EP 7
ちょっとまったあああ!
「――ちょっと待ったぁぁぁぁぁッ!!!」
森の入り口から響き渡った、地獄の底から響くような三つの怒声。
ズドドドドドドッ!!! という、まるで重戦車の大群が森の木々をなぎ倒して進んでくるような地響きと共に、砂埃を上げて『彼女たち』は現れた。
「ぎん、が、くぅぅぅんッ!!」
先陣を切って飛び出してきたのは、紅蓮のクリムゾンアーマーに身を包んだダイヤだった。
その手には、愛用の『天魔竜聖剣』がギリギリと力強く握られている。彼女の瞳は、自分以外の女が銀河の腕に抱きついている光景を捉え、完全なハイライト・オフ(暗黒)状態に陥っていた。
「私の……私の銀河君を拐かして、抜け駆けで結婚だなんて……っ! 泥棒猫の森エルフがぁぁっ!! 許さない、絶対に生かしてはおかないわァァァッ!!」
「そうだそうだ! 銀河君はポポロ村の大切な村人なんだからね!」
ダイヤの横から、マッハの速度で飛び出してきたのはキャルルだ。
愛用のダブルトンファーを構え、タローマン特注の安全靴からは、すでに怒りの紫電(闘気)がバチバチと火花を散らしている。
「村長として、銀河君みたいなドジで手のかかる子を、こんな怪しい森の奥に嫁がせるわけにはいかないの! 銀河君の面倒を一生見るのは、私って決まってるんだから!!」
(いや、いつそんなこと決まったの!? ていうか二人とも目がマジだ! 殺る気満々だ!!)
簀巻き状態から解放されたばかりの銀河は、二人の尋常ではない殺気に顔を青ざめさせた。
だが、最もヤバいオーラを放っていたのは、最後尾からノロノロと歩いてきた少女だった。
芋ジャージに健康サンダルという、およそ戦場には似つかわしくない格好の貧乏神アイドル・リーザ。
彼女の視線は、銀河でも、ルナでも、世界樹でもなく――地面に鎮座する『純金100kgのブロック』にのみ、ガッチリと固定されていた。
「……じゅん、きん……」
リーザの口から、滝のようにヨダレがこぼれ落ちる。
両目には、ルナミス帝国の通貨単位である『リル』のマークが、ギラギラと血走って浮かび上がっていた。
「1キロあたり約1千万リルとして……それが100キロ……。つまり、約10億リル……。あ、あああ……タローマートのA5ランク和牛が……一生食べ放題……! 1LDKのお城が……建つ……!!」
「リーザちゃん!? ヨダレ! ヨダレ拭いて! 顔が完全に捕食者のそれになってるから!!」
銀河の必死のツッコミも虚しく、リーザは懐からおもむろに『五円玉(御縁の証)』を二枚取り出し、それを両の鼻の穴にスボッ! と躊躇なく突っ込んだ。
究極の宴会バフ・モードへの移行準備である。
「まぁまぁ! 銀河様のお友達ですか?」
この一触即発の地獄絵図の中にあって、ルナだけは相変わらず純真無垢なお花畑スマイルを浮かべていた。
「皆さま、よくいらっしゃいましたわ! 実は今から、私と銀河様の結納の儀式を行うところだったんですの! どうぞ、盛大にお祝いしてくださいな♡」
ブチィィィンッ!!
ダイヤとキャルルの脳内で、理性の糸がちぎれる音が、森中に響き渡った。
『アラヤダ! 結婚式のお呼ばれネェ! 賑やかでいいジャナ〜イ! ウチのルナをよろしくネェ、お友達チャンたち!』
「よろしくするわけないでしょぉぉがッ!!」
空気を全く読まない世界樹の能天気なテレパシーに対し、ダイヤが天魔竜聖剣を天空へと掲げた。
剣身に、メラメラと紅蓮の炎と闘気が凄まじい勢いで収束していく。
「銀河君を騙す泥棒猫と、その親玉……。ここで私が、根こそぎ焼き払ってあげるわッ!!」
「私も加勢するよ、ダイヤさん! 銀河君を連れ戻して、毎日私が手作りのニンジン料理を食べさせてあげるんだから!!」
「リーザのッ!! 10億リルゥゥゥッ!!」
三者三様の歪んだ愛と欲望が、臨界点を突破した。
「待って! ストップ! みんな話を聞いて!! 僕のサイコパスな心理分析によれば、今は争うメリットなんて一つも――」
銀河が両手を広げて必死に仲裁に入ろうとするが。
「「「邪魔!!」」」
ヒロインたちから放たれた凄まじい闘気の余波だけで、銀河の体は「ふぐっ!?」とカエルのような声を上げて、数十メートル後方の草むらへと吹き飛ばされた。
もはや、そこに星月銀河の意志や計算が介入する余地など一ミリも存在しない。
ただ純粋な、規格外の【特異点】同士の、大自然と経済を巻き込んだ大怪獣バトル(愛の修羅場)が、今まさに火蓋を切ろうとしていた。




