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続きです。
数日後、私たちはスバルに招待されたライブに訪れていた。
「ライブって……これ?」
ミラクルの壮大なステージを見た後だったから、てっきり今回も広々としたコンサート会場みたいなところだと思ってたけど……。
「う……」
スバルに連行されたのは、こぢんまりとしたライブハウス。
どことなくアンダーグラウンドな雰囲気が漂うそこは、なんだか私たちが来ていいような場所じゃない気がして正直居心地が悪かった。
「わぁ、わたし……こういうところ初めてです!」
若干怖気付いている私とさくらをよそに、意外にもみこちゃんはその濃密な空間を興味深そうに眺めている。
どらこちゃんはよく分かってないみたいで、特になんとも思っていないようだ。
「いやぁ、ちょっと遠くて悪かったね。今夜ここでライブがあるんだ。まぁそれまで暇だから、上の控室で休んでいよう」
まだ私たち以外誰の姿も無いライブハウス。
スバルはその2階に私たちを案内する。
通れればそれで充分とでも言いたげな、本当に必要最低限の幅しかない通路。
照明も最低限で、まだ日は高いはずなのに既に薄暗かった。
「なんか……ここ、本当に私たちが来ていいような場所なの?」
簡素な階段を登りながら、先頭を行くスバルの背中に尋ねる。
スバルはそれに苦笑して答えた。
「そう身構えることはないよ。イナカの小さいライブハウスだから、変な人もあんまりいないよ。それに今夜は君たちもよく知る人のステージだ。君らの顔が見えたらきっと喜ぶよ」
「……私たちも、よく知る人……」
さっきチラッと見ただけのステージの様子を思い出す。
照明とか音響とかはたぶんちゃんとしたもので組まれているのだろうが、お世辞にも立派なステージとは言いがたい。
まぁミラクルは別にこのステージで歌うことも厭わないだろうけど、彼女がパフォーマンスするにはやっぱり狭すぎる。
集まるお客さんの10%も入りきらないだろう。
となると、あとは私たちの知る音楽関係の人は一人だけだ。
「ちょっとスバル! ていうか今から夜まで待つの!? それなら集まるのだってもっと後でよかったじゃない!!」
「まぁまぁ……」
さくらの文句を躱しながら、スバルは階段を登り切る。
そして登ったすぐ先にある、うちの学校の体育倉庫のものと大して変わらないような簡素なドアのノブを回す。
スペースが狭いのに外開きだから窮屈そうだ。
さて、そしてそのドアの中から待ち侘びていたとばかりに顔を覗かせたのはやはり……。
「やほ! 久しぶり……でもないかな? みんなのアイドル、アリスちゃんだよ! みんなも私に会いたかったかな?」
水色のスカートの裾がひらりと翻る。
自信に満ちた可愛らしい表情の上で、ウサギの耳みたいなリボンがぴょこんと跳ねた。
「あー、はいはい……アリスね」
さくらはその登場に「分かってましたよ」とため息を吐く。
どらこちゃんも「よっ」と片手を上げるだけの非常に簡単な挨拶だ。
「アリスちゃん! あのときはお世話になりました!」
「いーのいーの! 私も楽しかったしね!!」
唯一丁寧にお辞儀をしたみこちゃんに、アリスは朗らかに微笑んで指先をひらひらさせる。
そして一転、私たちを見て腰に手を当てると不満気に頬を膨らませた。
「それに比べて……君たちは世界一……の座はミラクルちゃんに譲るとして、世界で二番目に眩しいアイドルを前にしてもっと驚きとか感嘆とか、そーゆうのはないのぉ!? もう、冷たいんだから!」
「あ、あはは……それは、ごめん。けど、私たちもまぁあらかた予想はついてだっていうか……」
「ちぇー……」
アリスは私の額をつんと人差し指で小突く。
しかしそれで満足したのか「うん」と頷いて、部屋の内側に身を引いた。
「ま、いいや! それはそうと、私のステージにようこそ! 今夜は楽しんでって、絶対退屈させないから!」
相変わらずのアイドル力(?)に眩しさすら覚える。
さくらはその眩しさに目を細めて、それが気に食わないみたいな表情になってしまっている。
まぁそれはそれとしてさくらもちゃんとアリスを認めていることを私は知ってる。
そうしてゾロゾロと控え室に入っていく。
折りたたみ式のテーブルが壁側に寄せられた簡素な部屋。
そのテーブル以外には教室にあるような椅子が重ねて置いてあるくらいだ。
スバルは部屋に入るなり我が物顔で折りたたみテーブルを広げて、椅子も並べる。
私も手伝った方がいいかと思ったが、なにぶん初めてくる場所故に勝手に触っちゃっていいのかという不安が払拭できず、結局みこちゃんがいち早く手伝いに行くまで行動に移れなかった。
最初から広くもなかった部屋にテーブルと椅子が広げられて、いよいよ“狭い”になる。
全てのモノの配置が場当たり的で、物の数や種類が多いわけでもないのにやたら散らかった印象を受けた。
「それで結局……あたしたちはなんでアリスのライブに呼ばれたんだ?」
テーブルや椅子を用意したものの、空気感のせいか誰も座らない。
そんな中、どらこちゃんはずっとみんなの中にある疑問を口にした。
ところがスバルは……。
「まぁ待ちなって」
まだもったいぶる。
「まだ君たちがあまりリラックスできていないようだからね。話の内容に関わらず、話をするのに適切な空間ってものがある。ちょっと近くのコンビニで飲み物なり食べ物なり買ってくるから、君らはここで休んでてくれ。アリス……とゴローは荷物運びに着いてきてくれ」
「りょーかいっ!」
「ボクもかニャ!?」
そうして、スバルはゴローの首根っこをつかまえて部屋を後にしてしまう。
アリスも「じゃね」と手を振ってスバルの後ろに続いた。
「……」
かくして、慣れない空間に私たちだけ取り残される。
「えと……とりあえず、座る?」
「そ、そう……ね」
スバルに対して言いたいことは色々あるが……とりあえず、今日の主役を買い出しとかいう雑用に連れていくなよ……。
続きます。




