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EP 8

歪んだ所有欲と、神銃の咆哮

「消えろ。……それは、僕のものだろ」

銀河の言葉は、地獄の底を這うような低い温度を持っていた。

彼の腰から引き抜かれた鈍色のリボルバー――『神銃ガイアリボルバー』。

その銃口が向けられた瞬間、S級魔獣ケルベロスの三つの首が、本能的な恐怖にビクンと跳ねた。

生態系の頂点に君臨する魔犬の野生が、警告の鐘をガンガンと鳴らしている。

『目の前の存在は、生物ではない。触れてはならない、次元の違うバグだ』と。

「グルルルルルゥゥゥッ!!」

恐怖を振り払うかのように、ケルベロスは咆哮を上げた。

三つの顎の奥で、先ほどキャルルを焼いたのと同じ、地獄の業火が限界まで圧縮されていく。辺りの空気が超高熱によって陽炎のように歪み、酸素が奪われていく。

「……五月蝿いな」

対する銀河は、片手でリボルバーを構えたまま、微動だにしなかった。

その整った顔には、一切の感情がない。ただ、道端の汚物を処理するような、徹底した無関心と冷徹さだけが張り付いていた。

「君の火は、もう見飽きた。……僕の玩具ものを傷つけた罪、その魂ごと消滅して償え」

銀河の親指が、静かに撃鉄ハンマーを起こす。

『――認証。対象、S級魔獣。神格OS、制限解除リミット・オフ

『――【神殺しモード】、チャージ完了』

カチリ、という小さな機械音が、天魔窟の最深部に響いた。

同時に、ケルベロスの三つの口から、巨大な火柱が三本束ねられ、空間そのものを溶かしながら銀河へと殺到する。

「消えろ」

銀河が、引き金を引いた。

――――ッ!!

音が、消えた。

銃声すら鳴らなかった。

神銃の銃口から放たれたのは、弾丸ではない。純粋な『破壊の概念』を極限まで凝縮した、白銀の光の奔流だった。

白銀の光は、迫り来る地獄の業火を『燃やす』ことすらなく、触れた端から文字通り『無』へと還していく。

圧倒的、かつ理不尽。

防御も、回避も、生命力も、すべてが無意味だった。

「ギャ、アァァ――――」

光の奔流に飲み込まれたケルベロスの巨体が、一瞬だけシルエットとなって浮かび上がり。

次の瞬間には、骨の欠片も、血の一滴も、悲鳴の余韻すらも残さず、完全に『塵』となって空間から消滅した。

後に残ったのは、天魔窟の岩壁にぶち抜かれた、夜空まで一直線に続く巨大なトンネルだけだった。

「……ふぅ」

銀河は、銃口から立ち昇る硝煙を軽く息で吹き飛ばし、神銃を【無限収納】へと戻した。

風が吹き込み、舞い散るケルベロスの灰が、雪のように銀河の肩に降り注ぐ。

「……ぎん、が……くん」

背後から、掠れた声が聞こえた。

振り返ると、地面に倒れたキャルルが、薄く目を開けて銀河を見上げていた。

彼女の視界は、激痛と出血でもうほとんど霞んでいるはずだった。

「キャルルさん」

銀河は急いで彼女のそばに膝をつき、アマテラスから持たされていた『完全回復スプレー』を取り出そうとした。

しかし、それよりも早く、血まみれのキャルルの手が、銀河の服の袖を弱々しく掴んだ。

「……よかった。……銀河君、怪我……してない、ね」

自分の体が原型を留めないほどボロボロになっているというのに。

このウサギ耳の少女は、自分を守ってくれた銀河の無事だけを確認して、ふわりと、心底安心したように微笑んだ。

「……っ」

銀河は、呼吸を止めた。

「すごい、な……。銀河君は……ドジなんかじゃ、ない……とっても、強い……」

キャルルは、最後の力を振り絞るように呟き。

「もう、安心、だね……」と小さく息を吐いて、パタリと意識を手放した。

「……キャルルさん」

銀河は、気絶した彼女の手を、無意識に強く握りしめていた。

完全回復スプレーを吹きかければ、彼女の傷は一瞬で治る。

けれど、銀河の胸の奥に生まれた『理解不能なバグ(温もり)』は、スプレーごときで消し去れるようなものではなくなっていた。

(……僕が弱いから、同情したんじゃないのか。僕が強いって分かっても、君は安心したように笑うんだな)

僕の嘘も、計算も、醜い執着も。

彼女の純粋すぎる愛の前では、すべてがちっぽけで、意味のないものに思えてしまう。

「……やれやれ、参ったな」

誰もいない天魔窟に、銀河の自嘲気味なため息が溶けていく。

「君の愛は乱暴すぎて……どうやって壊せばいいのか、分からないよ」

銀河は、血まみれのキャルルの体を、そっと大切に抱き上げた。

愛を壊すことしか知らなかった少年が、初めて他者の愛を『壊したくない』と願った、静かな夜だった。

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