!」
「♪お尻はツールツル~ ターマターマはマ〜ルマル~! (ソレ! ヨイヨイ!)」
(なんだあの気の抜ける宴会芸は!? ……いや、違う!!)
シールドの裏に隠れていた銀河の【鑑定】スキルが、恐るべき現象を警告していた。
腐っても、彼女は海中国家シーランの人魚姫なのだ。彼女の歌声には、味方の能力を底上げする強力な『バフ効果』が備わっている。
そして今、純金100kgを前にして強欲ゲージがMAXに振り切れた彼女の歌声は、戦場に満ちる『執着』と『殺意』と『善意』のエネルギーを強制的に吸い上げ、何倍にも増幅させる最悪の触媒と化していた!
「♪み~んな合わせて 腹太鼓~! ポンポコ ピーヒャラ テーンツルリン!!」
「キャァァァァァッ!!? な、何これ!? 魔力と闘気が、勝手に……ッ!?」
「あふれ、る……! 力が、抑えきれないわぁぁッ!!」
「まぁっ!? 魔法陣が……制御不能ですわぁぁッ!?」
リーザの『ポンポコ節』のラストフレーズと共に、ピンク色の禍々しいバフのオーラが三人の身体を包み込んだ。
限界までチャージされていたエネルギーが、強制的に天元突破を起こす。
もはや、止めることなど誰にもできない。
「いっけええええええええッ!!」
「消し飛べえええええええッ!!」
「燃えなさいいいいいいいッ!!」
「リーザの十億リルーーーーーッ!!」
四人の少女の絶叫が重なる。
「必殺! 超電光流星脚(スーパー・ライトニング・メテオ・ストライク)!!」
「私の物よ! バーニング・オーラ・ブレイク!!」
「負けませんわ! インフェルノ・ドレイク!!」
紫電の蹴り。紅蓮の斬撃。業火の巨龍。
三つの規格外の必殺技が、森の中心で完全に激突した。
――ピタッ。
一瞬、世界からあらゆる『音』と『色』が消え去った。
圧倒的すぎるエネルギーの衝突が、空間そのものを白く塗りつぶしたのだ。
(あ、これ、僕死んだな)
防壁の裏で、銀河が静かに目を閉じた直後。
チュドォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!
太陽が地上に落ちたかのような、凄まじい大爆発。
ヤンデレ世界樹の結界すらも吹き飛ばし、森の木々を灰塵に帰し、暴風がポポロ村の屋根瓦をすべて吹き飛ばしていく。
天まで届く巨大なキノコ雲が、ルナミス帝国の夜空に高々と打ち上がった。
特異点たちのバグだらけの戦争は、文字通り『すべてを更地にする』という、一切の勝者のいない最悪の結末を迎えたのであった。




