表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/30

EP 8

Love & Money(資本主義の愛)

ズンッ! ズンッ! ズンッ!

腹の底に響く重低音。目も眩むような極彩色のレーザーが、夜のポポロ村の空を縦横無尽に切り裂いた。

圧倒的な現代音響システムの前に、広場に集まった数千の群衆は息を呑み、金縛りに遭ったように立ち尽くしている。

ステージの中央。

黄金のドレスに身を包んだリーザが、マイクスタンドを力強く握りしめ、かつてないほど自信に満ちた、不敵な笑みを浮かべた。

「みんなーッ! 今日は私に、ありったけのキャッシュを貢いでねーッ!!」

リーザの突き抜けるようなシャウトと共に、ポップで中毒性のあるイントロが爆音で鳴り響く。

『Love & Money』

All: 愛!アイ!愛!アイ!ラ〜ブラブ! (Fu Fu!)

All: マネー!マネ!ローン!ダーリン!グ! (Yeah!!)

最初は何が起きたのか分からず呆然としていた貴族たちだったが、その脳髄を直接揺さぶる未知のメロディと、リーザから放たれる凄まじい『エネルギー』に、次第に体が勝手に動き始めていた。

朝に目覚ましがなったわ (ジリリリ!)

私はまだ眠いわ (おはよー!)

朝シャンしなきゃ (Fu!)

朝メニュー食べなきゃ (パクパク!)

鏡の前で メイクをしなきゃ (魔法をかけて〜! )

「なんだ、この歌は……!? 庶民の生々しい生活を歌っているはずなのに……なぜこんなにも心が惹きつけられるのだ!?」

「おおお、あのステップのキレ! 指の先まで『金』への執着を感じるぞ!」

さぁショーの始まりよ (It’s Show Time!)

のんびりな私は 1LDKに置いて行くわ (バイバイ!)

扉を開ければ 私が主人公 (オ・レ・の! アイドルー!)

今日も私の為に世界が動く (まわって!まわって!)

全て上手くいくわ (絶対!)

愛も富も一つの物 (どっちもちょーだい!)

ダイヤが欲しい♪ 土地も欲しい♪ (Want You! Want You!)

貴方の(とキャッシュ)で生きていける (Fuuu〜!)

「ブラボー!! ブラボーだ金色の少女よ!!」

一人の大貴族が、狂ったように叫びながら、ステージに向かって分厚い金貨の束を投げ入れた。

それを皮切りに、広場は完全な熱狂の渦に飲まれた。

「俺の投資を受け取ってくれ!」「オ・レ・の! 女王様ー!」と、本来ならボルスのアイドルに注がれるはずだった莫大な資金(投げ銭)が、雨あられとリーザの足元に降り注ぐ。

夕方の鐘が鳴ったわ (キンコンカン!)

お腹はもうペコペコよ (ぐ〜!)

スーパーのシール見なきゃ (半額!)

ポイントカードも出さなきゃ (ピッ!ピッ!)

家賃のために 節約しなきゃ (現実はシビア〜! ガマン!)

「……な、なんだこれはぁっ!? やめろ! そいつらに投資するな! 俺の……俺のジェム・ガールズを見ろぉぉっ!!」

ボルスが血走った目で叫ぶが、彼の声など重低音のビートに完全にかき消されていた。

彼が雇った二流の踊り子たちは、リーザの圧倒的なオーラに恐れをなし、すでにステージから逃げ出している。ボルスの野望は、この瞬間に完全に、そして社会的に抹殺された。

ステージ上のリーザは、降り注ぐ金貨の雨を全身に浴びながら、さらにギアを上げる。

さぁ魔法の時間の始まりよ (Change The World!)

地味な私は 楽屋に置いて行くわ (バイバイ!)

マイクを握れば 私が女王様 (オ・レ・の! 女王様ー!)

今夜も私の為に星が降る (ひかって!ひかって!)

全部手に入れるわ (強欲!)

夢も金貨も輝くもの (どっちも好きー!)

株券欲しい♪ お城も欲しい♪ (Buy Now! Buy Now!)

貴方の愛(と貢ぎ)で輝いていける (Fuuu〜!)

「……すごいな」

ステージの袖。

暗がりで腕を組んでいた銀河は、光り輝くリーザの姿を見つめ、思わず感嘆の息を漏らした。

空中で金貨をキャッチする彼女の動きに、一切の無駄はない。

だって女の子だもん 夢見るだけじゃお腹は空くの

綺麗なドレスも ガラスの靴も 維持費がかかるのよ (そうだー!!)

だから…もっともっと、愛して(課金して)ね? 覚悟はいい?

「うおおおおおおッ!!」

観客のボルテージが最高潮に達する。

(愛なんて、試せばすぐに壊れる。少しの恐怖で裏切り、少しの絶望で歪む。……それが、人間の心だと思ってた)

銀河は、足元に転がってきた一枚の金貨を拾い上げ、指先で弾いた。

(でも、彼女のあれは……なんだ? どんなに痛めつけられても、ド底辺に落とされても、決して折れない、へこたれない、強靭な『生存本能(欲望)』)

世界中が私の為に愛を叫ぶ (まわって!まわって!)

全部抱きしめるわ (最強!)

愛も富も同じ輝き (どっちも本物ー!)

ダイヤも株も♪ 土地も愛も♪ (All Need! All Need!)

貴方の全て(人生)を背負って生きていける (Fuuu〜!)

だから私は 銀河の果てまで歌って行けるわ

だから、何処までもついて来てね♡ (一生ついていくよー!!)

ダーリン! (チュッ♡)

(ジャーン! …ジャン!)

(チャリーン♪)

曲の終わり。完璧なウインクと共に、リーザが投げキッスを放つ。

同時に特効の花火が夜空に打ち上がり、広場は耳をつんざくような大歓声に包まれた。

百億リルなどとうに超える、山のような金貨と宝石がステージを埋め尽くしている。

(……愛は壊れる。でも、彼女のあの『金への執着(欲望)』は、絶対に壊れない。僕の計算にも、虚無にも屈しない)

銀河は、眩しそうに目を細めた。

それは、サイコパスである彼が、自分以外の人間が放つ『絶対的な輝き』を初めて認めた瞬間だった。

(……あれは、僕がいじっちゃいけない。完成された愛の形だ。素敵だよ、リーザちゃん)

大歓声の中で。

愛の破壊者は、自らが作り上げた『究極の強欲アイドル』に向けて、誰にも見えないように、そっと小さな拍手を送った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ