表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/31

第3章「強欲の歌姫と、資本主義の愛」

誤算のディナーと、貧乏神の標的

ジュゥゥゥゥゥッ……!!

ポポロ村のファミレス『ルナキン』の特別個室。

熱々に熱された鉄板の上で、分厚いA5ランク黒毛和牛のステーキが、暴力的なまでの脂の弾ける音と芳醇な香りを撒き散らしていた。

「あ、あぁぁぁ……っ! 脂が! お肉の脂が脳髄に直接語りかけてきますぅぅッ!!」

極貧人魚のリーザは、顔中を肉汁と涙と涎でぐしゃぐしゃにしながら、自分の顔より大きなステーキ肉を両手で掴み、猛然と齧り付いていた。

もはや人魚としての可憐さなど微塵もない。何日も飢えを凌いできた野犬のような、凄まじいまでの食い意地である。

「ゆっくり食べていいよ、リーザちゃん。お代わりならいくらでもあるからね」

その対面。

銀河は、アイスティーを優雅に傾けながら、聖母のように柔らかい微笑みを浮かべていた。

(……ダイヤさんの依存は、重くて退屈だ。キャルルさんの無償の愛は、僕の計算を狂わせるバグだった。なら、次は――)

銀河の冷めきった、ひどく歪んだ観察眼が、肉を貪るリーザを値踏みする。

(彼女の行動原理は、極めてシンプルだ。愛だの絆だのという不確かなものではなく、ただ『金と飯』。圧倒的な貧困から来る、生存本能としての強欲さ。……これなら、僕の得意分野だ)

銀河には【無限収納】と【ネット通販】というチートがある。資金は文字通り無限だ。

圧倒的な資本力で彼女の胃袋と生活水準を極限まで引き上げ、僕の金なしでは生きていけない体にする。そうすれば、彼女は一生、僕という絶対的なパトロン(ATM)に縋り付いて生きていくことになる。

「銀河、くぅん……っ!」

二枚目のステーキを平らげたリーザが、油まみれの手を胸の前で組み、目を星のようにキラキラと輝かせて銀河を見つめた。

「どうして、こんなに良くしてくれるんですかぁ? 私、パンの耳と川のメダカしか食べてこなかったのに……こんな贅沢、バチが当たっちゃうかも……っ」

(よし、食いついた。ここで『君の笑顔が見たかったから』とでも言えば、完璧だ)

銀河は少しだけ伏し目がちに、憂いを帯びた表情を作った。

「僕、親に捨てられてから……誰かと一緒に、こうやって美味しいご飯を食べたことがなかったんだ。だから、リーザちゃんが美味しそうに食べてくれるのが、本当に嬉しくて。……迷惑、だったかな?」

「め、迷惑なわけないじゃないですかぁぁッ!!」

ガタンッ! と椅子を蹴り飛ばし、リーザがテーブル越しに身を乗り出してきた。

その瞳には、かつてないほどの熱烈な『愛(物理)』が燃え盛っている。

「銀河君! 貴方は神様です! いや、私のダーリンですっ♡ これからは、私がずーっと銀河君のそばにいてあげますからね!」

「……ふふっ。嬉しいな」

(あはっ。チョロい、チョロすぎる。たかが数万円の肉で、あっさりと僕の所有物ペットに成り下がった。やはり人間なんて、金と欲で簡単に支配できる、単純で愚かな生き物だ)

銀河は内心で高笑いしながら、彼女の濡れた髪を優しく撫でた。

完璧な計算。完璧な支配の完了。銀河は、自分が再び「すべてを掌握する神」の座に戻ったことを確信し、満ち足りた虚無感に浸っていた。

「あ、そうだ! 銀河君!」

食後のデザート(高級メロンパフェ)をかき込みながら、リーザが思い出したようにポンと手を打った。

「これだけご馳走になっちゃったら、私からも『お返し』しなきゃバチが当たりますよね! 明日、私とデートに行きましょう!」

「えっ? デート?」

予想外の提案に、銀河は目をパチクリとさせた。

(デート? ……ああ、なるほど。僕に恩を売って、さらに自分を高く売り込もうというわけか。いいだろう、その浅ましい努力も可愛いものだ)

「うん、いいよ。どこに行くの? 綺麗な景色が見える場所?」

「ふふふっ、それは明日のお楽しみです♡」

リーザはウィンクをして、ビシッと銀河を指差した。

「明日は朝6時半に、広場の時計台前に集合ね! あ、服は汚れてもいい、動きやすいジャージとかで来てくださいね! 絶対ですよ、ダーリン♡」

「……ジャージ?」

銀河は微かに眉をひそめた。

デートで、朝の6時半? しかも汚れてもいい服?

ピクニックか何かだろうか。まあいい、彼女がどんな安っぽいデートプランを用意しようと、僕が圧倒的な財力でエスコートして、さらに彼女の自尊心をひれ伏させてやるだけだ。

「わかった。楽しみにしてるよ、リーザちゃん」

銀河は余裕の笑みを浮かべ、甘い紅茶を飲み干した。

――だが。

哀れな愛の破壊者は、この時、決定的な計算違いをしていた。

彼が【ネット通販】というチートで「金」を得たのと同じように。

リーザという少女もまた、この過酷な異世界のアナスタシアにおいて、常軌を逸した貧困を生き抜いてきた【本物のサバイバー(貧乏神)】であるということを。

圧倒的な資本主義の暴力と、底辺を這いずるドケチの執念。

ポポロ村の静かな夜明けとともに、星月銀河の「完璧なサイコパス・ライフ」を物理的に粉砕する、地獄のモーニング・ルーティンが幕を開けようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ