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EP 3

無限献血とガテン系サイコパス

「ハンバーガー食べ放題! コーラも飲み放題ですよ、ダーリン♡」

タローマートの裏路地で冷たい弁当を平らげた後。

リーザに満面の笑みで連行された先は、ポポロ村の診療所に併設された『魔導献血ルーム』だった。

「……リーザちゃん。僕、どうして腕に極太の針を刺されてるのかな?」

「もちろん、社会貢献のためです! ほら、血を400ml抜けば、この無料チケットが貰えるんですよ!」

待合室のソファで。

リーザは両手にハンバーガーを持ち、ハムスターのように頬をパンパンに膨らませていた。テーブルの上には、すでに空になったコーラの紙コップとハンバーガーの包み紙が山のように積まれている。

一方の銀河は、血を抜かれたことで顔を青白くさせ、虚ろな目で宙を見つめていた。

(……僕の【無限収納】には、金貨が山ほど入っているのに。どうして、自分の血を売ってジャンクフードを食べているんだ……?)

銀河の緻密な心理計算は、急速な貧血によって処理落ちしかけていた。

「ぷはぁーっ! 食った食ったぁ! さすがダーリンの生き血と引き換えに得たハンバーガー、五臓六腑に染み渡りますぅ!」

「……それはよかった。じゃあ、そろそろ帰ろ――」

「はい、これ!」

リーザが、銀河の口にポーション(安物)の小瓶を突っ込み、無理やり飲ませた。

「えっ……んぐっ!?」

「造血作用のある鉄分ポーションです! ダーリン、回復早いですよね? じゃあ隣町の献血ルームにもハシゴ行きますよ! まだポテトを食べてませんからね!!」

「いや、リーザちゃん!? 献血って一日に何回もやっちゃいけないルールが……ああっ!」

愛の破壊者・星月銀河。

彼はこの日、生まれて初めて「自分の意志とは無関係に血液を搾取される」という、資本主義の最底辺の恐怖を味わうことになった。

   ◆ ◆ ◆

午前11時。

三軒の献血ルームをハシゴし、物理的にフラフラになった銀河は、リーザに引きずられるようにして次の目的地へと到着した。

「さーて! 献血で胃袋の準備運動はバッチリですね! 次は豪華な『カツ丼』のタダ飯にありつきますよぉ!」

「……カツ丼? カフェか、定食屋……?」

焦点の合わない目で周囲を見渡した銀河に手渡されたのは、メニュー表ではなく、泥だらけの『安全第一』と書かれたヘルメットと、重いツルハシだった。

「はい、ダーリン! 午前の部が終わるまで、あと一時間! 気合い入れて壁用の石材を運びますよ!!」

そこは、ポポロ村の防壁を拡張するための『土木工事現場』だった。

「おっ、新入りか! 細せぇ体してんな! ほら、そこの資材を足場まで運んでくれ!」と、筋肉隆々の現場監督が怒鳴る。

「…………え?」

「ここの現場、お昼まで働くと、日給とは別にまかないの『特大カツ丼』が出るんですよ! さあ、愛とカツ丼のために汗を流しますよ、ダーリン!!」

リーザは自分の顔の倍ほどある岩を軽々と持ち上げ(人魚の身体能力は実は高い)、トコトコと足場へ運んでいく。

取り残された銀河は、目の前に積まれた大量の石材を見下ろした。

(……ふざけるな。僕はアマテラスの息子だぞ。昨日の夜はS級魔獣を消し飛ばしたんだぞ。なんで僕が、ドカタのバイトなんか……っ!)

銀河は、こっそりと指先を動かした。

【空間魔法】か【念動力】で、石材を一気に運んでしまおうとしたのだ。

しかし、その動きを、野生の勘を働かせたリーザがピシャリと制止した。

「ダーリン! ダメですよ! 監督が見てます! 魔法でサボったのがバレたら、カツ丼が没収されちゃいます! 労働の汗こそが、一番のスパイスなんですから!!」

「〜〜〜ッ!!」

完全に退路を断たれた。

銀河は震える手で重い石材を抱え上げ、泥だらけの足場をふらふらと登り始めた。

腕がちぎれそうになる。汗が目に入って痛い。高級ブランドのジャージはすでに泥と砂埃で見る影もない。

(同情を引くための『ドジで可哀想な少年』の演技……? 違う。今の僕は、純粋に限界を迎えているただのモヤシだ……っ)

   ◆ ◆ ◆

正午。

工事現場の隅にある、土埃まみれの鉄パイプの上に座り、二人は分厚いカツ丼を掻き込んでいた。

「はふっ、はむっ! うぅ〜ん、労働の後の肉汁がたまりませんねぇ♡」

「…………」

銀河は、無言だった。

泥だらけのヘルメットを被ったまま、震える手で割り箸を持ち、カツを口に運ぶ。

(……しょっぱい)

汗と涙が混ざったカツ丼は、ただただ塩辛かった。

心理操作? サイコパスの遊戯? 相手を依存させる?

そんな高尚で余裕のある思考は、極限の肉体労働と圧倒的な貧困サバイバルの前に、完全に粉砕されていた。

「銀河君、どうですか? 私とのデート、楽しいでしょ?」

リーザが、泥だらけの顔で無邪気に笑いかけてくる。

その笑顔には、一切の悪意がない。彼女は本気で「これが最高のデートプランだ」と信じて疑っていないのだ。

「……うん。すごく、楽しいよ」

銀河は、完全に光を失った目で、機械のようにカツ丼を咀嚼し続けた。

自分が盤面をコントロールしていると思い込んでいた神の申し子は、図らずも「リーザというブラック企業の社畜」に成り下がっていた。

そしてこの後、さらなる資本主義の波(悪徳商人の襲来)が、泥だらけの二人に容赦なく襲いかかるのだった。

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