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EP 5

愛の破壊者、キレる

夜。ポポロ村の空き家。

泥だらけのジャージを脱ぎ捨て、温かいシャワーを浴びた銀河は、真新しいシルクのパジャマに身を包み、ソファに深く腰掛けていた。

足元では、ダイヤが銀河の足を優しくマッサージしながら、うっとりとしたため息を漏らしている。

「……ダイヤさん。少し、一人にしてくれるかな」

「あっ、はい……! ごめんなさい、銀河君のお邪魔はしないわ。キッチンで明日の朝ごはんの仕込みをしておくわね」

ダイヤが従順に部屋を出ていくのを見届けた後。

銀河は、冷たいアイスティーを一口含み、何もない虚空に向けて指を弾いた。

ピロンッ。

彼の視界にだけ、【ネット通販】の青白いインターフェースが展開される。

(さて。僕のおもちゃ箱を荒らした泥棒猫の、身辺調査といくか)

銀河は、検索窓に『ガルダ商会』『幹部ボルス』と打ち込んだ。

この【ネット通販】スキルは、単に地球の物品を買えるだけではない。情報商材やダークウェブのデータアクセス権すらも「商品」として購入できる、極めて凶悪な情報端末でもあるのだ。

金貨を数枚支払い、帝国裏社会のデータベースをハッキングする。

(ふぅん……なるほどね)

画面に羅列されたボルスの裏帳簿を眺めながら、銀河の口角が三日月のように吊り上がった。

百億リルという法外な借金。

ボルスがこのタイミングでポポロ村の差し押さえを強行したのには、明確な理由があった。

(一週間後の収穫祭。ボルスはそこで、ガルダ商会が巨額の資金を投じて育て上げた『箱入りアイドルグループ』のデビューライブを大々的に行う予定らしい。村の土地を接収し、フェスの熱狂を利用して帝国の貴族たちから巨額の投資(投げ銭)を巻き上げる。それが奴の本当の狙いか)

ボルスにとって、ポポロ村の差し押さえはゴールではなく、アイドルを使った錬金術のための『舞台作り』に過ぎなかったのだ。

「……バカだなあ」

銀河は、クスクスと肩を揺らして笑った。

その瞳は、獲物の内臓をどうやって引きずり出そうかと思案する、極めて冷酷で残虐な捕食者の色に染まっている。

「百億リルなんて、僕の無限収納の小銭を払えば一瞬で解決する。……でも、そんなの面白くないよね」

法律と資本主義のルールを使って、僕から奪おうとした。

なら、ルール通りにやり返してあげるのが礼儀というものだ。

「君が一番絶望する方法。君が全財産とプライドを懸けたフェスで、君のアイドルを公開処刑して、その投資金を一リル残らず吸い尽くしてあげるよ」

銀河はインターフェースを閉じると、立ち上がって玄関の扉を開けた。

そこには、予想通り。

「……ぐすっ、ひっく。私のお水……タダで採れる山菜……」

家の前の階段で体育座りをし、カチカチになったパンの耳を齧りながら、ボロボロと涙をこぼしているリーザがいた。

彼女にとって、村を追い出されることは『死』に直結する。

「リーザちゃん」

「あっ、ダーリン……っ。ごめんなさい、こんな夜更けに。私、家なし人魚になっちゃうから、今のうちにダーリンの顔を目に焼き付けておこうと……」

「そんなことしなくていいよ。君は村から出ていかない」

銀河は、階段に座り込み、リーザの目線に合わせて優しく微笑みかけた。

「一週間後の収穫祭。ガルダ商会はそこで、フェスを開いて大金を集めるつもりだ」

「大金……」

「そう。百億リルなんて目じゃない。帝国の貴族たちが落とす、山のような金貨だ」

『金貨』というワードを聞いた瞬間、リーザの瞳の奥で、消えかかっていた生存本能の火種がチリッと音を立てた。

「ねえ、リーザちゃん。奪われた村を取り戻したくない? ついでに、あのムカつく成金ブタの全財産を、合法的に君のポケットに入れたくない?」

「で、できるんですかっ!? そんなこと!!」

リーザが、銀河の肩をガシッと掴んだ。

彼女の瞳はもう泣いていなかった。完全な『¥』マークが両目に浮かび上がっている。

「できるよ。僕が、君をプロデュースしてあげる」

銀河は、リーザの耳元で、悪魔の契約を持ちかけるように甘く囁いた。

「フェスのステージを乗っ取って、君が歌うんだ。君のその美しい『強欲』で、観客の心と財布を根こそぎ奪い取る、究極のアイドルとしてね」

「私が……アイドル……?」

「そう。歌は世界を救うなんて、安い言葉は言わない。……歌は、君の家賃と、胃袋を救うんだ」

ズキュゥゥゥンッ!!

リーザの脳内で、雷が落ちたような衝撃が走った。

金。飯。家。

これまでの人生で、常に這いずり回って求めてきた『富』が、ステージの上で輝いているビジョンが明確に視えた。

「やりますっ!!」

リーザは立ち上がり、夜空に向かって拳を突き上げた。

「私、やりますダーリン! 村のためでも、愛のためでもありません! 資本主義の頂点に立って、A5ランク和牛を毎日お腹いっぱい食べるために!!」

「あはは、その意気だ。じゃあ、明日から地獄のレッスンを始めようか」

銀河は満足げに笑い、リーザの手を取った。

ド底辺を生き抜く執念と、現代地球の資本主義の粋を集めたチートプロデュース。

絶対に混ざり合ってはいけない二つの劇薬が交わった時。

ルナミス帝国全土を揺るがす、最凶の『貧乏神アイドル』が産声を上げたのだった。

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