EP 8
Love & Money(資本主義の愛)
ズンッ! ズンッ! ズンッ!
腹の底に響く重低音。目も眩むような極彩色のレーザーが、夜のポポロ村の空を縦横無尽に切り裂いた。
圧倒的な現代音響システムの前に、広場に集まった数千の群衆は息を呑み、金縛りに遭ったように立ち尽くしている。
ステージの中央。
黄金のドレスに身を包んだリーザが、マイクスタンドを力強く握りしめ、かつてないほど自信に満ちた、不敵な笑みを浮かべた。
「みんなーッ! 今日は私に、ありったけの愛を貢いでねーッ!!」
リーザの突き抜けるようなシャウトと共に、ポップで中毒性のあるイントロが爆音で鳴り響く。
『Love & Money』
All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ! (Fu Fu!)
All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ! (Yeah!!)
最初は何が起きたのか分からず呆然としていた貴族たちだったが、その脳髄を直接揺さぶる未知のメロディと、リーザから放たれる凄まじい『エネルギー』に、次第に体が勝手に動き始めていた。
朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)
私はまだ眠いわ (おはよー!)
朝シャンしなきゃ (Fu!)
朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)
鏡の前で メイクをしなきゃ (魔法をかけて〜! )
「なんだ、この歌は……!? 庶民の生々しい生活を歌っているはずなのに……なぜこんなにも心が惹きつけられるのだ!?」
「おおお、あのステップのキレ! 指の先まで『金』への執着を感じるぞ!」
さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)
のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)
扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)
今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)
全て上手くいくわ (絶対!)
愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)
ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)
貴方の愛で生きていける (Fuuu〜!)
「ブラボー!! ブラボーだ金色の少女よ!!」
一人の大貴族が、狂ったように叫びながら、ステージに向かって分厚い金貨の束を投げ入れた。
それを皮切りに、広場は完全な熱狂の渦に飲まれた。
「俺の投資を受け取ってくれ!」「オ・レ・の! 女王様ー!」と、本来ならボルスのアイドルに注がれるはずだった莫大な資金(投げ銭)が、雨あられとリーザの足元に降り注ぐ。
夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)
お腹はもうペコペコよ (ぐ〜!)
スーパーのシール見なきゃ (半額!)
ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)
家賃のために 節約しなきゃ (現実はシビア〜! ガマン!)
「……な、なんだこれはぁっ!? やめろ! そいつらに投資するな! 俺の……俺のジェム・ガールズを見ろぉぉっ!!」
ボルスが血走った目で叫ぶが、彼の声など重低音のビートに完全にかき消されていた。
彼が雇った二流の踊り子たちは、リーザの圧倒的なオーラに恐れをなし、すでにステージから逃げ出している。ボルスの野望は、この瞬間に完全に、そして社会的に抹殺された。
ステージ上のリーザは、降り注ぐ金貨の雨を全身に浴びながら、さらにギアを上げる。
さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)
地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)
マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)
今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)
全部手に入れるわ (強欲!)
夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)
株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)
貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu〜!)
「……すごいな」
ステージの袖。
暗がりで腕を組んでいた銀河は、光り輝くリーザの姿を見つめ、思わず感嘆の息を漏らした。
空中で金貨をキャッチする彼女の動きに、一切の無駄はない。
だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの
綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ (そうだー!!)
だから…もっともっと、愛して(課金して)ね? 覚悟はいい?
「うおおおおおおッ!!」
観客のボルテージが最高潮に達する。
(愛なんて、試せばすぐに壊れる。少しの恐怖で裏切り、少しの絶望で歪む。……それが、人間の心だと思ってた)
銀河は、足元に転がってきた一枚の金貨を拾い上げ、指先で弾いた。
(でも、彼女のあれは……なんだ? どんなに痛めつけられても、ド底辺に落とされても、決して折れない、へこたれない、強靭な『生存本能(欲望)』)
世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)
全部抱きしめるわ (最強!)
愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)
ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)
貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)
だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ
だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)
ダーリン! (チュッ♡)
(ジャーン! …ジャン!)
(チャリーン♪)
曲の終わり。完璧なウインクと共に、リーザが投げキッスを放つ。
同時に特効の花火が夜空に打ち上がり、広場は耳をつんざくような大歓声に包まれた。
百億リルなどとうに超える、山のような金貨と宝石がステージを埋め尽くしている。
(……愛は壊れる。でも、彼女のあの『金への執着(欲望)』は、絶対に壊れない。僕の計算にも、虚無にも屈しない)
銀河は、眩しそうに目を細めた。
それは、サイコパスである彼が、自分以外の人間が放つ『絶対的な輝き』を初めて認めた瞬間だった。
(……あれは、僕がいじっちゃいけない。完成された愛の形だ。素敵だよ、リーザちゃん)
大歓声の中で。
愛の破壊者は、自らが作り上げた『究極の強欲アイドル』に向けて、誰にも見えないように、そっと小さな拍手を送った。




