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きらきら・ウォーゲーム  作者: 空空 空
きらきら・グラデーション
549/554

ランチタイム(29)

続きです。

「食べ物が……喋った?」

「う、笑わないでくださいよ? わたしだって、そんなの変だってちゃんと思ってるんですから……。でも、本当なんです……」

「いや、ごめん。少し驚いただけだ。その、あまりにも……まぁ奇抜、ではあったから……」


 ついにみこの口から告げられた真実に頭を掻く。

アンキラサウルス……例の怪物のことだが、どうやら今まで出会してきたタイプとはかなり性質が異なるようだ。


「食べ物が喋る、ねぇ……」


 みこが真実を語ってくれればなんとかできるとばかり思っていたが、みこの視点で起きていたことの全貌が明らかになっても事態の真相は明らかにならない。

聞き出すだけ聞き出しといて情けない姿を晒してしまっている。


「その、喋るって……例えばどんなことを? みこに、“それ”は何かをさせようとしてるのか? それとも、何かをさせないようにしてるのか? それこそ……」


 “食べるな”と、そう言っているのだろうか。

だからみこは……。


 みこは神妙な面持ちで俯くと、その眉をひそめる。

この話のために思い出したくないことを思いださせてしまっているみたいだ。


「……最初に喋りだしたのは、あの……給食のときでした。配膳のとき、スープの底から浮き上がってきた具材に……突然、目と口が浮かび上がって……」


 みこは記憶の中の光景から目を逸らすように視線を斜め下に向けるが、彼女自身の頭の中に呼び起こされているそれから逃げることは当然できない。

あたしもその言葉通りの光景を脳裏に描いてみたが、ゾッと背筋に悪寒が走るような強烈な嫌悪感があった。


「給食のときも、お家でのご飯のときも、それが言うんです。わたしの目を覗き込んで“食べないの?”って」

「食べないのってことは……つまりそいつは自分をみこに食べさせようとしてるってことか?」

「それは……すみません。分かんないんです。わたし以外には普通の食べ物に見えるみたいですし、わたしもずっと食材がそういう姿に見えるわけじゃないんです。だから、もしかしたらおかしくなってるのはわたしの方なんじゃないかって思って頑張って食べてみたんですけど……どうしても気持ち悪くって……」

「それで、今日は吐いてしまった……と」


 あの給食のとき、確かにあたしもみこの椀の中を確かめた。

中にあったのは当然顔つきの食材なんかではなく、ただの普通のスープだ。

ましてや給食当番の盛り付けの段階で見えていたのだから、仮に食べ物自体が得体の知れない何かに変わっていた場合あたしや他のクラスメートも既にそれを食べていることになってしまう。

そうなるとずっとみこにだけ問題が起きているというのはおかしい。


「……」


 顎に手を当てて、しばらく思考にふける。

ただあたしのおつむじゃ仮に日々の授業を真面目に受けていたとしても答えは出せなさそうだ。


 仮に幻覚のようなものを怪物が見せているとして、そしたらそいつは近くにいるはずだろう。

なのにあたしがその姿を見つけられない。

それにこんなことをしてそいつになんの得があるのかも分からない。


 いや、それを言ったらそもそもアンキラサウルスという怪物が何故人を襲うのかも分からないのだが、それにしたって今の状況は奇妙だ。

ただ、まぁ……。


「みこ、とりあえず……これを受け取っておいてくれないか?」

「これ……は?」


 みこに能力で生成したオレンジ色の卵型の石を手渡す。

あたしの炎が宿っているのでほんのり暖かい。


「これは、まぁ……言ったらなんかの受信機みたいなもんだ。あたしと繋がってて、それを持って念じればあたしにみこのSOSが届く」


 この手のものを作ったのは初めてだが、なんとか上手く出来てよかった。

怪物は必ずみこの近くにいるはず、だったら一番見つけられる可能性が高いのはみこだ。

相手の目的や正体は分からないが、そいつが“いる”なら倒せる。

こと倒すことにおいてのみは、あたしの得意分野と言えるだろう。


「いいか? これから……みこに今までみたいなおかしなことが起こったら、周りを観察してみてほしい。必ず、どこかにはその元凶がいるはずなんだ」

「元凶……」


 みこはあたしの渡したオレンジの卵を胸の前でぎゅっと握ってゴクリと唾を飲む。

その表情は緊張感にこわばっていた。


「すまんが、あたしとしても正体が掴めないんだ……。だからみこが、探して、見つけて……その石であたしに伝えてほしい……」

「わ、わたしが……」


 みこにはあたしと違って怪物と戦う力は無い。

それどころか、おそらく気弱なくらいの女の子だ。

きっと恐ろしいだろう。

怖いだろう。

なのにその瞳には既に覚悟の色が灯っている。

みこの瞳が映したあたしの託したオレンジ色が、まるで瞳の中で炎を燃やしているようだった。


「わかりました! やります! 見つけてみせます! こんなこともう終わりにして、そしたら……一緒にご飯、食べましょう!!」

「……ああ」


 みこの姿にむしろあたしが勇気づけられる。

見た目より強い心を持った少女を前に思わずくすりと笑ってしまう。


 タイムリミットは、正直そう長くない。

これを解決しないことには、みこはずっとちゃんとした食事はとれないだろう。

弱みを見せまいとはしているが、体はもう辛いはずだ。

だから、必ずその尻尾を掴んでみせる。


 その日は、みこ母にも全てを伝えた後にみこの家を後にした。

みこを抱きしめる母の不安そうな表情を見てしまっては、あたしも気を抜くわけにはいかない。

だって、ああいう顔が似合う人じゃないから。


 決意を手のひらに握りしめて、闘争心を炉にくべる。

あたしの炎は、この身中に静かに、しかし力強く燃え上がった。


続きます。

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