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第四章 エルフの狂気と、特異点の大決戦

次なる標的と、善意の市場破壊

ポポロ村に、かつてないほどの平和が訪れていた。

悪徳商人ボルスは社会的に抹殺され、リーザは村の借金を完済し、ダイヤとキャルルは相変わらず銀河を巡って火花を散らしている。

愛の破壊者・星月銀河にとって、彼が作り上げたこの『おもちゃ箱』は、すっかり安全で居心地の良い場所になっていた。

だが、サイコパスの探求心(飢え)は尽きない。

(ダイヤさんの完全依存は完了した。キャルルさんの無償の愛には降伏したし、リーザちゃんには財布の紐を握られた。……そろそろ、新しい『愛の形』を試してみたいな)

銀河の冷たく淀んだ視線の先。

ポポロ村の広場にあるベンチで、純白のふわふわなフリルドレスに身を包み、日傘を差しながら優雅に紅茶を飲んでいる少女がいた。

ルナ・シンフォニア。

世界樹から神託を受けたエルフの次期女王候補であり、すべての植物に愛される、天然・純真無垢なお嬢様だ。

(エルフは高潔でプライドが高い種族だ。だからこそ、僕のような『ドジで親に捨てられた可哀想な少年』を見れば、そのプライドと母性が刺激されて、簡単に共依存の沼に落ちるはずだ)

銀河は、いつものように『影響力の武器』と自らのトラウマをフル活用した完璧なシナリオを脳内で組み立てた。

そして、わざと足をもつれさせて、ルナの目の前で派手に、だが庇護欲をそそるように美しく転んでみせた。

「ああっ……痛っ……」

「まぁっ! 銀河様!? 大丈夫ですか!?」

ルナは慌ててティーカップを置き、銀河の元へ駆け寄った。

「ご、ごめんなさい、ルナさん……。僕、ドジだから……それに、お腹が空いてて、力が入らなくて……」

銀河は、地面にへたり込んだまま、空腹に苦しむ仔犬のような潤んだ瞳でルナを見上げた。

「親に捨てられてから、満足に美味しいものを食べたことがなくて。……あはは、変な音鳴っちゃったな。恥ずかしいよ」

(完璧だ。さあ、僕を哀れんで、君の温かい腕で抱きしめてごらん。そして「私が守ってあげる」と誓うんだ)

銀河が心の中で邪悪な笑みを浮かべていた、その時だった。

「まぁ……っ! お可哀想に……!!」

ルナの大きなエメラルドグリーンの瞳から、ボロボロと真珠のような涙がこぼれ落ちた。

彼女の純粋すぎる心は、銀河の「嘘の混じった悲劇」を1000%の真実として受け止め、強烈な悲しみと『善意』を大爆発させたのだ。

「私にお任せくださいませ! 植物のお友達! どうかこの心優しき少年に、最高の実りを与えてくださいな!!」

ルナが、手に持っていた『世界樹の杖』を天高く掲げた。

途端に、杖の先端から凄まじい緑色の魔力光が放たれ、ポポロ村の大地全体がズズズズ……と鳴動を始めた。

「……え?」

銀河が間の抜けた声を上げた瞬間。

広場の石畳を突き破り、無数の植物のツルが猛スピードで成長し始めた。

ボコボコボコッ!! という音と共に、あっという間に村の広場が巨大な『樹海』へと変貌する。

それだけではない。

「はいっ、銀河様! たんと召し上がってくださいませ!」

ルナが微笑むと、その木々からドサドサドサァァァッ!! と、大量の果物と野菜が降り注いできた。

ただの野菜ではない。一口食べれば魔力が全回復する『黄金リンゴ』、不老長寿の妙薬とされる『世界樹のメロン』、普通のスイカの十倍はある『超巨大マナ・キャベツ』。

ルナミス帝国の市場に出せば、一つで家が建つような超・規格外の神級農作物が、文字通り『雪崩』のように広場を埋め尽くしていく。

「お、おい見ろ! 村の広場が野菜の山に!!」

「ど、どうなってるんだ!? 俺たちが一年かけて育てたジャガイモが……っ、あんな光り輝くキャベツを無料タダで配られたら、今年の農作物が一つも売れなくなるぞォォォッ!!」

「ぎゃあああ! 相場が! 野菜の相場が崩壊するぅぅぅ!!」

騒ぎを聞きつけた村の農家たちが、神級野菜の山を見て頭を抱え、泡を吹いて倒れ始めた。

需要と供給のバランスを完全に無視した、圧倒的なまでの『善意の市場破壊テロリズム』。

「うふふ、銀河様! これなら、一生お腹いっぱい食べられますわね!」

ルナは、農家たちの阿鼻叫喚など一切耳に入っていない様子で、両手いっぱいの黄金リンゴを抱え、満面の、一切の悪意がない笑顔を銀河に向けている。

「…………」

その中心で。

山のようになった超巨大マナ・キャベツの下敷きになりかけている銀河は、完全に虚無の表情を作っていた。

(……えっと。僕、ただ「お腹が空いた」って言っただけだよね?)

心理学? トラウマ? 共依存?

そんな繊細な心のパズルは、ルナという【天然の災害】の前に、国家予算レベルの圧倒的な質量によって盤面ごと粉砕された。

「……いや、ルナさん。……さすがに、やりすぎじゃない?」

かつてS級魔獣を鼻で笑いながら消し飛ばした愛の破壊者は、引きつった笑顔を浮かべながら、サイコパスらしからぬ、至極真っ当で常識的なツッコミを入れることしかできなかった。

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