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EP 7

ステージ裏の震えと、最悪のプロデューサー

ポポロ村、収穫祭当日。

村の中央広場には、帝国中から集まった貴族や商人、そして借金取り立ての期限を前に青ざめた村人たちで、足の踏み場もないほどの群衆が押し寄せていた。

「ええい、始めろ! さっさと始めんかッ!!」

広場の隅に急造された、今にも崩れそうなボロい木組みのステージの上で、ボルスが汗を撒き散らしながら怒鳴っていた。

看板アイドルだった『ジェム・ガールズ(中身はおっさん)』はスキャンダルで使い物にならず、代わりにかき集めた二流の踊り子たちが、ぎこちないダンスを披露している。

「……なんだよ、あの学芸会は。あんなのに投資するわけないだろ」

「ガルダ商会も焼きが回ったな。あんなボロいステージで……」

観客席の貴族たちから冷ややかな声が上がる。ボルスの顔は屈辱と焦燥で土色に染まっていた。

そんな喧騒を余所に。

広場の反対側に突如として現れた『巨大なコンテナ』の裏。そこが、リーザの楽屋だった。

「……ううぅ、無理です……。やっぱり無理ですよ、ダーリン……っ!!」

リーザは、銀河が【ネット通販】で買い揃えた、スパンコールが眩しい『黄金色のアイドル衣装』に身を包みながら、生まれたての小鹿のようにガタガタと震えていた。

その手は氷のように冷たく、極限の緊張で過呼吸気味になっている。

「あんなにたくさんの人……みんな、私のこと『ドブネズミ人魚』って笑いに来たんですよぉ……。百億リルなんて、やっぱり夢だったんだぁ……。私は大人しく、一生パンの耳を食べて生きていく運命なんですぅ……っ!!」

「リーザちゃん」

銀河は、怯えるリーザの肩を優しく、けれど逃がさないように強く掴んだ。

彼は、彼女の潤んだ瞳を真っ直ぐに見つめる。その瞳は、聖母のような慈愛に満ちているようでいて、その実、深淵のように真っ黒で底が見えなかった。

「……怖いなら、逃げてもいいよ。僕と一緒に、この村を捨ててどこか遠くへ行こうか? ダイヤさんみたいに、僕に依存して、僕の金で飼われるだけの小鳥になる?」

「それは……」

リーザの動きが、一瞬止まる。

銀河は、さらに甘く、毒を含んだ声で囁いた。

「でもね、リーザちゃん。見てごらん、あのステージの向こうを。……あそこには、君が一生かかっても食べきれないほどの最高級和牛がある。君が一生働かなくても住めるお城がある。……そして何より、君の家を奪おうとしたあの成金ブタの、絶望に歪んだツラがある」

銀河は、リーザの耳元で、彼女の『本能』を呼び覚ますためのパスワードを打ち込む。

「怖いのは、君の中に『プライド』なんて無駄なものがあるからだよ。そんなの捨てちゃいな。……君は、世界で一番汚くて、世界で一番美しい『強欲』そのものなんだから」

「強、欲……」

「そう。あそこにいる連中は、ファンなんかじゃない。……君の未来の『家賃』であり、『資産』だ。君のその汚い強欲で、あの商人の心をへし折って、観客全員の財布を空っぽにしておいで」

銀河は、リーザの背中をトン、と軽く叩いた。

その瞬間、リーザの震えが、ピタリと止まった。

彼女の瞳の奥で、カチリ、とスイッチが切り替わる音がした。

恐怖が、凄まじい熱量を伴った『枯渇感』へと変換されていく。

「……ふぅ。……ふしゅぅぅぅーーーっ!!」

リーザが深く息を吐き出す。

顔を上げた彼女の瞳には、もはや一欠片の不安もなかった。あるのは、獲物を前にした捕食者特有の、ギラギラとした『¥』マークの輝き。

「わかりました、ダーリン……。私、行ってきます。……あそこの人間どもを、全員私のパトロン(ATM)にしてきますッ!!」

「あはは。いい返事だ」

銀河は、満足げに微笑むと、手元のリモコンのボタンを押した。

「――さあ、開演ショウタイムだ。世界を資本主義の地獄に変えておいで」

ズドォォォォォンッ!!!

突如として、ポポロ村の広場に、爆発的な轟音と極彩色のレーザー光線が降り注いだ。

ボルスのボロいステージの真向かい。

銀河が【無限収納】から取り出し、一瞬で展開した『現代地球の最新鋭特設ステージ』が、圧倒的な威容を持って出現したのだ。

巨大なLEDモニター、天を衝くほどのスピーカー群。そして、眩いばかりの黄金の光に包まれて。

一人の少女が、マイクを握りしめてステージ中央へとせり上がってきた。

「……な、なんだぁ!? 一体何が起きているんだぁっ!!」

腰を抜かしたボルスの叫びを、地を這うような重低音のビートが掻き消す。

銀河はステージ裏で、冷徹なプロデューサーの顔で、神銃を弄びながら呟いた。

「さて……次は、誰の財布を壊そうか」

イントロが流れる。

伝説の『貧乏神アイドル』リーザの、世界一強欲で、世界一愛キャッシュに溢れた歌声が、今、ポポロ村に響き渡ろうとしていた。

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