→←↑↑↓↓→←(3)
続きです。
安そうなテーブルの上に三本の2リットルペットボトルが陣取る。
ジュース系が二本にお茶が一本だ。
で、そのわきには山盛りのお菓子類。
種類は様々で、山に埋もれて“その中にある”ということ以外は確認できないお菓子もある。
「なんか……ずいぶん買ってきたね……」
異常な量のご飯を飼い主に出された猫のような気持ちになって、喜びとかよりも困惑が勝る。
ただでさえ散らかった印象だった部屋が、更に雑多な空間になってしまった。
「この量……6人で食べるとしても多いわよ」
「まぁまぁ、別に余ったらお客さんにばら撒くとかすればいいさ」
この大量のお菓子を購入してきたスバルは額の汗を拭うようにしてさくらの言葉に適当に答える。
そして早速お茶のキャップを開けて、それをお茶やお菓子と同じように買ってきた紙コップに注いで飲んだ。
「ふぅ……さて、場所も整ったことだし、いいかげんここに君たちを呼んだわけを話そうか」
買ってきた者として意識的に先陣を切ってるのか、それとも何も考えてないのか、スバルはお菓子の袋を開けてドカっと椅子に腰掛ける。
今のところスバルの後に続いてお菓子に手をつけるのはどらこちゃんだけだった。
私は遠慮してるわけじゃないけど、話の内容の方が気になるから手を伸ばさない。
「それで、このライブに……いったいどんな意味があるの?」
スバルに向かって答えを促す。
しかし、それに答えたのはコンビニで買ってきたのであろうアイスを食べながら帰って来て、今なおそれを食べ続けていたアリスだった。
「ライブにはライブ以上の意味は無いよ! 私が歌って、お客さんが楽しむ! みんなが私に魅せられる!」
「……と、まぁ……アリスのライブに関してはそういうことなんだが、今回僕はその場を利用させてもらう。ユノに使われてたときのノウハウが一応あるからね、それと同じ手をアリスの場を借りてやるだけだ」
スバルはアリスの言葉に付け加えるように、自らの計画について話し出す。
あくまでこちらはこの機会を借りるだけ、ということのようだ。
「それで、結局ユノさんとかのときはどうしてたんですか?」
聞かれずとも話すつもりではあるのだろうが、スバルへの質問は止まない。
無意味にもったいぶった罰ということだろう。
スバル自身もそのことを理解しているようで、みこちゃんの問いにすぐに答える。
「こっちの方で能力者と非能力者を判別する方法は既に開発済みだったからね、あとはミラクルのライブで人を集めて確認する……言ってしまえばそれだけのことさ。今回、アリスのライブでも同じことをする。ステージの上側にそれ用のカメラは設置済みだ。それで判別した能力者には個別に監視を追跡させて、その能力を明らかにしてから仕掛ける。ま、卑怯と言われてしまうかもしれないが、勝負とはそういうものだ」
「そ、そういうものかニャ……?」
スバルの考えていたことがこうして明らかになったわけだが……。
ほんとにこの人は普通の人が超えちゃいけないと思うようなラインを平気で超えてくる。
卑怯とかそれ以前に……。
「プライバシーとかどうなってんのよソレ……」
「どうなっているかと言えば、まぁ……どうにかなってるってことで……」
咎めるさくらの言葉に、真面目なのか不真面目なのかも分からない答え方をするスバル。
ただライン越えの自覚はあるようであんし……いや、ライン分かってて越えるのはよりやばい人か。
「まぁ言い訳はしないさ。君たちにとって好ましいやり方じゃないのは承知してる。でもこれが僕のやって来たことだし、一番確実だ。もう改名戦争に対する個人の志や願いを尊重していられる状況では……もうない」
片手間にお菓子を食べながら言っているにしては真っ直ぐな眼差し。
ずっと事態を気に病んできたスバルだからこそ言える言葉だ。
「なるほどね……」
その意思や気持ちも、今なら分かる。
汲み取れる。
この言葉を非情なものだからと一蹴するには、私たちはもうスバルという人間を知りすぎていた。
しかし……。
ゴローの顔を一瞬見て、そして心を決める。
私とゴローの“初志”を、最初に交わした約束を無かったことにするつもりはない。
だから……。
「分かった。じゃあこのことに関してはどう転んでも私が責任を取る。全部私のせいでいいから、だから……私たちがするのは判別まで! そこから先の追跡だのなんだのはナシにしよ! それで勝率が変わるとしても、お互いの能力が分からないまま、フラットなまま戦う!」
目的のために手段を選ばないのであれば、それはあの頃のユノが行っていた道と変わらない。
そんなことしてたらいつか正義の味方がやって来て私を成敗しちゃう。
「きらら……」
私の宣言に、さくらが意外そうな眼差しを私に向ける。
ゴローですら一瞬驚いていたようだけど、そのあと小さく頷いた。
「ボクも、それで……いや、それがいいと思うニャ! 大丈夫ニャ、いつのまにかこんなに強くなってたきららなら、きっと誰にも負けないニャ!」
「き、君らねぇ……」
混沌を終わらせるという大義の前に、そういった拘りを持ち込むべきではないという考えのスバルは私の言葉に反論しようとする。
合理的じゃない私の言葉には、いくらでも反論の余地があるだろう。
「はぁ……全く、かなわないな」
しかしスバルはその全てをため息で飲み込んだ。
スバルもまた、私のカッコつけを一蹴するには私たちを知りすぎているのだ。
「分かった。君たちを信じよう」
「ふふん! 私は最初から信じてたけどねん!」
アリスは嬉しそうに笑顔を咲かせながら、私の後ろから肩を抱く。
「あ、ちょっと! あんた何してんのよ! 離れなさいよ!」
「へへーん! きーらら、私のステージを汚さないでくれてありがとーねー!」
「あ、えと……うん」
椅子から立ち上がってキレるさくらをよそに、アリスは私の耳元で甘い声を囁く。
今にもさくらはアリスに殴りかかりそうだが、なんだか小恥ずかしいのとその声がくすぐったいのとで私はそれどころじゃなかった。
スバルは一触即発な二人を気にする様子もなく、付け足す。
「それから、今はゲームの対戦相手もネットで募集する時代だ。後でアリスの宣伝動画を動画投稿サイトにアップするから、そこでも対戦者を募集するつもりだ。“アリスの親衛隊に勝利して握手権を手に入れよう!”みたいな具合にね。あとはそこに能力者や改名戦争を匂わせる内容を併記しておけば、まぁ来るんじゃないかってことで」
「「えぇ……」」
みんなの声が重なる。
その内容だとなんの事情も知らない一般人とも戦うことになりそうなんだが……。
「まぁうまいことやるさ」
こっちの試みに関してはスバルもだいぶ適当なスタンスみたいだ。
何はともあれ、また忙しい日々が始まりそうだ。
続きます。




